劇映画? ドキュメンタリー? 斬新な手法で唯一無二の作品に
実際の事件をもとに映画化された『アメリカン・アニマルズ』を観れば、まずその意外な演出手法に驚かされるはずだ。フィクションとノンフィクションが絶妙に交差する構成は、長らくドキュメンタリー畑で経験を積んできたバート・レイトン監督ならではのスキルを劇映画で、これ以上ない形で発揮した成果と言えるだろう。
本作の主な登場人物は2名(+2名)。大学図書館に貯蔵されている貴重な本(1200万ドル=12億円を超える価値!)を盗み出そうと画策するウォーレンとスペンサーは、FBIを目指す孤高の秀才エリックとジョックなヤング実業家・チャズを仲間に引き入れる。彼らは綿密な計画を立てて強盗作戦を決行するが、ド田舎でくすぶっていたボンクラ大学生がスムーズに遂行できるはずもなく……。
田舎のイモ学生たちの物語ではあるが、それぞれが固い友情で結ばれた4人組というわけでもないので“青春クライムもの”という枠には収まらないし、かといって『レザボア・ドッグス』のような腹の探り合いやバイオレンス描写があるわけでもない。本作の白眉は、ウソのような実話ベースの物語にドキュメンタリー要素をミックスした、他に例を見ない演出だ。
単なる虚実の交差ではない、センス抜群の演出に注目
何も知らずに見たら、これドキュメンタリー? と勘違いしてしまうかもしれないし、下手をしたら“事件の再現VTR”みたいになってしまうリスクもあるだろう。しかし、レイトン監督はドキュメンタリー畑で培った“魅せる”演出を遺憾なく発揮し、“過去⇔現在の記憶⇔事実”の微妙な齟齬までもドラマに盛り込むことで、実在の元犯人たちと演じるキャストたちが“結果”を交互に噛み締め振り返るような、奇妙かつ絶妙な演出方法を披露してみせた。
劇映画のキャストの心情をそのモデルとなった本人が代弁(解説)するなんてやぶ蛇のようにも思えるが、物語の説得力を高める手法としてはこれ以上のものはない。しかも、過去の過ちを振り返る本人たちは妙に雰囲気があるというか、まるで役者みたいな濃いキャラ揃いで妙に惹かれてしまうのだ。この事件、そして本人たちと知り合った監督が「こりゃ映画化待ったなしだわ」と思った(かどうかは知らないが)、その気持ちはめちゃくちゃ理解できる。
ただし大胆な強盗作戦とはいえ、シロート集団だけに『オーシャンズ』シリーズのようなスタイリッシュさは皆無。そのおかげで緊張感・ハラハラ感は100倍増しで、身の丈に合った(?)犯罪行為を見せられて胃がキリキリしてくる。手際の悪さゆえの痛々しさやまったく予想できない展開は、どたばたケイパー映画という枠には収まらない、まったく新しい実録映画のスタイルの確立と言っても過言ではないだろう。
映画としての好感度が抜群に高い、奇跡的な作品
強盗で一攫千金という“ドラマ”を人生に求めた若者たちは、「何かを成し遂げなければ」「他とは違う特別な人間に」という、ある種の強迫観念に背中を押されてしまった。ほとんどの人は妄想だけで終わるところだが、彼らは実行に必要な同士を見つけたことで悲劇に向かって突き進んでいく。もちろん、このテの作戦実行前には思わぬ壁が立ちはだかるものだが、仲間の力というのは偉大である。良し悪しは別として、とにかく彼らの行動力には脱帽だ。
なお、本人たちの記憶はそれぞれ微妙に食い違っていたりするものの、それらをすべて採用してしまう演出は天才的で、ちょっとびっくりするレベル。ときおり映像と音声を意図的にズレさせたりと、細かいところにも監督の工夫が感じられて、結果的に映画としての好感度がめちゃめちゃ上がっているという、もはや奇跡に近い作品である。
『アメリカン・アニマルズ』は2019年5月17日(金)より公開
『アメリカン・アニマルズ』
2004年大学図書館で窃盗事件が起こった。標的は図書館に貯蔵された時価1200万ドルの価値があるジョン・ジェームズ・オーデュボンの画集「アメリカの鳥類」。なんと犯人は大学生4人組。アメリカ犯罪史上最も大胆不敵なこの強盗事件の結末は?
制作年: | 2018 |
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監督: | |
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