「かくれんぼ」と「ドライフラワー」
恋は、いつも儚い。美しかった花が、あっという間に枯れてしまうように。その枯れた花を“ドライフラワー”にして大切に守っていくか、「もう枯れてるじゃん」と捨ててしまうかで、運命が分かれるのだろう。優里のヒット曲「かくれんぼ」と「ドライフラワー」の世界をドラマ化した作品『ドライフラワー -七月の部屋-』(Huluで独占配信中)を観て、そのことを思い知らされた。
本作は、同棲3年目を迎えたカップルの恋の始まりと終わりを描いた物語。3年目の同棲生活を薫(坂東龍汰)目線で描く第2話は「かくれんぼ」を、ゆりか(北香那)目線で描く第3話は「ドライフラワー」をモチーフにしている。
https://www.youtube.com/watch?v=Fz0fhHK-Yg0
あんなに相手のことばかり考えていたのに……
同棲を始めた当初は、理想的な関係だった薫とゆりか。だが、お互いに仕事が忙しくなるほどに、すれ違いが生まれていく。美術会社に勤める薫は多忙で、夜遅くに帰ってきたと思えば、仮眠をとってすぐに仕事に向かう……というような生活。一方、ゆりかは「小説を翻訳する」という大きな夢に向かって奮闘している。
同棲を始めた当初は“相手”のことでいっぱいだった心が、次第に“自分”のことばかりになっていく。床に散らばった本も最初は愛おしく思えたのに、「うざっ、また本か」とムカつくようになったり。「気付いた方がやろうよ」と言っていた家事だって、「そのくらいできるんじゃない?」と思うようになる。
正直、2人が別れることになったきっかけは、薫の心がゆりかから離れたことにあると思っていた。ずっと大事にしてきた“同棲記念日”も忘れていたし、ゆりかとの約束を、悪びれもなくドタキャンしていたからだ。
しかし、薫が会社でゆりかのことを「3年間、毎日可愛いです」と褒めている場面がある。先輩が「めちゃくちゃ好きだよね、彼女のこと」と言うということは、おそらく毎日のように薫は惚気ているのだろう。ただ、ゆりかにその想いは伝わっていない。
ある時、ゆりかは「さよなら」と一言残して、“突然”部屋から出ていってしまう。いや、彼女からすると、考え抜いてのことだったのだろう。仕事が大好きだからこそ、頑張りたい自分に「そんなに頑張らなくてもいいんじゃない? 俺、春から給料上がったし」と言ってくる薫に対する「なんか違う……」という小さなズレがいつの間にか大きくなり、「薫くんが私のためにやることが全然、嬉しくないな」と気付いてしまった。
心のすれ違いに気付かない彼氏と、ハッキリ気付いてしまう彼女。2人の姿が、「かくれんぼ」と「ドライフラワー」の歌詞に重なっていく。
「2人でいるのに寂しいよりは、1人の方が全然マシ」
3年前に薫からもらった花を、ゆりかはずっと大事にしてきた。「花はすぐ枯れるよ」と言う薫と、「ドライフラワーにする。そしたら、永遠に綺麗だよ」と答えるゆりか。思えば2人の心の歯車は、この頃から狂い始めていたのかもしれない。彼女が部屋を出ていく決定打になったのは、この花を「もう枯れてるじゃん」と薫があっさり捨てたことなのだから。
けれど出ていくのなら、せめて理由を言ってあげて欲しかった……とも思ってしまう。でないと、薫も前に進むことができないから。しかし「ドライフラワー」の歌詞には、こんなフレーズがある。
<理由もちゃんと話せないけれど 貴方が眠ったあとに泣くのは嫌>
きっと、ゆりか自身もまだ“好き”という想いは残っていたはずだ。好きだからこそ、分かって“欲しい”、寂しくさせないで“欲しい”と、“欲しいでいっぱい”になってしまう。でも、その“欲しい”を一つも叶えてもらえないとしたら――。「2人でいるのに寂しいよりは、1人の方が全然マシ」と思ってしまうだろう。その葛藤を、ちゃんと説明することができなかったのかもしれない。
また、「結局、彼女となんで別れたの?」と聞かれた薫が、「多分、それが分からないからです」と答えたのも深く突き刺さる。もし、いつか何処かで会えたら、2人は再び笑い合うことができるだろうか。お互いに新しい人と出会い、また恋をして。いつか、“あの日”のことを笑って話せるような関係になったら、素敵だなと思う。
文:菜本かな
『ドライフラワー -七月の部屋-』はHuluで独占配信中
https://www.youtube.com/watch?v=h-XBIHqQqq0
『ドライフラワー -七月の部屋-』
ハイブリッドシンガーソングライター 優里の「かくれんぼ」「ドライフラワー」の歌世界と、その2曲にいたるまでの物語をオリジナルドラマ化。七月のある日、マンションに引っ越してきた薫とゆりか。二人は大学時代から付き合いはじめ、この部屋で同棲生活をスタートさせる。同棲の始まりを祝福するかのように鳴り響く花火の音。幸せに包まれる七月の部屋と二人……。第1話は同棲を始めたばかりの3日間を二人の目線で、第2話は三年後の3日間を薫の目線で、第3話ではゆりかの目線で描いていく、切ないラブストーリー。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
音楽: | |
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