実在の犯人も劇中に登場! 長編デビュー作で斬新な手法を使うレイトン監督って!?
遡ること、15年。2004年にケンタッキー州レキシントンという郊外の街の図書館で、4名の大学生が大学の図書館から、12億円を越えるヴィンテージ本「アメリカの鳥類」を盗むという事件が起きた。犯人は、破天荒なウォーレン、“特別な人”になりたいスペンサー、流されやすいエリック、短気だが実業家のチャズ。
彼らは『スナッチ』や『現金に体を張れ』、『オーシャンズ11』に『レザボア・ドッグス』などの犯罪映画で強盗を学んだ。そんな4人を“映画化”した作品が、2019年5月17日(金)公開の『アメリカン・アニマルズ』だ。
この度来日したバート・レイトン監督に、本作のユニークな映像や自分自身の学生時代の“やんちゃ”エピソード(案外やばい)について話を伺った。
これは事実を基にした映画ではない。実話である。
映画作りを志したきっかけは「とにかく物語と人が好きだった。誰しもが物語を持っていて、映画は僕にとって様々なアートフォームの融合体だったんだ」と語る、レイトン監督。長編ドキュメンタリー『The Imposter』で英国アカデミー賞最優秀デビュー賞を受賞し、本作が初の長編ノンフィクションドラマである。しかし、本作がノンフィクションなのかフィクションなのかカテゴライズするは、極めて難しい。
本作の最大の特徴は、レイトン監督が得意とするドキュメンタリーというリアルを、ノンフィクションドラマと上手く融合させ、より物語に真実味を帯びさせている点である。
特に、実際に事件を起こした犯人4名が本人として登場し、劇中で俳優らと会話をするなんて、これまで観た事のない映画の作り方だ。監督は、どこでこのアイデアを思いついたのだろう?
「僕はこれまでドキュメンタリーを多く撮ってきました。おそらく観客がドキュメンタリーを観る時、とても感情的に入り込むはず。何故なら、それが現実で起きたことだとわかっているからです。
我々はよく、冒頭に「Based on the true story(真実に基づく物語)」と流れる映画を観ますよね。でも、それが本当に真実なのか真実ではないのか、知る由がないのです。だから、私はこの二つを融合させようと考えました。観客にとって、それが真実に基づく物語だとしても、映画という“作り物”であることには変わりない。僕のアイデアとしては、ドキュメンタリーが観客に与えられる“現実味”の可能性を拝借し、より深く感情移入できる作品にしたことなのです。」
本作がさらに面白いのは、“本当にあったことかどうかは、実は不確かである”点を類稀なるアイデアで映像でも表現しているところだ。劇中、盗品のバイヤーに会いにニューヨークへ行くウォーレンとスペンサー。彼らの記憶では、最初そのバイヤーは“青いマフラーを巻いた男”だった。しかし、だんだん「いや、待てよ、紫色だったかもしれない」と考えを改め、本編のマフラーの色も記憶と共に変化する。
「この映画の内容だって、本当かもしれないし、作られた物語かもしれない(笑)」
そう笑う監督の真意が、マフラーの色の変化をはじめ、あらゆるシーンに盛り込まれている。
例えば、スペンサーたちが強盗を映画から学んでいるシーンだ。
「彼らは本当にブロックバスター(アメリカのレンタルショップ)に行って、片っ端からハイスト・ムービー(盗みを描く映画)を借りて観たんです。」
ウォーレンはモノクロの映画を観ているうち、強盗のイメージトレーニングを始める。そのイメージが、まるで自分も映画の中に入ったかのように、モノクロで描かれていて面白い。
「あの演出は、彼らが映画と現実の境目が曖昧になってきていることを表現しています。リアリズムとナチュラリズムが映画に寄っていく。なので、彼らがファンタジーにのめり込めば込むほど、映画全体の雰囲気も変化してゆき、観る我々自身も境目が曖昧になっていくのです」
ただ、“世界に自分が存在した”という印のようなものを残したかった
本作は、何と言っても実際に4人の犯人が本人役として、当時のことを語る点がすごい。ドキュメンタリーを思わせるこの手法に、先述の監督の意図が伺える。
「実は映画を作る暫く前から、彼らと交流をしていましてね。まだ刑務所で受刑中の時から、手紙を通してやりとりをしました。なので、会う前からよく知っていたのです。私は、彼らが悪い人間であるとは思えない。ただ、大きな過ちを犯した集団に過ぎないと感じています。」
劇中、当時について語る4人は犯罪者であることに変わりないが、“邪悪さ”は一切感じない。むしろ、何故かハラハラする強盗シーンは、「はやく!はやく!」と一緒になって焦ってしまう。
「彼らは決して“邪悪”ではない。ただ、若くて、バカで、ナイーヴだった。そして人生のハイライトとなる何らかの体験を求めていただけです。ただ、“世界に自分が存在した”という印のようなものを残したかった。まさに、スペンサーがそういう人間です。アーティストになりたかったけど、彼はまだ語るほどの物語を持っていなかった。私はそれをとても現代的だと感じました。今、この瞬間を生きることへの憧れ。若者が何者かになりたい、誰かの記憶に残っていたい、有名になりたいと切望するプレッシャーですよ。」
確かに、この物語の中で特にスペンサーへの理解が深まる。彼の行いは犯罪行為であることは明らかなのに、なぜ実行する必要があったのか、その理由がわかる。
