疲れきったベテラン刑事デル・トロに期待値MAX
今回紹介するNetflixオリジナル映画『レプタイル -蜥蜴-』については、事前に予告でデル・トロ指数をチェックした。
……めちゃくちゃに疲れきっている! 今すぐ休職を申し出てもおかしくないくらいに。もしくは模試の結果が絶望的だった受験生ばりに。
これは間違いなくおもしろい。
――若い不動産業者がめった刺しで殺される事件が発生し、ベテラン刑事のトム・ニコルスは捜査を開始。しかし捜査を進めていく中で、同僚の不手際によって銃撃戦が発生、容疑者を射殺してしまう。トムは謹慎処分となり1日中家で落ち込んでいたが、簡単な精神鑑定で早々に復帰。おまけに、それまでに見つけていた被害者の不倫関係、犯行に使われた車の情報についても捜査されないまま、事件は解決の方向に向かう。
捜査を続けたい意志をトムが示すと、同僚がロレックスの時計をプレゼントしようとしてくれたり、若い女性をあてがおうとしてくれる。もちろん即答でお断りするが、今度は警察の上の方から復職どころか勲章と賞金まで与えられることになる。
いや、おかしいやん。きな臭い匂いを感じたトムは単独で捜査を続行。やがて裏にある巨大な陰謀を目の当たりにする。
警察の同僚、麻薬捜査官、イケイケ不動産会社の社長。誰が味方で誰が敵か分からない状況は、休日には家で寝ているような中年刑事にはキツい。このまま黙って引き下がるか、気合を見せるか。トムの出した答えは……。
くたびれたデル・トロからしか得ることができない“養分”がある
デル・トロ演じるトムは劇中での評判から確かな腕があるようだが、正義感が強すぎるあまり警察内の不正にも切り込んだ結果、どうやら組織での評価は低い。トムの妻いわく、車に「密告者、裏切り者」と落書きをされるなど陰湿な嫌がらせを受けていたらしく、家に引きこもっていた時期もあったらしい。
その証拠に、ジョークを言う時もダンスを踊る時も安定して、目が陸に打ち上げられた魚のように曇っている。もちろん仲間が主催するパーティーでの居場所は常に隅っこだ。昇進など見込めない、くたびれた中年。最高じゃないか。
うまくいかないのは仕事だけじゃない。家の水道工事は進まないし、心身共に支えてくれている妻に水道業者の小僧がちょっかいをかけてくる。我慢の限界にきたトムが「(俺の妻は)いい女だろ? 覚悟はあるか? 手を出すなら命は覚悟しろよ」と静かにキレるシーンは必見だ。たとえ本筋に全く関係なかったとしてもだ。
ちなみに終始くたびれているトムだが、結婚して数十年は経っているであろう妻との関係は良い。是非とも参考にしたい。劇中、捜査を続けさせてもらえず八方ふさがりのトムが、意を決して妻に言うセリフが素晴らしい。
「俺には君と同じくらい愛していることが一つだけある。警官の仕事だ。向こう(警察)が愛していなかったとしても」
署内のはみ出し者で、目が曇っているどころかその下の涙袋もダルンダルンのデル・トロが言うからたまらない。疲れきったデル・トロからしか得ることができない“養分”が確かにあるのだ。
はっきり言って、ほったらかしの伏線や、何より犯人の目星が早い段階でつくのでサスペンスとしてはつらいところもあるのだが、どんよりした表情でPCの画面を睨む姿は、俺のような残念な中年に勇気を与えてくれる。
くたびれたあなたに是非ともオススメしたい一本です。
文:デッドプー太郎
Netflix映画『レプタイル -蜥蜴-』独占配信中