• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • ディカプリオ×デ・ニーロ×スコセッシが先住民連続殺人事件と“恐るべき人間の本能”暴く『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

ディカプリオ×デ・ニーロ×スコセッシが先住民連続殺人事件と“恐るべき人間の本能”暴く『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#斉藤博昭
ディカプリオ×デ・ニーロ×スコセッシが先住民連続殺人事件と“恐るべき人間の本能”暴く『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』 画像提供 Apple
1 2

デ・ニーロとディカプリオがスコセッシ作品初共演! リリー・グラッドストーンの存在感も白眉

しかし全体を通して、じわじわと、そして強烈にインパクトを与えるのは、信頼する相手によって、いとも簡単に心を操られる人間の本能。一見、人の良さそうなウィリアムの指示によって、アーネストは善悪の区別も消えた行為に手を染め、さらに周囲にも悪行を蔓延させていく。まるで、洗脳。

オセージ族の妻を愛しているにもかかわらず、自身の行為に一切の迷いもないアーネストには“操られる”人間の悲哀さえ滲むのだが、ここで演じるレオナルド・ディカプリオの、キャリアの集大成とも言っていい名演が生かされる。いくらでも大袈裟に表現できるアーネストの劇的な運命を、ディカプリオは静と動のバランスを巧みに操ることで、人間の本能を炙り出した印象。それはウィリアム役のロバート・デ・ニーロにも通じる。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』 画像提供 Apple

デ・ニーロは『タクシードライバー』(1976年)、オスカーに輝いた『レイジング・ブル』(1980年)などスコセッシ監督作で8回も主演を果たした、まさに盟友。そしてディカプリオもこれまで5回、スコセッシ作品に出演し、そのうち『アビエイター』(2004年)と『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の2本でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされている。

スコセッシの2大“分身”ともいえる2人の名優が、同監督の下で初めて共演した記念すべき一作が『キラーズ~』であり、ウィリアムがアーネストを導くドラマに、映画ファンは映画史の流れも実感しながら、感動に打ち震えてしまうのである。

驚くべきは、この2人の名優に負けないほどの存在感を示した、モーリー役のリリー・グラッドストーンである。1986年生まれで、モンタナ州のアメリカ先住民居留区で育った彼女は、ケリー・ライカート監督の『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(2016年)でクリステン・スチュワート、ミシェル・ウィリアムズらと共演して脚光を浴び、本作ではオセージ族の女性にリアリティを与える重要な役割を果たした。これから始まる今年度の映画賞に彼女が絡んでくるのは確実で、オスカーノミネートの可能性も高い。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』 画像提供 Apple

故ロビー・ロバートソンの手掛けた音楽も必聴! スコセッシの飽くなき冒険心

このようにすべての要素が極上の『キラーズ~』だが、最も特筆すべきは音楽かもしれない。耳に残るキャッチーなメロディではないにもかかわらず、まるで映像から自然に湧き出てきたようなスコアが重なり、これこそ映画音楽の見本というべき仕上がりなのである。

スコアを手がけたロビー・ロバートソンは、『キング・オブ・コメディ』(1983年)で音楽プロデューサーとしてスコセッシ作品に関わり、その後も『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2001年)、近作の『アイリッシュマン』など、何度も音楽で協力している。

ロバートソンは「ザ・バンド」の初期メンバー。その最初のメンバーの1976年の解散コンサートを収めたドキュメンタリー『ラスト・ワルツ』(1978年)を監督したのが、マーティン・スコセッシだった。ロバートソンは今年(2023年)8月にこの世を去った。映画音楽としては『キラーズ~』が遺作となり、スコセッシとの関係とともに魂が宿ったスコアが、観る者の心に染み渡ってくるのである。

 

3時間26分の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の中で、溢れる思いは観る人それぞれ、山のようにあるだろう。しかしクライマックスの思いがけない演出には、誰もが同じ感覚に浸るのではないか。それは――80代となったマーティン・スコセッシの飽くなき冒険心、活力だ。こんな風に映画をまとめるアイデアを目の当たりにすると、スコセッシのさらなる進化に期待を高めずにはいられない。そして、このフィナーレを観届けた後、重量級の傑作の真価を受け止めるには、やはり劇場のスクリーンがふさわしいと、われわれは改めて認識する。それこそが巨匠の思惑であるかのように……。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は2023年10月20日(金)より公開

ロバート・デ・ニーロ×マーティン・スコセッシ監督『カジノ』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年11月放送

ロバート・デ・ニーロ主演『ミッドナイト・ラン』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年11月放送

1 2
Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

地元の有力者である叔父のウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)を頼ってオクラホマへと移り住んだアーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)。アーネストはそこで暮らす先住民族・オセージ族の女性、モリー・カイル(リリー・グラッドストーン)と恋に落ち夫婦となるが、2人の周囲で不可解な連続殺人事件が起き始める。町が混乱と暴力に包まれる中、ワシントンD.C.から派遣された捜査官が調査に乗り出すが、この事件の裏には驚愕の真実が隠されていた――。

監督:マーティン・スコセッシ
脚本:エリック・ロス マーティン・スコセッシ

出演:レオナルド・ディカプリオ ロバート・デ・ニーロ ジェシー・プレモンス リリー・グラッドストーン タントゥー・カーディナル カーラ・ジェイド・マイヤーズ ジャネー・コリンズ ジリアン・ディオン ウィリアム・ベルー ルイス・キャンセルミ タタンカ・ミーンズ マイケル・アボット・ジュニア パット・ヒーリー スコット・シェパート ジェイソン・イズベル スターギル・シンプソン

制作年: 2023