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小澤征悦が村上春樹を語る! Amazon オーディブル『職業としての小説家』ほか村上作品の魅力と音声メディア最先端

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ライター:#加賀谷 健
小澤征悦が村上春樹を語る! Amazon オーディブル『職業としての小説家』ほか村上作品の魅力と音声メディア最先端
小澤征悦

俳優・小澤征悦が村上春樹を読み語る

豪華俳優陣による朗読作品やポッドキャストなど、多様な音声コンテンツが楽しめる<Amazon オーディブル>。音声メディアへの関心が高まる近年、注目作品を続々配信している。中でも、日本語原文として初のオーディオ化となる一連の村上春樹作品は、必聴の朗読作品だ。

『職業としての小説家』カバーアート

2022年6月1日から、『職業としての小説家』、『ねじまき鳥クロニクル―第2部 予言する鳥編―』、『螢・納屋を焼く・その他の短編』の3作品配信が開始。そして『さよならの力 大人の流儀7』(伊集院静 著)に続いて2度目のAmazon オーディブル作品となる『職業としての小説家』の朗読を務めたのが、俳優の小澤征悦だ。

村上春樹作品に深い思い入れがあるという小澤さんは、今回の朗読について「春樹さんがずっと側にいる感覚」と話す。作家自らが小説執筆の過程を綴る本作の魅力や、<Amazon オーディブル>作品の可能性を聞いた。

小澤征悦

「春樹さんがずっと側にいる感覚でした(笑)」

―今回は、小澤さんにとって『さよならの力 大人の流儀7』に続く2度目のAmazon オーディブル作品です。村上春樹さんの『職業としての小説家』を朗読された率直な感想から教えてください。

村上春樹さんは大好きな作家です。“ハルキスト”とまで言っていいかは分かりませんが(笑)、小説作品はすべて読んでいますし、何度も同じ作品を読み直しています。デビュー作『風の歌を聴け』は、何十回読んだか分かりません。今は『ねじまき鳥クロニクル』を読み直しているところです。

随分前ですが、NHKのラジオ番組で春樹さんの『遠い太鼓』という旅行記を朗読したんです。その時に、朗読することの楽しさと大変さを身をもって体験しました。でも今回『職業としての小説家』の朗読オファーをいただいた時は、もちろん二つ返事で。春樹さんの世界観に入りたい気持ちが、大変さを上回りました。

小澤征悦

―リスナーを村上春樹作品の世界へ導く上で、一番心がけたこと、あるいは足がかかりにしたことを教えてください。

春樹さんは、音楽性を大切にされています。そこは僕なりに敬意を表しながら、春樹さん特有のテンポ感を具現化することを考えました。朗読は、自分が声に出して心地よいリズムだと、聴き返した時に早口で何を言っているかわからず、意識の向こう側に音が過ぎていってしまうんです。

今回はリスナーのみなさんが聴き易くなるように、声を少し高めに設定して、ちょっと自分で気持ち悪いなと思うぐらいの遅さで、速すぎないように心掛けました。それから意味が伝わり易い速度も意識しつつ、春樹さんの文脈に流れる音の綺麗な繋がりを壊さないようにしています。

小澤征悦:Amazon オーディブル『職業としての小説家』

―小説作品ではなくエッセーというところも、より表現するのが難しかったところでしょうか?

春樹さんがずっと側にいる感覚でした(笑)。『職業としての小説家』は春樹さんの思考がそっくりそのまま書かれているので、最初から最後まで“村上春樹”なんです。春樹さんの言葉遣いや考え方を理解しないと、ただの言葉の羅列になってしまいます。春樹さんの小説の大元が凝縮されている難しさはありました。

けれど逆に言うと、今回『職業としての小説家』を朗読して、改めて村上春樹作品が好きになりました。なぜこういうスタイルになったのかが、よく分かる。自分にとってすごく価値のある体験でしたし、聴いてくださるリスナーさんが、村上春樹という小説家のことをより深く理解できると思います。まだ読んだことがない方でも、春樹さんの人となりに触れることを足がかりに、小説の世界観に入ることができるんだなと思いました。

小澤征悦:Amazon オーディブル『職業としての小説家』

「役者を始めるきっかけとしての啓示」

―『職業としての小説家』の第1回「小説家は寛容な人種なのか」で、ある晴れた日の午後、神宮球場で「啓示」を得た村上さんが、処女作『風の歌を聴け』を書き始めるエピソードが鮮やかでした。好きなフレーズを教えてください。

仰るように、神宮球場でのくだりは素晴らしかったです。それからもうひとつ、第2回「小説家になった頃」の最後。原宿を歩いていた春樹さんが、傷ついた鳩を抱いた手の温もりが今でも自分の手の中にある、という描写です。

「僕としてはそのようなものごとの有り様に、ただ素直に感謝したい。そして自分に与えられた資格を――ちょうど傷ついた鳩を守るように――大事に守り、今でもまだ小説を書き続けていられることをとりあえず喜びたい」とあります。この体験がなかったら、小説家としての村上春樹は誕生していないわけです。人生は小説より奇なりだと思います。

小澤征悦

―小澤さんが俳優になる以前に、村上さんと同じように啓示のような体験はありましたか?

