「僕の過去作に出てきたセリフや小道具などをチラ見せしているんだ。その理由は…」
―本作の製作のきっかけはヒッチコックとのことですが、映画化したいと思った大きな要因は?
僕は映画を撮ることが大好きなんだけど、昔から手品も好きなんだ。披露したときにみんなが驚いてくれる感じが良いよね。この映画は、ある意味「映画作りについての映画」でもあって、ただし最初に観たときにはそうとは思われない、そんな映画なんだと思うよ(笑)。
映画を作る/観てもらうという行為は、ある種「催眠をかけている」のと同じことだと思う。しかも、映画の場合はみんなチケットを買ってくれるから、「催眠にかかりたい」と思って来てくれているし、脚本があって役者が演じていることも分かっているけれど、作品の世界を信じて怖がったり笑ったりしてくれて、気に入れば周囲にクチコミで広げてくれたり、人によっては壁にキャラクターのポスターを貼って崇拝したり、なんてことすらある(笑)。
僕にとっては「これは映画作りについての映画ですよ」と言わなくても作れることも大きな魅力の一つだったし、観客のみんなが登場人物たちと同じように様々なサプライズに遭って、同じように催眠下に置かれる状況、それを味わってもらえるんじゃないかってことも魅力的だったね。
―現実のように見える世界を想像力や特殊能力を駆使して描き変えるというコンセプトや、完成した本作を観ると、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(2010年)やMCUの『ドクター・ストレンジ』(2016年)など、様々な映画を想起させるところがありました。本作の世界観に影響を与えた作品は?
やはり何と言ってもヒッチコック作品に一番インスピレーションを受けているね。あと実は、視覚的にもセリフ的にも僕の過去作、たとえば『デスペラード』(1995年)と同じジョークが出てきたり、他の過去作に出てきた舞台設定などをチラ見せしたりもしているよ。
なぜかと言うと、それに気づいた人が「これって、もしかして虚構の世界なのでは?」と考え始めるヒントにもなっているんだ。つまり、この虚構世界をプログラミングした催眠術師が映画好きで、だからセリフや小道具などに“ポップカルチャーのデジャブ”が散りばめられているっていう、そんな世界観なんだよね(笑)。
「キャメロンともしょっちゅう『アリータ2』の話をしているよ」
―最近、日本や韓国でも特殊能力をテーマにした映画やドラマが増えています。監督のお気に入りの「超能力/特殊能力」作品を教えてください。
デヴィッド・クローネンバーグの『スキャナーズ』(1981年)は大好きだね。当時ポスターを見て、この映画は一体なんなんだ!? と思ったよ(笑)。
映画は自由な創作の場を与えてくれるし設定にルールもない。やっぱり制限がないということは、造り手にとってはすごく魅力的なことなんだ。みんな映画館では席に座って作品を観るけれど、それはある意味、観客を“捕らえた”状態になるわけで、しかも映画にはルールも物理法則も関係なく、つまり何でもアリ。観客を虜にできて、そのうえ自由だなんて、すごく魅力的なことだ。だから“ワクワクさせてくれるような作品”が好きだね。
―主演のベン・アフレックとの仕事について教えてください。
ベンは最高だったよ。ヒッチコック映画はスター俳優を配しながらも、演じるキャラクターは“エブリィマン(ごく普通の人)”であることが多いんだ。『めまい』のジェームズ・スチュワートや『北北西に進路を取れ』(1959年)のケーリー・グラントだったりね。『ドミノ』でも同じ方程式を用いていて、観客はスター俳優であることはわかっていてもキャラクターに感情移入しやすくなるんだ。
まさにベンはそういった資質を持ち合わせていて、大スターでありながらファミリーガイ(※家族思い)であることも伝わってくる。彼が本作で、「必ず娘を見つけ出す」という強固な思いを持っている刑事という側面と、家族をとても愛している柔らかな側面、その両方を感じさせてくれることは分かっていたし、普段の人柄も最高だよ。
そしてもう一つ、僕たちはお互いに90年代の低予算映画、DIYでスピーディに撮影するタイプの作品に慣れていたことも大きかったね(笑)。コロナ禍で撮影期間が20日間も少なくなってしまったんだけど、「じゃあ昔のスタイルでやろうぜ」ということで、僕らのルーツであるインディー的な“どんどん撮る”手法で楽しみながら撮影を進めて、ベンもそれに大いにノッてくれたんだ。もちろん役者としては1日に演じるシーンが増えるし感情表現も大変だったと思うけれど、逆にそれも良いエネルギーとして本作から伝わってくるんじゃないかな。
―監督は『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)の続編製作にも乗り気だと報じられていますが、日本のファンに現在の状況を教えていただけますか?
日本には今年の3月に訪れたんだけれど、みんながどれくらい『アリータ』を愛しているか肌で感じられたよ。そもそも『アリータ2』を撮る気は満々で、ジェームズ・キャメロンともしょっちゅう続編の話をしているんだ。製作会社が変わってしまったことで権利関係の問題が少しあるけれど、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』も好評だったことだし、僕は『スパイキッズ』の新作の公開が控えているので、その後あらためてキャメロンとしっかり話していこうと思っているよ。
『ドミノ』は2023年10月27日(金)より全国ロードショー
『ドミノ』
刑事のダニー・ロークは、最愛の娘の行方不明に心身のバランスを崩しているが、正気を保つために仕事に復帰。そんな彼のもとに、銀行強盗の予告のタレコミが入る。現場で不可解な動きをする容疑者が、娘の行方に関与している手がかりを見つけたロークは、ふたりの警官を伴って屋上まで男を追い詰めるも、警官は突然暗示をかけられたようになってお互いを撃ち殺し、男は屋上から飛び降り姿を消す。決して捕まえられない男を追い、現実と見紛う〈世界〉に踏み込み追い詰められていくロークはやがて――。
監督:ロバート・ロドリゲス
脚本:ロバート・ロドリゲス マックス・ボレンスタイン
出演:ベン・アフレック アリシー・ブラガ
ジャッキー・アール・ヘイリー ウィリアム・フィクトナー
制作年: | 2023 |
---|
2023年10月27日(金)より全国ロードショー