『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996年)から『シン・シティ』(2005年)、『マチェーテ』(2010年)、そして『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)や『マンダロリアン』(2019年~)まで、常にジャンル映画ファンのハートを掴んできた名監督ロバート・ロドリゲス。『スパイキッズ』シリーズ(2001年~)など作風の幅広さにも定評のあるロドリゲス監督が、長年あたためていたという脚本をついに映像化した。
ベン・アフレックを主演に迎えた最新作『ドミノ』は“催眠”をテーマに、ある刑事と謎の組織とのスリリングな攻防を描いたトリッキーなSFサスペンス&ミステリー。このたび本作の日本公開を前に、ロドリゲス監督がインタビューに応えてくれた。数十年前の脚本を今なぜ映像化したのか? そして“催眠”というテーマの理由とは……?
「制作のきっかけは…ヒッチコックのファンだったから」
―“超能力者を中心に据えたシリアスなストーリー”はロドリゲス監督作では初めてだと思いますが、今作の制作に至った経緯は?
もともと(アルフレッド・)ヒッチコックのファンだったんだけど、彼の作品って思ってもいないような比喩なんかが多くて、作品名はワンワードのものが多いよね。ちょうど20年くらい前に『めまい』(1958年)がリマスターされて、アメリカでも改めてその価値についてディスカッションされたんだ。この作品のタイトル(『ドミノ』/原題:ヒプノティック)もワンワードだし、ミステリーだし、予想もできないことがいろいろと起こる。
もしヒッチコックがもう10年生きていて、ワンワードなタイトルの作品を作ったとしたら、どんなものだっただろう?ってなんとなく自問したんだけど、そこですぐに出てきたのが「ヒプノティック」だった。そう考えたとき、“まったく捕まえられない敵”という存在を示している、と考えたんだ。クルマとか口座とかが盗まれたとしても、こっちには敵が“見せたいもの”しか見えていないんだから当然、気づけないよね。そういった完全犯罪的なキャラクターたちがいて、でもそれに気づいて追う刑事がいたらどうか? そして世界には“ヒプノティックス”が全体の2パーセントくらいいて……みたいなことから考えはじめたんだ。
オープニングの銀行のシーンや、ベンがハサミを持つシーンなどは20年前、いちばん最初のブレインストーミングの時点で出していたアイデアだ。まだ脚本は書いていなかったんだけどね。だから「最初のきっかけは?」と問われたら、それは「ヒッチコックのファンだったから」だね。
「自分の見ているものが“本当なのか?”と分からなくなってしまう時代は過去になかった」
―すでに2002年には脚本のベースは出来あがっていたそうですが、常に映画化したいと考えていたのでしょうか? また「ヒプノティック(催眠)」という題材が2020年代に、どのように響くと考えましたか? いま映画化に踏み切った理由を教えてください。
最初にアイデアを出してから、間接的にずっと作業はしていたんだ。最初の12年間でストーリー自体は変わっていったんだけど、さっき言った銀行のシーンなんかは、ほぼそのまま全部残っていた。後半~エンディングに関しては、僕自身がもう少し人生というものを経験しなければ書けなかったんだと思う。なぜならこの映画のテーマが帰結するところは、やはり家族/家族の絆なんだ。そこに達するのに、当時はまだ僕の人生経験が足りなかったんだろうね。だから2015~2017年くらいのバージョンの脚本は、ほぼ撮影稿に近いものだったよ。
不安に関しては一切なかったね。むしろ当時より今の方が、この映画のテーマに通じるものがあると思うよ。だって今この時代ほど、自分の見ているものが「本当なのか?」と分からなくなってしまっている時代はなかったわけで(笑)。まあ、この脚本に関しては、ずっと興味を引き立たせてくれたからこれだけ長く続けることができたし、近年はオリジナル脚本の作品を作るのが難しいんだよね、とにかく“IPもの(※原作あり)”ばかりで。そんな中で、自分だけのオリジナルアイデアの企画が生まれたならば、それはもう映画作家としては作らざるを得ないんだ、どうしたってね。
『ドミノ』
刑事のダニー・ロークは、最愛の娘の行方不明に心身のバランスを崩しているが、正気を保つために仕事に復帰。そんな彼のもとに、銀行強盗の予告のタレコミが入る。現場で不可解な動きをする容疑者が、娘の行方に関与している手がかりを見つけたロークは、ふたりの警官を伴って屋上まで男を追い詰めるも、警官は突然暗示をかけられたようになってお互いを撃ち殺し、男は屋上から飛び降り姿を消す。決して捕まえられない男を追い、現実と見紛う〈世界〉に踏み込み追い詰められていくロークはやがて――。
監督:ロバート・ロドリゲス
脚本:ロバート・ロドリゲス マックス・ボレンスタイン
出演:ベン・アフレック アリシー・ブラガ
ジャッキー・アール・ヘイリー ウィリアム・フィクトナー
制作年: | 2023 |
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2023年10月27日(金)より全国ロードショー