それを自分でも考えてみたんです。僕は学生時代に1年間、日本の大学を休学して交換留学でアメリカのボストン大学に行きました。英語の勉強を兼ねていましたが、もともと映画監督になりたくて、映画を撮るカット割りの勉強を始めたんです。その流れで芝居の勉強にも興味が向きました。演技クラスの期末テストでは、自分で作品を選んで発表しました。すると、僕の発表に対して先生が拍手をして「Wonderful」と言ってくれたんです。すべて自分の中から生まれたものを観た先生が、そう言ってくれた。単純に嬉しかったのと同時に、こういう世界があるのかという感覚でした。その「Wonderful」という一言が、僕が役者を始めるきっかけとしての啓示だったと思います。

小澤征悦

「音は、その場の瞬間を支配するんです」

―日常からよく意識して憧れている人がいるのですが、その人のことをテレビなどの映像で見たあとではなく、ラジオで声を聴いた夜に、初めてその人が夢に出てきたんです。聴覚が視覚よりも、いかに根源的なものであるかを示すような体験でしたが、音声コンテンツの価値はどんなところにあると思いますか?

“音”は根底にあるものだと思います。その夢のお話を聞いて、なるほどと思いました。今、この空間でクラシック音楽が流れていたら、ゆっくりした世界観になります。マイルス・デイヴィスの曲が掛かっていたら、ジャジーな夜の雰囲気になる。音は、その場の瞬間を支配するんです。一番分かりやすいのが、オリバー・ストーン監督の『プラトーン』(1986年)です。凄惨な戦闘シーンでサミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ」が流れますよね。そこでラップが流れていたら、まったく印象が違ったでしょう。あの音楽だからこそ、より戦争の悲惨さが際立つ。

さらに音は、思い出と直結するのではないでしょうか。ギルバート・オサリヴァンの「アローン・アゲイン」という曲が大好きなんですが、この曲を聴くとニューヨークを思い出すんです。今回のAmazon オーディブル作品『職業としての小説家』でもそういう力が、少しでもリスナーに呼び起こせたらいいなと思います。

小澤征悦:Amazon オーディブル『職業としての小説家』

「人生がより豊かになること。それがAmazon オーディブルの可能性」

―音声コンテンツが注目されている今、あらためてAmazon オーディブルの可能性について教えてください。

コロナ禍を経て、Amazon オーディブルの将来性と可能性はすごくあると思います。需要もあるし、意義を感じる試みの作品ばかりです。

『ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編』カバーアート

―映像コンテンツが進化する一方で、TikTokなど10秒足らずで何かを表現してしまえるSNSの時代となり、長編の物語が求められなくなっています。だからこそ『職業としての小説家』は、物語の重要性を改めて考えるきっかけになると思います。

TikTok等で発信されるメッセージは可愛らしくて面白いですが、すぐに流れていってしまうような一過性の感覚があります。一方で今、レコードが見直されていたり、アナログの良さに原点回帰する動きも見られます。人の世代は変わるけれど、人の本質的な部分は変わらないと思うんです。長編小説を読む手触りは、素晴らしい体験です。それを、さらにオーディオ作品として耳から入ってくる情報として、より自分の直感に近い部分に届けることができる。そして、村上春樹さんのような物語を語ろうとする素晴らしい才能が、これからも素晴らしい作品を供給してくれます。

有事になった場合、極論、芸術家は必要とされなくなるかもしれません。でも衣食住とは関係なくても、人は必ずエンターテインメントを必要とするんだと思います。多種多様なオーディオ作品が製作され、多くのリスナーがそれを聴いて楽しむ。人生がより豊かになること、それがAmazon オーディブルの可能性です。

小澤征悦

取材・文:加賀谷健

『職業としての小説家』『ねじまき鳥クロニクル 第2部 予言する鳥編』『螢・納屋を焼く・その他の短編』はAmazon オーディブルで2022年6月1日より配信中

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Amazon オーディブル『職業としての小説家』

いま、村上春樹が語り始める――⼩説家は寛容な⼈種なのか……。村上さんは⼩説家になった頃を振り返り、⽂学賞について、オリジナリティーについて深く考えます。さて、何を書けばいいのか? どんな⼈物を登場させようか? 誰のために書くのか? と問いかけ、時間を味⽅につけて⻑編⼩説を書くこと、⼩説とはどこまでも個⼈的でフィジカルな営みなのだと具体的に語ります。
⼩説が翻訳され、海外へ出て⾏って新しいフロンティアを切り拓いた体験、学校について思うこと、故・河合隼雄先⽣との出会いや物語論など、この本には⼩説家・村上春樹の⽣きる姿勢、アイデンティティーの在り処がすべて刻印されています。⽣き⽣きと、真摯に誠実に――。