ただプラバースをマス・ヒーローとするために
本作は、ラージャマウリ監督にとってはデビューから4作目、プラバースにとってはデビューから6作目の作品となります。ラージャマウリはまだ今日のようなカリスマではなかったものの、それまでの3作すべてがヒットしており、気鋭の若手でした。プラバースの方は、『Varsham』(2004年、日本未公開)がヒットを記録したものの、それ以外は今一つで、突破口を求めている状態でした。
ラージャマウリは後から振り返り、「プラバースのもつマス・ヒーローとしてのポテンシャルはまだ充分に生かされていなかったので、それを確立させることを第一に考えた」と述べています。つまり、これはマッチョなアクションを最大の見せ場として、民衆からの支持を背に屹立する神のごとき主人公像を打ち立てるということと解釈できます。
On the sets of ' Chatrapathi , 2005 '#Prabhas I @ssrajamouli I @PeterHeinOffl
— TeluguCinemaHistory (@CineLoversTFI) February 12, 2020
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こうした意図から、本作はラージャマウリ作品にしては珍しい、マス映画の定式に則った作り方がされています。成長した主人公が画面に登場してすぐに、敵対する密輸業者の小ボスに「こいつが死ぬはずがない。なんたってヒーローだからな」と言わせて、フレームをしっかりと組みます。そしてこの小ボスを皮切りに、グレードアップして登場する敵たちを次々と倒しながら、ラスボスと対決するクライマックスへと物語は進みます。
2005 Chatrapathi We Witnessed the Peak of Mass
— Prabhas Trends (@TrendsPrabhas) September 30, 2023
2023 #Salaar loading to redefine existing definition of Mass #18YearsForChatrapathi #Prabhas pic.twitter.com/wl9Cjs31qO
歌は7曲もあり、そのうち2曲にはアイテムダンサーが登場してセクシーな魅力を振り撒きます。ヴェーヌ・マーダヴによるコメディー・トラックは本筋とは無関係に弾け、お間抜けな馴れ初めで登場するヒロインですら、コメディアンに数えてもいいくらいです。そしてガンジス川の聖水を入れた壺やシヴァ神の法螺貝をかたどったペンダントなど、宗教的なニュアンスを持つ小道具が、「運命に選ばれたヒーロー」をドラマチックに盛り立てます。
荘重なテーマ曲はゲームから?
こうした宗教的な箔付けは、オープニングロールからクライマックスまで繰り返され、主人公を叙事詩<マハーバーラタ>のアルジュナとビーマにたとえるテーマソングにも見て取れます。
この「Agni Skalan」という曲は、前年に発売されて世界的に流通した「ミストIV:リヴェレーション」というゲームのメインテーマ曲に重度に影響されていることが話題になりました。
この頃はこうした“インスパイア”はごく普通のことで、これに酷似した旋律は、7年後に公開のラーナー・ダッグバーティ主演『Krishnam Vande Jagadgurum』(2012年、日本未公開)の「Jaruguthunnadi」という楽曲にも見られます。いずれもヒンドゥー教の世界観を色濃く映すこの2曲、聞き比べてみるのも面白いです。
文:安宅直子
『チャトラパティ』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「ハマる!インド映画」で2023年10月放送
https://www.youtube.com/watch?v=R65ik0NMgKo