「監督週間部門はカンヌに新しい視野をもたらす」改めてその精神に立ち返る
今年から、監督週間部門のディレクターに、長年ヴェネチア映画祭で元ディレクター、マルコ・ミューラーの片腕として仕事をしてきたイタリア人のパウロ・モレッティが就任。セレクションは、長編が昨年から4本増え、24本に。そのうち16人の監督がカンヌ初体験で、5人はカメラドール候補の初長編作品というフレッシュなラインナップである。日本からは全部門を通して今年唯一の長編参加となる三池崇史の『初恋』がエントリーした他、ロバート・ロドリゲスが新作『RED 11』を携えてマスタークラスを行い、毎年設けられている功労賞にあたる「黄金の馬車」賞は、ジョン・カーペンターに授与される。
―昨年に比べ今回は長編24本と、作品数が増えましたが、その理由は?
今年監督週間への応募数は、昨年に比べて約300本多い、1,900本に及び、単純に私たちが気に入った映画が多かったからです。できるだけ多くの本数を紹介したい、という想いがありました。
―セレクションにとくにテーマのようなものは設けなかったと聞きましたが、結果的にはかなりフレッシュで斬新な作品、またヴァイオレンスやファンタジー系など、ジャンル映画が並んだ印象を受けます。
意図的ではないにせよ、ジャンル映画の定型を再解釈した作品、そこに監督のヴィジョンがあり、パーソナルな作品になっているものが多いかもしれません。もちろん、ジャンル映画に限らず、様々なアプローチの作品があります。そもそも監督週間自体、カンヌに新たな視野を持ち込むことを目的に作られたもので、ユニークな視点を持ったもの、革新的な作品を紹介してきました。それが1968年に創設された監督週間のスピリットなのです。私たちは改めてその精神に立ち返り、監督週間がカンヌに何をもたらせるか、ということを基本にしながらセレクションをしました。
―そういう意味で、今回監督週間に4年ぶりにカムバックを果たした三池崇史監督はふさわしいという気もします。今回の三池監督の作品にはどんな印象を持ちましたか。
『初恋』は、とても三池監督らしい作品だと思います(笑)。詳細に関するコメントは、ネタバレになるので控えたいと思いますが、僕にとって三池監督は、今年紹介するロバート・ロドリゲス同様、映画制作にとても情熱を持っていると感じさせる作り手で、その熱さを観客に感染させる監督です。つねに大胆で、勇気に満ちた作家。ジャンル映画に新たな風を持ち込むとともに、単にスタイルの実践に留まらない、自身もまた作り手として進化している。映画作家としてとても興味深いと思います。
さらに今年はVR部門にも力を入れ、ローリー・アンダーソンとシン・チャン・ユアン共作のVRインスタレーションも開催する。「飛翔」をテーマに、月への旅、空の浮遊、さまざまなテーマに別れた空間の探検といった、詩情溢れる3つの作品を発表。この3作品が一堂に揃うのはカンヌ初ということで、こちらも話題を集めている。
コンぺやある視点といったオフィシャル・セクションとはまた趣を異にする、意欲的なプログラムに注目したい。
取材・文/佐藤久理子
カンヌ映画祭スペシャル2019
<日本オフィシャル・ブロードキャスター>CS映画専門チャンネル ムービープラスにて
2019年5月25日(土)カンヌ映画祭授賞式 日本独占生中継ほか、受賞作&関連作計6作品放送