「僕がこの事件を映画化したのは、カルチャーや社会の中で、実際に何が起きているかを語る上で良い題材だと思ったからです。人が自分の存在に“気づいてもらう”ために何をするのか。良い行いのこともあれば、時に悪い行いのこともあるが、実は良いか悪いかということは、さほど重要ではないのです。
僕らはハイスト・ムービーが好きですよね?みんなが好きなはずだ。『アメリカン・アニマルズ』だって、同ジャンルではあります。しかし、物語以上に本作で描くのは、“喪失”です。そして同時に“マスキュリニティ(男性性)”や、“アイデンティティ”についても描いています。」
実は映画とは正反対だった、破天荒キャラ
題材はもちろん、それを物語に落とし込み、面白い画で魅せていくのが本作の大きな見所であるが、何よりキャスト/キャラクターもかなり魅力的だ。ウォーレン役のエヴァン・ピーターズといえば、海外ドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー』で一躍ブレイクし、今や演技派若手俳優として活躍する存在である。
スペンサーを演じたバリー・コーガンも、『ダンケルク』や『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』など、作家性の高い話題作への出演が続き、注目を浴びている。エリックを演じるジャレッド・アブラハムソンはNetflixのドラマシリーズ『トレベラーズ』にレギュラー出演し、チャズ役のブレイク・ジェナーは『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』で主演を務め、『スウィート17モンスター』でも存在感を発揮した。
とにかく、何が言いたいかというと、いい具合に旬な俳優が勢ぞろいしているのだ。レイトン監督はキャスティングについて以下のように語った。
「ただ、最高の役者を探しただけですよ。より、現実的な顔や雰囲気のね。一目顔を見るだけで、明らかに“ムービースター”と感じさせる俳優を選びたくはありませんでした。」
そして話を聞くうち、撮影裏で起きた面白いエピソードを教えてくれた。
「彼らはみんな、演じるスタイルがとても異なる俳優でした。エヴァン・ピーターズは、宿題をたくさんこなして徹底的に準備をするタイプ。バリーは正反対で…カオスな俳優です(笑)。彼はどちらかというと、その場で即興演技をするタイプ。ある日、カメラに映らずセリフを言うシーンがあったんですが、前日に飲みすぎたみたいで、撮影中にオフカメラのところでバリーが居眠りをしてしまっていたんです!まあ彼も“やんちゃ”なタイプですね。映画の中ではエヴァンの役柄の方がクレイジーだけど、役者たちは本当にプロフェッショナルです。」
笑撃!レイトン監督も相当やんちゃな大学生時代を送っていた件
正直、誰だって学生時代に馬鹿なことをするものだ。筆者の私も、大学の授業の合間に女子トイレで髪を染めたという阿呆なエピソードがある。ちなみに完全にノリだったし、着ていたTシャツは見るに耐えない姿に変わり果てた。
取材中、常に聡明な印象を抱かせる監督自身は、劇中の犯人たちと同じ年頃の時、どんな学生だったのだろう。
「(4人と)どこか似ている部分はあったかもしれません。ただ、彼らと違って大学に入る前から世界を旅して多くを経験していました。大学に入ってからも、興味深い人たちにたくさん出会ってきたので、“逃げ出したい”とか彼らの持つ焦燥感のようなものはありませんでした。でも、それと同時に僕も相当やんちゃでしたね(笑)。法は犯してないけど遊んでばかりで、あまり大学時代は勤勉とは言えなかったかもしれない。」
ん?具体的な“やんちゃ”エピソードが気になったので、聞いてみた。
「OH,GOD!(まいったな!笑)よく仲間内でやっていたのは、大学の他の寮に忍び込んで、家具から何から全てを逆さまにする悪戯でした。椅子やテーブル、全てのポスターはもちろん、天井にベッドをはりつけたり(!?)して。またある時には、家具を全て庭に運び出したりもしましたよ。室内に置いてあった配置の通り、庭に部屋を再現しました。部屋の主が授業から帰ってきた時に驚いていたよ。とにかく馬鹿げた事ばかりをしていました。」
一体全体、どうやって天井にベッドを(逆さまに)貼り付けたのか伺うと、サラっと「ああ、ドリルを使った」と答えるので、その容赦ない悪戯の本気ぶりに度肝を抜かれた。
『アメリカン・アニマルズ』果たして、ハイストは“クール”なのか
実在の犯人たちはクールなハイスト・ムービーを観て士気をあげていた。『アメリカン・アニマルズ』も、予告編をはじめアートワークがかなりオシャレなので、盗みがクールであると錯覚を起こしてしまう。
しかし、果たして盗みは“クール”なのか。レイトン監督の言う“喪失”が、何よりも劇中で懺悔するウォーレン(本人)の涙から感じられる。こんなにオシャレで、現実的で、陰鬱さもあって、誰もが共感できるノンフィクション “やらかし映画”を、私は今まで観たことがなかった。
文:アナイス
『アメリカン・アニマルズ』は2019年5月17日(金)より、新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
『アメリカン・アニマルズ』
2004年大学図書館で窃盗事件が起こった。標的は図書館に貯蔵された時価1200万ドルの価値があるジョン・ジェームズ・オーデュボンの画集「アメリカの鳥類」。なんと犯人は大学生4人組。アメリカ犯罪史上最も大胆不敵なこの強盗事件の結末は?
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |