東洋のシンドラー『杉原千畝 スギハラチウネ』
第二次世界大戦期の日本の外交官・杉原千畝の半生を描く『杉原千畝 スギハラチウネ』(2015年)が、CS映画専門チャンネル ムービープラスで放送されます。
千畝はリトアニア領事館勤務時、本省(日本外務省)の指示に背いて欧州各地から逃れてきた難民たちにビザを発給して多くの人命を救ったことで、近年は「東洋のシンドラー」などと呼ばれたりします。「シンドラー」とは、もちろんスピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』(1993年)にちなむものです。
なぜ多くのユダヤ系を含む難民たちは、リトアニアに殺到したのでしょうか? その背景は本編でも触れられていますが、ナチス・ドイツは1938年3月にオーストリアを併合(『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』[2021年]などを参照)、1939年3月にチェコスロバキアを完全併合、そして1939年9月のポーランドへの侵攻(本作ではⅡ号戦車[※レプリカ]が登場)で世界大戦が勃発します。
翌1940年4月にはデンマークとノルウェーを占領、1940年5月にはフランスに侵攻して降伏に追い込む――と、東欧・中欧・西欧各国のほとんどがナチス・ドイツの勢力圏になってしまったために、逆方向のソ連に入国しシベリア鉄道で満州国に向かうルートしか残されていなかったのです。そしてアメリカや西欧各国が南米・アフリカ・東南アジアに擁していた植民地を目指すわけです(これは地球儀を見ると分かりやすいでしょう)。
また満州では、駐留していた樋口季一郎陸軍中将(最終階級)がユダヤ系難民を保護、上海までの脱出の便宜を図ってもいました。
この2人に共通しているのは「理不尽な迫害に苦しむ人々を助ける」という不変の真理を、所属組織の方針に背いても、貫く信念と勇気を持っていたことだと思います。「自分は何のために今の立場にいるのか?」がますます蔑ろにされている昨今、学ぶべき姿勢ではあると思います。
監督はチェリン・グラック。千畝を唐沢寿明が、幸子夫人を小雪が演じています。
“玉砕”の島サイパンで在留邦人を護った『太平洋の奇跡 ―フォックスと呼ばれた男―』
そのチェリン・グラックがアメリカ・パートの脚本/監督を務めたのが、同じくムービープラスで放送の『太平洋の奇跡 ―フォックスと呼ばれた男―』です(本監督は平山秀幸)。こちらも唐沢寿明が助演的に登場、その“荒ぶる古参兵”キャラは物語のポイントになっています。
1944年6月、アメリカ軍は日本の国連委任統治領だったマリアナ諸島攻略戦を開始します。目的は日本本土を爆撃するB-29出撃地とするためです。そのひとつであるサイパン島で、部隊の規律を維持して在留邦人を保護しつつ抵抗を続けた(※)実在の大場栄陸軍大尉の史実がベースです。
現実はもっと凄惨な有り様だったようですが、自国民を守るという組織文化が希薄だった当時の日本軍において、民間人保護に意を払ったことは評価すべきでしょう。ただし大場大尉はもともとは教師の、いわゆる予備役将校であって、日本軍文化とは一線を画する人だったのかもしれません。
杉原千畝、樋口季一郎、大場栄……。残酷で愚かな時代でしたが、人として為すべきことを為した人は、洋の東西を問わず存在したのです。
(※)大場部隊が降伏したのは終戦から約3か月後の1945年12月1日。
『杉原千畝 スギハラチウネ』『太平洋の奇跡 ―フォックスと呼ばれた男―』『戦略大作戦【吹替完全版】ムービープラスオリジナル』『バルジ大作戦』
CS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:終戦の日 あの頃の世界」で2023年8~9月放送