まず僕自身は『スター・ウォーズ』ファンであるし、それなりの知識と愛を持っています。そして本ドラマ・シリーズのベースとなる映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)も大好きです。
しかしながら、『キャシアン・アンドー』には正直あまり期待していなかったんですね。でもシーズン1の全12話を見終えた今の感想は、アンドー・ファミリーに心から謝りたい。大変見応えのあるドラマ・シリーズでした!
個性豊かな『ローグ・ワン』からアンドーが選ばれた理由
そもそも僕が本ドラマを甘く見ていた理由は、アンドーというキャラクターにそこまで魅力を感じていなかったからです。
『ローグ・ワン』には本当に個性豊かなキャラクターが登場します。もしこの映画の前日譚を作るのであれば、むしろ主人公のジン・アーソや強烈な印象を残したチアルート・イムウェとベイズ・マルバスのコンビをフィーチャーして欲しかった。アンドーでは地味になるな、と。しかし、これが大正解だったのだと思います。
キャラのインパクトが弱い(←あえて言います)ぶん、ストーリーで見せていくドラマになっています。そして見ているうちに、どんどんアンドーに共感してしまうのですね。
このドラマにはジェダイやマンダロア等の超人的な存在は出てきません。敵も含め、ほとんど“普通の人間”です。これは“スター・ウォーズの世界観を使った人間ドラマ”なのです。
「善の反乱軍VS悪の帝国軍」という構図に留まらない群像劇
※以下、物語の内容に触れています。ご注意ください。
本ドラマは、『ローグ・ワン』では反乱軍の情報部の将校(つまりスパイ)として描かれたキャシアン・アンドーの若き日を描きます。時代的には『ローグ・ワン』~『スター・ウォーズ』(『エピソード4 新たなる希望』:事実上のスター・ウォーズ1作目)から5年ほど前。銀河皇帝パルパティーン率いる帝国軍による圧政が始まりかけている銀河です。
スター・ウォーズの物語の中で、帝国軍と戦う存在として重要な役割を担う反乱軍/レジスタンスは、まだ誕生していません。そう、アンドーはいかにして反乱軍きってのスパイになったのか? 反乱軍はいかにして生まれたのか? が語られていきます。ことの発端は、帝国軍からくすねたメカのパーツを売り飛ばして生計を立てていたアンドーが、ルーセン・レイエルという男と出会ったこと。このルーセンは“反乱軍”を作り上げようとしている人物だったのです。
ルーセンはアンドーの腕を見込み、ある計画(帝国から見ればテロ計画)に参加させます。この事件がきっかけで帝国はますます圧政や取り締まりを強め、それに伴い反帝国の気運も高まってくる。当然、アンドーもこの流れに巻き込まれていくわけですね。
アンドー自身かなり複雑な過去を持ち、服役経験や従軍した過去もある。彼には「帝国を倒して銀河に自由を取り戻そう」的な大義や正義感はない。とにかく、その日その日をどう生きるかという人物です。生き残るためには相手を殺す非情さも持っているし、戦闘スキルも高い“サバイバー”です。ルーセンも、将来の“反乱軍”誕生のためには手段を選ばない。
一方、アンドーたちを追う帝国側や当局側にもドラマがあり、帝国の秩序を守るため職務をまじめに果たそうとしています。反乱軍=善、帝国軍=悪という構造ではなく、それぞれの立場にいる主要登場人物たちの思惑がぶつかりあう群像劇になっています。
僕が冒頭で“人間ドラマ”と書いたのは、まさにそういう意味です。しかしながら、『スター・ウォーズ』らしい宇宙アクションとしての見せ場も用意されています。
やっぱり今回も小ネタ満載!『アンドー』トリビア9連発
シーズン1は全12話ですが、3話で1つの大きな話が語られます。4~6話は宇宙版『オーシャンズ11』的な敵基地への潜入大作戦、7~9話は宇宙刑務所からの大脱走、そして10~12話はメイン登場人物が入り乱れての大団円的バトルとなります(正直、最初の1~2話は地味なんですが、3話から本当に面白くなるので)。
タイ・ファイターやストームトルーパーといった『スター・ウォーズ』らしい要素も出てきます。またビー(Bee)と呼ばれる、R2-D2やBB-8的な役割を担うドロイドB2EMOも登場。宇宙空間でのスペース・シップ同士の宇宙戦(ドッグ・ファイト)もちゃんとありますよ。
ここで、いくつか『スター・ウォーズ』好きのための細かいトリビアを挙げておくと……
①:元保安監査チームの副捜査官で、アンドーを追うことに粘着質な面を見せるシリル・カーン。彼が母親と朝食を食べるシーンに登場するミルクが青色。『スター・ウォーズ』でルークが飲んでいたミルクも青色でしたね。敵側にもこういった生活描写を入れて掘り下げているのが本ドラマ・シリーズの特徴です。
②:今回、アンドーのブラスター(光線銃)がとにかくカッコいいんですが、これは『スター・ウォーズ』のゲーム「スター・ウォーズ ダークフォース」に登場するキャラ、カイル・カターンの使っていたK-16ブライヤーというブラスターに似ています。
The K-16 Bryar Pistol was a model of blaster pistol used by the soldiers of the Rebel Alliance during the Galactic Civil War against the Galactic Empire. Deceptive by design, the K-16 appeared to be a regular pistol; however, it featured a modified power unit capable of releas... pic.twitter.com/7IcMK80JLC
