NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)の<安子編>が、間もなくクライマックスを迎える。本作は、ラジオ講座とともに歩んだ祖母(安子)、母(るい)、娘(ひなた)の三世代のヒロインが紡ぐ100年間のファミリーストーリー。朝ドラ(NHK連続テレビ小説)で3人のヒロインがバトンを繋ぐのは史上初のことだが、一体どのような形でバトンタッチが行われるのか気になるところ。そこで本稿では、一代目ヒロイン・安子(上白石萌音)が歩んできた日々を、改めて振り返りたい。
瑞々しい恋を全力で応援した<安子編>
※物語の内容に触れています。ご注意ください。
1925年に生まれた安子は、戦中を力強く歩んだヒロインだ。空襲で母と祖母を失い、ほどなくして父まで……。苦難が連続しても、彼女がひたむきに生きてこられたのは、夫・稔(松村北斗)と娘・るいの存在があったから。
喫茶店で飲む珈琲の美味しさや、旋律のような英語。自転車に乗れた時の爽快感――。稔は安子に、たくさんの“はじめて”を教えてくれた。甘酸っぱくて初々しい2人の恋愛に、癒された視聴者も多いのではないだろうか。結婚に至るまでに様々な困難があったことも、2人の恋を応援する気持ちを盛り上げた。この稔の存在は、安子とるい、そしておそらくひなたの人生にまで、強い影響を与えている。
“るい”と名付けたのも父親の稔だった。この名前は「On the Sunny Side of the Street(ひなたの道を)」のルイ・アームストロングから取ったもの。おそらく“ひなた”の名前も、彼が遺した言葉「ひなたの道を歩いてほしい」に由来しているのだと思う。稔が戦死したあと、安子が掲げてきた「どれだけ辛くても、顔をあげて前を見て、ひなたの道を歩いていく」という誓い。それが娘のるいに伝わり、孫の名前にまで繋がっていくのが感慨深い。
母の安子と一緒に聴く“カムカム英語”が大好きなるいは、どのような女性に成長するだろう。公式サイトにて公開中の第8週予告動画では、男性に「るい」と呼ばれて振り返る深津絵里の姿を見ることができる。
命のバトンは<るい編>へと繋がれていく
るいをヒロインに据えた物語は、昭和30年代の大阪から始まるようだ。公式サイトに「錠一郎との出会いが、るいの運命を動かしていく」と書かれていることを受けると、謎の男“ジョー”こと錠一郎(オダギリジョー)が、るいとともに人生を歩んでいく相手なのか? 本作は、ヒロインと結ばれた男性が次なるヒロインの父親として登場するところも面白い。
さらに、AIが歌う主題歌「アルデバラン」にも本作ならではの魅力が詰め込まれている。まるで母から娘へのメッセージのようにも思える歌詞。娘から見た母は、生まれた時から“お母さん”であり、力強い存在に見えるものだ。だが、そんな母にも無我夢中で恋をして、苦しみのあまりに泣き、諦めそうになった夜もあったかもしれない。るいが生まれる前の安子が、そうだったように。
『カムカムエヴリバディ』の尊さは、そんなところにある。物語とともに、命のバトンが繋がれていく軌跡を辿っていくと、いま自分が存在する奇跡を感じることができるのだ。ついに開幕した<るい編>では、安子からバトンを受け取ったるいの日々が、幸せなものになることを願ってやまない。
文:菜本かな
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』はNHK総合で放送中
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
1925年3月22日。日本のラジオ放送開始と時を同じくして生まれたヒロイン・橘安子。岡山にある和菓子屋であんこの甘い香りに包まれて成長した安子は、繊維会社の跡取り息子で、商科大学に通う青年・雉真稔と出会う。偶然、稔が英語を話せることを知った安子は、教えてもらったラジオ英語講座で英語を勉強し始める。英語への思いと稔への恋心を募らせていく安子は、ある日、幼なじみで稔の弟の勇から「あんころ屋の女では兄と釣り合わない」という言葉を浴び、想いをあきらめようとするが……。
制作年: | 2021 |
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出演: |
NHK総合で放送中