「黄色いベスト運動」が映画制作のキッカケ
監督はドキュメンタリー出身で、いつかはこの街とそこに住む人々を映画にと考え、まず同名の短編を製作。各地の映画祭で多数の賞を獲得したことで長編化への道が開けたという。物語は、地方警察から転任してきた警官が ハウジングステイトのパトロールに同行中、子ライオンの盗難をきっかけに対立するギャンググループは一触即発になるところが始まり、警官たちとハウジングステイトの住人の間に緊張が高まり、そして事件が…。
「ハウジングステイトに住む人々の直面している様々な問題について描きたいと、15年前ぐらいから温めていた企画です。いつかは状況が変わるのではないかと思いもしましたが、15年経っても変わらない。警察は住民を目の敵にし、信用せず、住民には仕事もなければ、学校も真剣に子供たちの未来を考えてくれるわけではない。暴力が蔓延し、住民同士で反目しあい搾取し合う状況が生まれています。そこに住む人々の叫びに耳を貸す人はいないのです。」
そんな状況の続く中起こったのが「黄色いベスト運動」だった。監督はこれを機に長編劇映画として企画を進める。
「抑え付けられた人々がついに立ち上がるという点で黄色いベスト運動からインスパイアされています。しかし、ここで最後に立ち上がるのは子供たちなのです」
監督とはずっと仕事を共にしてきたプロデューサーが語るには
「レ・ミゼラブルの中でガブローシュという少年のキャラクターがいます。ダイナミックな役柄でヒロイックな死を遂げるのですが、今回の主役といっていい子供たちはこのガブローシュのような存在です」
監督は続ける。
「ここでは、子供たちは大人たちに対して立ち上がるのです。警察に対してだけではなく、親・教師・そして町を牛耳っているギャングたちに対しても。何よりも子供たちが、そしてハウジングステイトの住民が望んでいるのは、彼の声に耳を傾けろ、ということです。住民たしも私自身も、フランス人なんです。同じ権利を持っている。無視するな、ということなのです」
子供たちの未来を拓くために監督は無料の映画学校をハウジングステイトに開設した。6ヶ月のクラスで映画作りの実践を教え、作品を送り出す。近々アフリカ5カ国でも開校する予定であるという。
映画が出来ること、観客にお返し出来ること、社会に還元出来ることを真摯に考えた監督の熱気が伝わってくる会見だった。
C'est la première énorme claque du Festival de Cannes. Voici la bande-annonce du film "Les Misérables", réalisé par Ladj Ly. pic.twitter.com/hd1VV9V3AB
— Konbini (@KonbiniFr) May 16, 2019
写真・文・:まつかわゆま
カンヌ映画祭スペシャル2019
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2019年5月25日(土)カンヌ映画祭授賞式 日本独占生中継ほか、受賞作&関連作計6作品放送