原田眞人監督で贈る予測不能のクライムサスペンスエンタテインメント『BAD LANDS バッド・ランズ』は、うかつにジャンル分けできるほど単純な作品ではない。「姉弟が向かう先は“天国”か“地獄”か」と映画のキャッチにあるように、現代の “善”と“悪”が“勧善懲悪”で描けるものではないことを、原田監督はみっちりと教えてくれる。
一歩間違うと別な解釈を届けることになるこの“善悪の彼岸”に、原田監督が真っ向から臨めたのは、安藤サクラが主演、共演に山田涼介を迎えたからだろう。山田は、沖田総司を演じた『燃えよ剣』(2021年)で既に原田監督との仕事を経験している。一方の安藤は初の仕事。出演を決めた気持ちから聞いていく。
「単なる悪、犯罪者を演じるつもりはありませんでした」
――オファーをもらったときの印象
安藤:原田組からお声がかかるのを想像したことがなかったので驚きました。また勝手に、原田組は過酷だと思っていて(笑)、ハードルの高い憧れの現場だったというか。自分が呼ばれることはないだろうと思っていましたが、お話をうかがうと、いま挑戦すべき大きなステップアップになる作品だなと。それにバディが山田涼介くんだというのも興味を持った点で、結果、最高の共演者にも恵まれ、新たなる刺激をもらいました。
山田:僕もバディが安藤サクラさんだということにワクワクさせられました。原田監督が特殊詐欺をテーマにした映画を作ることにも高揚しましたし、やりたくない理由が見つからなかったので、ぜひやらせてください、と。原田監督の現場には他では味わえない刺激があるんですが、それがクセになっているのもあって(笑)。もちろん厳しい瞬間もありますが、それがいいんですよね(笑)。
――黒川博行の『勁草』(徳間文庫刊)をベースに、原田監督自身が脚本を書いている。安藤が演じるのは壮絶な過去を持つ橋岡煉梨(ネリ)。特殊詐欺グループの元締めの事務所で働き、実行部隊を監視する役目。山田が演じるのは訳ありなネリの弟・矢代穣(ジョー)。犯罪歴ありで純粋無垢、姉が大好きなサイコパスだ。そんな2人を演じる上で大切にしたこととは?
安藤:大阪を舞台にした特殊詐欺の話で、原作をベースにしながら、原田監督がさらに細かい部分まで描き込んでいるのでとてもリアルです。血が流れ、拳銃も出てきますが、ネリにとってそこは日常の延長。彼女は犯罪に手を染めていますが、単なる悪、犯罪者を演じるつもりはありませんでした。
――確かに、犯罪に手を染めているネリに、なぜか応援したい気持ちが勝っていく。
安藤:もちろんネリは悪いことをしているんですが、この映画は善悪を問うのではなく、彼らの生き様を見てもらう作品だと思って演じていました。だから、そう思っていただけたのはうれしいです。脚本を読んだときにネリに感じたのは、根本的な優しさ。優しさはネリという人の核であり、私も一番大切にした部分です。だから主人公ではありますが、印象薄く演じていきたいと思いました。他の皆さんのキャラが濃いというのもあるんですが、観終えた後、“そこにいたな”という存在感だけ残せたらいいなと思って。
――ジョーを演じるにあたって大切にした部分とは?
