待望のボバ・フェット単独ドラマ
『スター・ウォーズ』シリーズ最新作にして、ディズニープラスの看板作品である『マンダロリアン』(2019年~)の直接的続編という位置づけのドラマ『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』。ファンに人気のキャラが続々登場し大きく話題になった一方で、1つのシリーズとしてはどうだったのかというと、ファンの間でもかなり評価の分かれるところになったが、それでも個人的にはだいぶ楽しませてもらえたシリーズだった。
※『ボバ・フェット』『マンダロリアン』本編の内容に触れています。ご注意ください。
ファン垂涎のストーリー展開
『マンダロリアン』シーズン2の最後でジャバ・ザ・ハットの宮殿を乗っ取り銀河に足跡を残さんとする元賞金稼ぎのボバ・フェットが、モス・エスパ(かつてジャバの支配下にあった街)の新たな“大名”として直面する問題と、死んだと思われていたボバがどうやって復活したかを描いた本シリーズ。
『スター・ウォーズ』のファンとしては、サルラックの巣に落ちたボバがどうやって生き延びたのかは(今となっては正史扱いにされていない過去の派生作品でなんとなく知っていたとはいえ)気になるところであり、そこがしっかり描かれたのは嬉しかったところ。
その過去編が、物語の大部分の舞台となる惑星タトゥイーンの原住民であるタスケンによって捕らえられたボバが彼らと交流し仲間として迎えられることで、冷酷な賞金稼ぎだったボバの心に変化が起こり、モス・エスパの“大名”となる理由づけになっていくのは面白かった。
また、その交流の過程で言わば銀河の麻薬カルテルであるパイクの輸送列車をタスケンと共に襲うという、いかにも西部劇的な列車強盗シーンが展開されワクワクさせられた。このあたりは同チャプターの監督であり、今回は製作としても参加しているロバート・ロドリゲスお得意の味が感じられる作りだろう。
ただ、その一方でメインとなる新“大名”ボバ・フェットとしての仕事ぶりがあまり描かれず、別のストーリー軸が挟まるため、1つのシリーズとしてのまとまりがなく、どうしてもそこが評価が分かれる原因ともなったのだろう。
ブライス・ダラス・ハワードに映画シリーズを!
その別のストーリー軸というのが、チャプター5「マンダロリアンの帰還」から始まる一連のエピソードだ。このチャプターでは、『マンダロリアン』シーズン2の後のマンダロリアンことディン・ジャリンが何をしていたかが描かれる。
彼は賞金稼ぎとして活動を続けながら、自分が所属していた「チルドレン・オブ・ザ・ウォッチ」(マンダロリアンのカルト。劇中では民族/トライブとも)の行方を突き止め、彼が手に入れたダークセイバーが持つ宿命を知ることとなる。
そしてタトゥイーンに向かい、破壊されたレイザークレストの代わりとなる新たな戦闘機を手に入れ、ボバの戦いに加わることを約束しつつ、ジェダイに預けたグローグー(ザ・チャイルド)の様子を見に向かう……という流れなのだが、まぁもうそのすべての描写が素晴らしかった。
賞金稼ぎとしてのアクションを見せつつ、『マンダロリアン』シリーズで掘り下げてきたマンダロリアンという民族の文化・歴史の掘り下げ、そしてタトゥイーンでなかばスクラップ状態の戦闘機を組み立て超カッコいいビークルを登場させるという『マンダロリアン』の過去シーズンでやってきた面白い部分を凝縮させたような作りは実に見事と言うほかなし。
『マンダロリアン』シーズン1で言及されただけの「千の涙の夜」がついに描かれたり、ディン・ジャリンの新たなビークルが映画『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)に登場したN-1スターファイター(ナブー・スターファイター)だったり、ゲーム「ジェダイ:フォールン・オーダー」に登場するドロイド・BD-1と同じ型のBDユニットが登場したりとファンサービスも特盛で大満足。
N-1スターファイターがいかにもアメリカのクラシックなマッスルカーのような改造がされるあたり、製作・脚本のジョン・ファブローの趣味も感じさせられる。『アイアンマン』(2008年)でも顕著だったが、マシーンを組み立てる物語の作りが上手い。見ていて、おもちゃが欲しくなる!
