ハリウッドよりも早かった!?『ランボー』映画化
やがてイタリア国内ではTV放送が増え、映画産業自体が衰退していく。この後に続くイタリアン・ホラーブームも、どちらかというと80年代に到来するビデオブームを含んだものになっているのだ。その後も“『インディージョーンズ』的”、“『マッドマックス』的”といったイタリア独特のインスパイア系映画ビジネスは続いていくが、次第に映画館でかかるのは人気TVドラマの映画版ばかりという、まるでどこぞの国の映画業界のようになっていく。
しかし、パクリや便乗だけではなく、ユーロクライムが他に先駆けていたものも確かにあった。チャールズ・ブロンソンが1人で悪をなぎ倒す『バトルガンM-16』(1989年)などの映画群を形作ったのは、彼が愛妻ジル・アイアランドと共演し殺し屋を演じた『狼の挽歌』(1970年)が端緒であろう。ユーロクライムはブロンソンのイメージ形成にも一役買っていたのだ。
それだけでなく、ハリウッドの大ヒットアクション映画の先駆け的作品も生んでいる。近年は『トラフィック』(2000年)などにも出演していたマカロニ大スター、トーマス・ミリアンの『Syndicate Sadists』(1975年:原題)は、ミリアン演じる型破りな元警官が、殺された友人の復讐のために2つの犯罪組織に戦いを挑む……という内容だが、実はこれ、有名なアクション映画を先取りしている。
この映画は、トーマス・ミリアンがイタリア~アメリカ間の飛行機内で読んだ小説が原案。それがデヴィッド・マレル著「一人だけの軍隊」(1972年)である。……そう、ご存じ『ランボー』(1982年)の原作だ。あのスタローンの代表作より7年も前に、ユーロクライムが手をつけていたのである。
早速この小説を原作に映画製作を初めたミリアンだが、田舎でのアクションが主体の物語に対し、当時のユーロクライムが都市犯罪ものを中心にしていたため、完成した作品はどちらかというと『ダーティハリー』などの影響を受けた作品となっている。しかし、アーミージャケットを来た主人公の名前がランボー(!)であったり、街中のバイク暴走シーンなど、『ランボー』的な痕跡は至るところに残っている。
もし、ここでイタリアが本格的に『ランボー』を映画化し、ワンマンアーミーものに舵を切っていたら……などと考えずにはおれない。まぁ、のちに『ランボー』が流行ったときにはイタリアはそんなこともすっかり忘れ、『ランボー』インスパイア系の制作に取りかかるのだが……。
例えば、ヘンリー・シルヴァ主演の怪盗・殺し屋アクション『Killer contro killers』(1985年:原題)のパッケージは、作中には登場しない筋骨隆々・上半身裸のマシンガン男になっていたりと早速ランボーに便乗しているが、これもまた味である。
Tonite's film is
— 🎃 (@Engram_Records) June 12, 2021
KILLER CONTRO KILLERS (Fernando Di Leo, 1985)#Film #Action #Crime pic.twitter.com/3mm6F9SrMm
スタローンつながりで言えば『コブラ』(1986年)に便乗し、黒人アクションスターのフレッド・ウィリアムソン主演で『ブラック・コブラ』(1987年)なるインスパイア系作品も作り上げている。物語は『コブラ』で、主人公は『ダーティハリー』、敵役はシュワルツェネッガー風味と、これぞマカロニ魂な作品である(しかも4作目までシリーズ化している!)。
タランティーノだけじゃない! 引き継がれるユーロクライム&マカロニ魂
今やウエスタン的な要素として引用、想起されるのは本流のアメリカ産西部劇ではなく、血と硝煙と暴力にまみれたマカロニウェスタンの方であるように、マカロニ魂は今も至る所に影響を与えている。ユーロクライムも近年、ブルーレイ/DVDのリリースによる再評価、またエンニオ・モリコーネなどの巨匠からゴブリンなどのロックバンドを起用した印象的サウンドトラックも人気を集めており、再評価の波が存在している。
腐敗した権力構造の中で、ギャングと刑務所の看守が奇妙な友情を育んでいく『非情の標的』(1973年)、消失した大金の行方を巡るギャングたちの駆け引きや非情さを描いた『ミラノカリブロ9』(1972年)などの、忘れがたい名作の再評価もされている。
また、クエンティン・タランティーノ監督の後押しは大きいだろう。彼は常々、マカロニウェスタンだけでなくユーロクライム愛も全開で、『ミラノ~』などの監督フェルナンド・ディ・レオのファンを公言している。