山田:僕は何かにとらわれることなく自然体で生きることを意識していました。ジョーは善悪の判断がつかない奴。家事をするように罪を犯すのは、ただ目の前にある邪魔なものを排除しているだけなんです。俊敏性も、瞬発力もある人ですが、唯一お姉ちゃんのことになると揺らいで隙ができてしまう。お姉ちゃんコンプレックスなかわいらしい奴。というかヤバすぎるバカな奴です(笑)。
「いい化学反応が起きるのは確信していた」
「安藤さんの人柄に、僕だけじゃなく皆が魅了された」
――初共演について
安藤:こんなに近しい関係性の役で、山田くんとキャスティングされるのを想像したことがなかったので、オファーを受け、うれしく思いました。いい化学反応が起きるのは確信していたし、すごくいい刺激をもらえるだろうなとも思っていたので。原田監督がアドリブなど無茶な注文をしても、山田くんは迷いなくやるし、肝も据わっている。その瞬発力と肝の座り方は、大勢の方の前でパフォーマンスしてきた経験が培ったものかもしれません。自分にはない表現の仕方を持っていて、新しい刺激をたくさんもらえました。
彼は魅せる人である一方、すごく人間らしい人。そこがジョーという役柄と、とてもフィットしていると思いました。ジョーのだらしなさや、ポンコツでアホなところは、アイドルなんだけど人間くささを持つ山田くんだからこそ出せた部分かも。撮影期間中、歌って踊っている姿をテレビで見ることがありましたが、それだって全然作っているわけじゃなく、たぶん素の姿だと思います。どれも山田くんですが、できあがった作品はさらに違う一面が出ていて、びっくりしました。
山田:本当にありがたい。うれしいです。僕は女優・安藤サクラが大好きで、いつか共演してみたいと思っていました。このタイミングで、血はつながっていないけれど、まさかの姉弟役。マネージャーから聞いたときは、うれしくて「マジで!?」と言ってしまいました。
安藤さんとお芝居で対峙する前は、正直ついていけるか不安もありましたが、それこそ人間らしさというか、人柄にものすごく安心感があって、自然に身をゆだねる形でお芝居できたのはすごく助かりました。安藤さんの人柄には僕だけじゃなく、監督やスタッフ、ほかの共演者の方も魅了されたと思います。
安藤:ええっー! まあ、要は超いいバディだったということですよね! 取材期間中、私はずっと同じことを言っていますが、この映画における山田涼介の素晴らしさは、毎回新鮮にしゃべれるくらいたくさんあるってことですよ(笑)。
――そんなネリとジョーの関係性をもう少し、詳しく。
安藤:ネリはジョーを、厄介でアホな子だと思っていました。
山田:ジョーはまったく逆で、ネリの傍を、腐った社会のなかで唯一温かさを感じられる場所だと思っていました。でもアホだから本当に邪魔で、姉ちゃんに「あんた邪魔」と言われてしまう。それすらも愛情表現だと受け取っていて、うれしくなってしまうような奴です。
安藤:姉ちゃんは「キモッ」って思ってるのに(笑)。
山田:バカなのよ(笑)。でも「姉ちゃんのためならどこにでも飛び込むよ」という腹の括り方はできるカッコいい男でもある。チャーミングさと男らしさを兼ね備えたアホです(笑)。不思議な関係ですよね。お互い違う思いを抱えながら、同じ方向を見て歩いている。
安藤:でも“自称”サイコパスって……。
山田:絶対サイコじゃないよね(笑)。
安藤:そういうところもかわいいんですけどね。
『BAD LANDS バッド・ランズ』
<持たざる者>が<持つ者>から生きる糧を掠め取り生き延びてきたこの地で、特殊詐欺に加担するネリと弟・ジ
ョー。二人はある夜、思いがけず“億を超える大金”を手にしてしまう。金を引き出す...ただそれだけだったはず
の 2 人に迫る様々な巨悪。果たして、ネリとジョーはこの<危険な地>から逃れられるのか。
出演:
安藤サクラ 山田涼介 生瀬勝久 吉原光夫 大場泰正 淵上泰史 縄田カノン 前田航基
鴨鈴女 山村憲之介 田原靖子 山田蟲男 伊藤公一 福重友 齋賀正和 杉林健生 永島知洋 サリngROCK 天童よしみ / 江口のりこ / 宇崎竜童
監督・脚本・プロデュース:原田眞人
原作:黒川博行『勁草』(徳間文庫刊)
制作年: | 2023 |
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2023年9月29日(金)より全国公開