— Wookieepedia Status Article Showcase (@WookShowcase) September 17, 2022
③:『ローグ・ワン』の公式ブックでは、アンドーの出身地(生まれた星)はフェストとなっていました。しかし、このドラマではアンドーの本当の生まれはケナーリ星で、フェストは素性を隠すための偽証だったことがわかります。
④:モン・モスマ議員が夫のギャンブル癖を非難する際に「カント・バイトに行けばいい」的なことを言いますが、これは『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017年)に出てきた惑星カントニカにあるカジノ都市のことです。
From the tables of Canto Bight's casinos to the stables housing its famous fathiers, here are 10 aliens you should know. #TheLastJedi https://t.co/yjK1p8mXRY pic.twitter.com/bNGEyd3Qip
— Star Wars (@starwars) January 14, 2018
⑤:帝国の刑務所ナーキーナ5。ここの描写はジョージ・ルーカスのデビュー作であるディストピア映画『THX-1138』(1971年)のオマージュです。なお、この刑務所でアンドーたちが作らされていたのがデススターのパーツだったことが、12話のエンド・クレジットのおまけシーンでわかりますね。
⑥:タイ・ファイターの戦闘服がグレーですが、『スター・ウォーズ』以降は黒でした。ただ本作とほぼ同時代の作品であるアニメ『スター・ウォーズ 反乱者たち』(2014年~)のタイ・ファイターの戦闘服がグレーっぽいので、それと合わせたのかも?
⑦:アンドーが語る過去の中で「ミンバンの戦いに参加した」というものがありますが、映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年)で若き日のハン・ソロがチューバッカと出会うのが、このミンバンの戦いです。
⑧:第7話で帝国保安局(ISB)のウルフ・ユラーレンなる人物が登場し、今後の帝国の指針を皆に伝えます。この人物、『スター・ウォーズ』でデススター内の会議室のシーンにちらりと登場(もちろん今回とは違う役者さんです)していて、つまり実写登場は2度目。アニメ『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』(2008~2020年)や『反乱者たち』には割と登場していますね。
⑨:ナーキーナ5の囚人たちのリーダーであるキノ・ロイを演じるのは、なんとアンディ・サーキス。彼は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)以降、スノークを演じています。『スター・ウォーズ』シリーズで同じ役者さんが違う役で出るのは珍しい! なおアンディ・サーキスさん(←ここは“さん”付にさせてくだい:笑)、先日来日した東京コミコンで、本エピソードの名セリフ「ONE WAY OUT」を会場のお客様と一緒にコールしてくれました!
『SW』世界における“ファミリーネーム”の重要性とは?
――いかがだったでしょうか? とにかく見応えたっぷり、そしてアンドーを好きになること必至です。なお、今回の原題が『ANDOR』と主人公のファミリー・ネームであることにも注目してください。
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』も原題は『Solo: A Star Wars Story』でした。“ソロ”という苗字をあとから名乗ります。そしてエピソード9『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019年)でレイは、最後に“スカイウォーカー”姓を名乗ります。
『スター・ウォーズ』の世界において、ファミリー・ネームが重要なことがわかります。ファミリー・ネームを持つことで自分が何者であるのか、腹を決めているようです。キャシアンは、なぜアンドーの姓を受け継いだのか? それは彼が反乱軍に加わっていく大きな意志表明でもあったのです。
キャシアンが真のキャシアン・アンドーとなって活躍するシーズン2が待ち遠しい!
文:杉山すぴ豊
『キャシアン・アンドー』はDisney+(ディズニープラス)で独占配信中
『キャシアン・アンドー』
“スター・ウォーズ最高傑作”と評される『ローグ・ワン』で、冷静沈着な情報将校として命懸けのミッションに挑んだキャシアン・アンドー。彼はいかにして反乱軍の英雄になったのか? 『エピソード4』の5年前、帝国軍の恐怖に支配された時代を舞台に、伝説の原点へと続く反乱軍誕生の物語が幕を開ける!
出演:ディエゴ・ルナ ステラン・スカルスガルド ジュネヴィーヴ・オーライリー
監督:トニー・ギルロイ
制作年: | 2022 |
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