中国ドラマ界の新潮流
中国ドラマと言えば、三国志に代表される重厚な「歴史スペクタクル」、古代中国風の世界を舞台としロマンスを主軸に置いた「ラブ史劇」という時代劇系のジャンルが人気だが、今、その流れが変わりつつある。新ジャンルの台頭だ。現在、中国で制作されるドラマが多様化しており、国や文化を超えて人の心を揺さぶる作品が多く誕生。日本にも次々と上陸している。
その中でも注目のジャンル「サスペンス」をピックアップしたい。現在、中国では『バッド・キッズ 隠秘之罪』(2020年) に代表される2010年代後半〜2020年頃のサスペンスドラマのヒットを受け、同ジャンルの人気が急上昇。2022年だけで20作以上が放送されているという。中国ドラマの新定番になるかと期待されているが、今回は、そのブームの立役者から最新作までを紹介したい。
「今、中国サスペンスはこんなに面白いのか!」
中国のサスペンスドラマは、これまでに何度かブームがあり、過去には歴史的人物を主役に据えた作品や、刑事物などが制作。中には後に何度もリメイクされる名作も存在するが、作品の多くは中国国内で視聴されるのみにとどまっていた。
そんな中国サスペンスの評価が国外でも高まったのが、2010年代である。例えば、証拠なき奇妙な殺人事件に挑む『Burning Ice <バーニング・アイス> -無証之罪』(2017年)は、巧みな構成と綿密な人間ドラマを描き出し、アジアンノワールの傑作と称されることに。
続いて、社会派サスペンス『ロング・ナイト 沈黙的真相』(2020年) の3つの時間軸が交錯するという複雑な構成は、中国内外で「今、中国サスペンスはこんなに面白いのか」と衝撃を与えた。
また、連続殺人事件に巻き込まれた3人の子供を主軸に描く『バッド・キッズ 隠秘之罪』は、事件の真相だけでなく、子供たちの心や家庭、社会問題にまで切り込み、中国で社会現象に。2020年釜山国際映画祭のアジアコンテンツアワードでベストクリエイティブ賞、 新人俳優賞を受賞した。これは、中国ドラマ史上初 の快挙だったそうだ。
「ラブ要素」や「歴史劇」をプラスし多様化するサスペンス作品
これらの作品のヒットによって、視聴者の期待は一気に高まり、中国サスペンスものはより質の高い構成と多様化への道を進むことに。2021年以降を見ると、『宮廷恋仕官~ただいま殿下と捜査中~』(2021年)は史劇ならではの世界観と本格的な謎解きで、ラブ史劇ファンとサスペンスファン双方から支持を得ている。
また、三国時代の蜀のスパイが主人公の『風起隴西<ふうきろうせい>-SPY of Three Kingdoms-』(2022年) は、サスペンス劇であると同時に、新感覚・三国志ものとして、三国志ファンの多い日本でも高く評価された。
天才捜査官×無骨刑事『猟罪図鑑~見えない肖像画~』
この多様化の流れの中で登場したのが、2023年1月にLaLa TVで日本初放送予定の『猟罪図鑑~見えない肖像画~』(2022年)だ。本作は、「3歳の頃の写真から35歳の姿を描き出せる」という天才的な似顔絵捜査官・沈翊(シェン・イー)と、無骨な人情派刑事・杜城(ドゥー・チョン)のバディもの。現在進行形の事件の捜査を進めながら、7年前の未解決事件の真相に迫っていくという二階建ての構成である。
主役の二人は7年前の未解決事件からの因縁があり、特に杜城はある出来事から沈翊を恨んでいるかのような素振りを見せる。しかし、捜査においては、理論派の沈翊と、足で稼ぐ杜城のそれぞれの手法が互いを補い合うかのように相乗効果を見せていく。いくつもの事件を経て互いを認め合い、ネガティブな感情から信頼へという絆の深まり方は、心にグッと迫るものがあるだろう。
サスペンスとしての本作の新規性は、何と言っても美しいアートワークと芸術を用いた謎解きだ。監督を務めたシン・ジエンジュンによると、事件によって美術や画面の色合い、光の加減、カメラワークを変えて犯人が背負う殺人への動機を表現しているという。そこからは、いわゆる「ガラスの天井」問題、人間関係のトラブル、生きることの無力感など多くの人が一度は味わったことがあるであろう人生の苦味が、ふと醸し出されているのだ。もちろん、殺人は許されることではないが、犯人には犯人の道理があることを、画面からエモーショナルに伝えることでより物語の深みが増しているのである。
謎解きには、沈翊による芸術の知識や技法が用いられるが、実はアートとプロファイリングを融合させた手法で、想像以上に科学的だ。芸術を用いた謎解きと言っても、決して感性のみに頼ったものではないのである。しかも、捜査における着眼点は独創的で、新鮮味とワクワクが感じられる。
タン・ジェンツー×ジン・シージャーの凸凹ぶりに注目
そんな本作の主役には、沈翊役に『三国志~司馬懿 軍師連盟~』(2017年)、『三国志 Secret of Three Kingdoms』(2017年)で陰のある役どころを好演し、『君、花海棠の紅にあらず』(2020年)で京劇役者を演じて新境地を開いたタン・ジェンツー。
杜城役は『河神Ⅱ-Tianjin Mystic-』(2020年)で個性的な主人公を演じた実力派俳優のジン・シージャーだ。この二人が演じることで、「繊細な天才肌」と「無骨な努力家」という対比が一層明確になり、二人の関係性により高い温度感を与えてくれた。
演技力に定評のある二人が熱く演じた人間ドラマと、サスペンスとしての新規性は中国で高く評価され、2022年上半期の各種視聴ランキング上位を独占。早くも続編が期待されている。
このように盛り上がりを見せている中国サスペンス劇だが、これでもまだ成長中のジャンル。今後、視聴者の期待を超えてさらなる名作が登場するのだろうか? 今後も注目していきたい。
文:沢井メグ
『猟罪図鑑~見えない肖像画~』は2023年1月4日(水)21時よりLaLa TVで日本初放送
放送日時: 1/4(水)21:00~女性チャンネル♪LaLaTVで日本初放送
※毎週(月)~(金)21:00~22:00
出演:タン・ジェンツー(「大唐流流~宮廷を支えた若き女官~」「君、花海棠の紅にあらず」)
ジン・シージャー(「河神Ⅱ-Tianjin Mystic-」「美人制造~唐の美容整形師~」)
チャン・ボージア(「摩天楼のモンタージュ~Horizon Tower~」)
ジュー・ジアチー(「私だけのスーパースター~Mr. Fighting~」)
監督:シン・ジエンジュン
脚本:ジア・ドンイエン、ウー・ヤオ
『猟罪図鑑~見えない肖像画~』
容疑者の似顔絵を驚くほど的確に描く特異な才能を持つ沈翊(シェン・イー)。 彼はその腕を買われ、警察の捜査チームに加わることになる。 そこでコンビを組むこととなったのが刑事・杜城(ドゥー・チョン)。 杜城は新人の頃に上司を事件で亡くしていたが、その事件の発端は沈翊が描いた似顔絵だった。 沈翊を恨む杜城、しかし相棒として行動を共にするうちに、徐々に厚い信頼関係を築いていく。
出演:タン・ジェンツー ジン・シージャー
チャン・ボージア ジュー・ジアチー
制作年: | 2022 |
---|
2023年1月4日(水)21時よりLaLa TVで放送