そして話の構成もテンポも画作りもすべてが最高の出来で、このチャプターの監督ブライス・ダラス・ハワードはとんでもない腕を見せてくれた。『マンダロリアン』の担当パートも完璧だったが、今回はそれを上回っている。多くの人にとって、このシリーズのベストエピソードとなっただろう。
彼女は俳優としても大活躍中で『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(2022年7月29日公開)にも出演予定だが、ここはぜひ『スター・ウォーズ』の新作をまるごと一本手掛けて欲しいところだ。
Happy Boba Day 💚 #TheBookofBobaFett #StarWars #LoveMyJob pic.twitter.com/WKxuHQjmWz
— Bryce Dallas Howard (@BryceDHoward) January 26, 2022
全7話では語りきれぬ内容
続くチャプター6「砂漠から来た流れ者」では、グローグーがルークの元でどんなトレーニングを積んでいるかが描かれる。ここでのルークは『マンダロリアン』シーズン2とは異なり、明るい場面でがっつりアクションをしたり大写しになったりする。まだまだ場面に寄っては違和感こそあるものの、合成テクノロジーの進化が大きく感じられる。ここは後に公開されるであろうメイキングでも気になるポイントだ。
そして最後に、タトゥイーンではキャド・ベインが登場。実写映画/ドラマに登場していないので馴染みが薄いという人も多いかもしれないが、キャド・ベインは『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』シリーズ(2008~2020年)の数多くのエピソードに登場したキャラクターで、凄腕の賞金稼ぎとして名を馳せ分離主義勢力や犯罪組織と手を組み、共和国やジェダイたちを苦しめた強敵。ボバ・フェットがまだ子供だった頃から知っており、彼の父ともライバルだったことが匂わされていたりした因縁深いキャラクターだっただけに、アニメのファンとしては待望の実写化だった。
また、最終話(チャプター7「名誉のために」)で両者の間で交わされるセリフやキャド・ベインの装備を見る限り、未公開エピソードでボバ・フェットとキャド・ベインの決闘が起こったことになっていたりするあたりは、『クローン・ウォーズ』の総監督が関わっているシリーズだけあってネタが細かい。その決闘も、いずれちゃんと映像化されるのだろうか……?
ちなみにキャド・ベインはボバ・フェットに殺されたかのように描写されていたが、よく見てみるとキャド・ベインの胸の装備がなにか音を発しており、アニメでいろんな装備を仕込んでいたキャド・ベインのことなので、おそらく発信機かなにかで、危険時に手下のドロイド・トド360に連絡できるようになっていたりするのではないだろうか。せっかく実写化したのにすぐ死んだことを嘆く声もあったが、個人的には再登場するんじゃないかと思っている。
There's a new bounty hunter in town. See the return of Cad Bane and Todo 360 in episode eight of Star Wars: @TheBadBatch, now streaming on @DisneyPlus. #TheBadBatch pic.twitter.com/EtXL2StmaJ
— Star Wars (@starwars) June 21, 2021
話が前後してしまうが最終話では、ボバ・フェットと仲間たちがディン・ジャリンと共にモス・エスパの街でパイクの送り込んだ兵隊やドロイドと激しい銃撃戦を繰り広げる。コンセプトアートを基にした巨大ドロイドとランコアが戦う熱いシーンもあり、エンタメとしてもファンサービスとしても素晴らしく、またボバとキャド・ベインの決闘の中で「ボバが殺し屋ではない何者かになれるのか」という、このシリーズのテーマを描いた。
ただ、繰り返しになるが『マンダロリアン』関連の話に割いた時間が大きかったため、『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』というタイトルの割にはキャラクターの掘り下げや活躍の描写が少なく、そこに関してはどうしても消化不良だった。
『スター・ウォーズ』シリーズ中で抜群の人気キャラクターでありながら、映画シリーズではほとんど活躍してこなかったボバ・フェット。そんな彼が小説やコミックといった派生作品で肉付けされ、さらに多くのファンの心を掴み、長年単独作品が計画されるも頓挫を繰り返した中でついに実現した作品だっただけに、「もっとボバを見せてよ!」という気持ちが湧いてしまう。
それでもテムエラ・モリソンが演じるボバは素晴らしかったし、ただただもうちょっとだけ掘り下げるための話数が欲しかった。7話じゃあ、ちょっと少なすぎる。今後シーズンが続くかは分からないが可能性は十分あると思うので、これからの発表を楽しみに待とう。ボバとフェネックが街のトラブルを解決していく、といった感じでやって欲しいところだ。
またボバ・フェット成分は足りなかったにせよ、予想以上に『マンダロリアン』シーズン2から3への“つなぎ”としてしっかり作られていて、ちゃんとその続きが見たくなるようにはなっているあたりはディズニープラスの上手さ。もう早く続きを見せてくれ!
と、少し厳しい感じのことも言ってしまったが、上に上げた数々のファンサービスに加えて、ルークのその後を描くことでシークエル(『エピソード7~9』)にもしっかり繋がる橋渡しをしてくれたところは大きく評価したい。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017年)の回想に登場するルークのジェダイ寺院が作られている過程が描かれるあたりは、後に悲劇が起こることが分かっているからこそグッとくるものがあった。
そして、コミックのキャラクターでボバ・フェットとも仕事をしていたウーキーの賞金稼ぎ、ブラック・クルルサンタンを超かっこよく実写化してくれたし(個人的にはここで評価が満点になっている)、なにより新しい『スター・ウォーズ』を供給し続けてくれる製作陣に感謝しておきたいところだ。
次なる『スター・ウォーズ』のドラマシリーズは『オビ=ワン・ケノービ』(2022年5月25日配信)。『ボバ・フェット』よりもさらに短い全6話構成と言われているが、しっかりオビ=ワンのストーリーが描かれることに期待しよう!
文:傭兵ペンギン
『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』はディズニープラスで独占配信中
『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』
舞台は「エピソード6/ジェダイの帰還」のその後。「スター・ウォーズ」史上最強の賞金稼ぎ〈ボバ・フェット〉 が、銀河の〈闇〉の支配へと乗り出す——
制作年: | 2021 |
---|---|
監督: | |
脚本: | |
音楽: | |
出演: |
ディズニープラスで独占配信中