「マッスル夫婦」に何があった?
サリー・マクニールと夫のレイは共にボディビルダーで、シュワルツェネッガー映画が好きな筋肉カップル。共に極限までカラダを鍛え、大会では優秀な成績を残していた。しかしサリーは「ボディビルが“終わりの始まり”だった」と振り返る。彼女たちに一体何があったのだろうか?
Netflixのリミテッドシリーズ『キラー・サリー:ボディビルダー殺人の深層』は、このマッスル夫婦の関係が破綻し、最悪の結末を迎えるまでを追ったドキュメンタリーだ。
苦しい生活、女性ボディビルダーへの偏見と搾取
サリーとレイはお互い海兵隊員で、アマチュアのボディビルダーとして活動。夫レイはプロを目指し軍を辞めるが、サリーは家族を養うために空き缶拾いなどをして何とかトレーニングを続けていた。しかし苦労の甲斐あってレイは大会で優勝し、プロの道へ進むことに。『超人ハルク』(1977年)でお馴染みルー・フェリグノとも大会で顔を合わせるなど、業界の第一線で活躍していたようだ。
本作は『アーノルド・シュワルツェネッガーの鋼鉄の男』(1977年)なども引き合いに出しながら、ボディビルディングの歴史も紹介。スポーツかアートか、それとも見世物か……現在でも何かと揶揄されがちなボディビルについて、元競技者ら関係者たちの発言から学ぶこともできるし、もちろんステロイド/テストステロンの問題にも言及される。
サリーは“レスリング映画”と称した筋肉フェチビデオなどにも出演し、やがて自身で制作会社を設立。男性経営者の搾取から逃れることも目的の一つだったが、ボディビルダーとしての成功は逆に遠のいていく。また極限まで身体を鍛えた女性には社会生活において様々なハードルがあり、結局は筋肉フェチの一般男性たち相手に“個人的なレスリング”をして金を稼ぎ、ステロイドが必要なレイに貢ぐという生活になっていた。
DV夫への正当防衛か、暴力妻の凶行か
大会で思うような結果が出せないレイは徐々に狂っていく。サリーが「彼の心の中には悪魔がいた」と振り返るように、日常的に凄まじい暴力をふるわれていたようだ。100キロ超えの筋肉の塊のような男から殴られたり首を絞められたりしていたのだから、サリーでなければすぐに殺されていたかもしれない。しかもレイは子どもたちも虐待していて、姉弟は涙ながらに当時の恐怖を語る。
闇に堕ちたレイによって、肉体的・精神的に追い詰められていったサリーたち。そしてある年のバレンタインデー、ついに最悪の事態が……。本作は家族のホームビデオや取り調べの様子など実際の映像が多く使用されていて、さらにサリーの素顔や女性ボディビルダーへの偏見、“パンプアップ・プリンセス”などと呼ばれた下世話な報道、難航する裁判などが描かれていくわけだが、ここから先の展開は実際に作品を観て確かめてほしい。
Netflixシリーズ『キラー・サリー:ボディビルダー殺人の深層』独占配信中
『キラー・サリー:ボディビルダー殺人の深層』
共にボディビルダーだったサリー・マクニールとその夫。2人の波乱含みの結婚生活は、ある年のバレンタインデーに殺人という形で終わる。
監督:ナネット・バースタイン
制作年: | 2022 |
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