タランティーノは自作でもたびたびユーロクライムへの愛を表明しており、『ジャッキー・ブラウン』(1997年)でロバート・デ・ニーロとブリジット・フォンダが見ているTVでは、『ルートヴィヒ/神々の黄昏』(1972年)などで知られるヘルムート・バーガーが凶暴な殺人犯を演じたユーロクライム『La belva col mitra』(1977年:原題)が放送されている。こんなマイナーな作品をぶち込むほど、タランティーノはユーロクライムへ入れ込んでいるのだ。
Sergio Grieco's Beast with a Gun (1977) in Quentin Tarantino's Jackie Brown (1997)https://t.co/XE1THgxJxs pic.twitter.com/7PJE1s85gj
— Films In Films (@FilmsInFilms) July 24, 2019
それだけではない。『イングロリアス・バスターズ』(2009年)では、イーライ・ロス演じるドニーがナチに名乗る偽名が「アントニオ・マルゲリーティ」だった。これは、ベトナム帰還兵が食人鬼になって帰ってくる『地獄の謝肉祭』(1980年)や、ユーロクライム作品『ユル・ブリンナーの殺人ライセンス』(1976年)などで知られるイタリア・ジャンル映画界の巨匠、アンソニー・M・ドーソンの別名(本名)である。
In Once Upon a Time in Hollywood (2019), one of the Italian films that Rick Dalton stars in was directed by Antonio Margheriti. This name was also one of the Italian aliases used by the Basterds to infiltrate the Nazi film screening in Inglourious Basterds (2009). pic.twitter.com/lMkyabyJ58
— Hidden Movie Details (@moviedetail) January 12, 2020
なぜ、そこでその名前をわざわざ使う必要があったのか。そしてもちろん、『イングロリアス・バスターズ』というタイトル自体が、『死神~』の監督、カステラッリによる戦争アクション『地獄のバスターズ』(1976年)から来ていることも言っておきたい。
このように、随所にタラのイタリア・ジャンル映画に対する深い愛情を感じることが出来るが、ということは、やはり『デスプルーフ in グラインドハウス』(2007年)のハイスピード・カーチェイスなクライマックスも、間違いなくユーロクライム印なのだ、と言えるだろう。
そこまで影響を受けるほど、ユーロクライムは何度もタイトルを変えてグラインドハウス映画館にかけられ、足繁く通っていたタラ少年に衝撃と影響を与えたのだろう。そして間接的にではあっても、我々もイタリア・ジャンル映画の影響を受けているのだと言える。
また、その影響は他の作り手にも及んでいる。今のご時世にあえてCGに頼らない本格カースタントを街中でやりたい、そんな時にユーロクライムなどの(それは東映でも、何でもそうであるが)、ジャンル映画の魂が息づいているはずだ。そこにはハンデをアイデアと情熱ではねのけ、面白いものを作ってやろう、という「ユーロクライム魂」が間違いなく受け継がれている。筆者はそんな作品を、これからももっと見てみたいと強く思う。
文:多田遠志
『死神の骨をしゃぶれ[4Kレストア版]』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年9月放送
『死神の骨をしゃぶれ[4Kレストア版]』
マルセイユとジェノヴァを結ぶ、麻薬密売ルートを追う警部ベッリは、麻薬の売人を捕まえたがその売人を何者かに殺されてしまう。自らの身辺にも危険が及ぶなか、引退したマフィアのボスであるカフィエロを利用し、麻薬ルートを解明する為の捜査を進めるが……。
監督:エンツォ・G・カステラッリ
出演:フランコ・ネロ
ジェームズ・ホイットモア フェルナンド・レイ
制作年: | 1973 |
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CS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年9月放送