モンスター集団「THE RAMPAGE」の顔
EXILE HIROが2002年に設立し、いまや日本のエンタメを席巻する「LDH」の次世代を担うパフォーマンスグループとして2014年に結成されたTHE RAMPAGE from EXILE TRIBE(以下、THE RAMPAGE)。兄貴分の三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEやGENERATIONS from EXILE TRIBEに比べ、総勢16名のモンスター級(まさにTHE RAMPAGE)の同グループでボーカルを張るのが吉野北人だ。パフォーマーだけでなく、最近では俳優業でも目覚ましい活躍ぶりを見せている吉野の、多彩かつ“型破りな”魅力を紐解いていく。
歌手と俳優、二足のわらじで滲む「努力」
歌にダンスに演技、いずれをとっても並々ならぬ「努力」が滲むようだ。吉野北人の多彩で多面的な表現性は、若干24歳のものとは思えない。
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THE RAMPAGEメンバー内では可愛い系の天然キャラで通っている吉野だが、宮崎県出身でバリバリの九州男児。高校生で本格的に歌手を目指し、学校終わりには毎日のようにカラオケに通い詰め、ほとんど独学でボーカルスキルを身に着けた。夢を掴むきっかけとなった2014年、LDHのオーディション「VOCAL BATTLE AUDITION 4 〜夢を持った若者達へ〜」を勝ち抜き、さらに合格者全員で“武者修行”に挑み、THE RAMPAGEが結成された。オーディションでは、慣れないダンスに苦戦しながらも、一切弱音を吐くことなく懸命に合宿練習に励んでいた姿も清々しく映っていた。
ボーカルもダンスも、一切の妥協は許さないのが吉野のモットーだ。ボーカリストとしては、グループのメジャーデビューシングル「Lightning」(2017年1月25日リリース)で、ラップ調の川村壱馬に対して、“シルキーヴォイス”と称された滑らかで艶のある歌声によって、LDHのNEXTシンガーとして注目を集めた。それからというもの、吉野はシングル/アルバムを重ねるごとにめきめきと成長を遂げ、2020年4月22日リリースのシングル「INVISIBLE LOVE」では、エモーショナルに歌うサビでこれまでにないセクシーな一面を垣間見せるなど、その変化は明らかだった。
そうした吉野の「努力」が正真正銘なのは、それが必ず形あるパフォーマンスとして実を結ぶことだ。俳優デビュー作となった日本テレビ系ドラマ『PRINCE OF LEGEND』(2018年)ではダンス王子レッドに扮して、一目惚れの相手をどうにか振り向かせ、相手に相応しいカッコイイ男になろうと鍛錬する姿が現実の吉野の努力と重なっていた。
サンドバッグに拳を打ち込みながら、「もっともっと進化しないと」と自分を鼓舞する姿に努力の汗が滲む。ダンスに苦戦していた吉野がダンスキャラとしてキレキレのステップを踏み、輝く。映画版『貴族降臨 –PRINCE OF LEGEND-』(2019年)ではホスト役に扮して、EXILEの大ヒット曲「Ti Amo」を情熱的に歌い上げた。
パフォーマーとしてのスキルは俳優業でも活かされ、それがさらにまたパフォーマンスの表現力を深めていく好循環。それが、歌手と俳優の両足をうまく動かしながら、「二足のあわじ」を履き続ける吉野の努力の結晶なのだ。
バリエーション豊かなキャラクター・イメージ『貴族降臨 –PRINCE OF LEGEND-』
そうした吉野の努力家としての一面は、各シングル/アルバムでのボーカル表現の成長と変化と同じように、出演するドラマや映画でも性格的な持ち味を活かしながら、多彩なキャラクター・イメージを更新し続けている。
吉野の変幻自在ぶりは、ビジュアル面でも顕著だ。たとえば髪型。髪型や髪色は、キャラクターのビジュアル・イメージ構築には欠かせない要素だが、そのバリーションの豊富さが凄い。LDHがエンタメ集団として独自のユニバースを形成する“ハイロー”シリーズでは悪ガキ感満載の金髪(2019年『HiGH&LOW THE WORST』ほか)、『PRINCE OF LEGEND』『貴族降臨 –PRINCE OF LEGEND-』のダンス王子役の赤髪など、初期にはLDH色が全面に打ち出されたキャラ・イメージが印象的だった。
2021年にMBSの「ドラマイズム」枠で放送された『年の差婚』で演じた空間デザイナーのショーン・一ノ瀬は、これまで以上に吉野の魅力が引き立っていた役柄だ。20歳差のイケオジとお見合い結婚した舞衣子(葵わかな)が再会する大学の同級生であるショーンは、相手が既婚者であることを承知で、親しく近寄る誘惑的な存在。『オオカミ少女と黒王子』(2016年)などのラブコメ映画の巨匠・廣木隆一監督が演出ということもあり、メッシュな金髪が眩しいこのキャラの魅力がいたるところに散りばめられている。
プレゼンに向けたラフ案の企画会議を抜け出して、街の視察に出掛けた舞衣子とショーンが歩く姿を特有のロングショットで切り取った場面のワクワクするような映像センス。舞衣子の自宅で眠気覚ましに髪を洗い、上半身裸で歩き回る姿も様になっていて、吉野が発する束の間の色気を的確なアングルで拾い上げ、流れるように回想場面へ。金髪から転じて落ち着いた色の下ろしたヘアスタイルが、大学生らしいあどけなさを醸し出していた。
また、映画初主演作となった『私がモテてどうすんだ』(2020年)で演じた、ヒロインが所属する史学部の先輩で城オタクの天然王子様キャラは、艶のあるセンター分けのさらさらヘアーの清潔感が、非日常のBLラブコメ世界に馴染んでいた。何があってもヒロインの味方でいようとする姿勢からは、九州男児の実直で素朴な雰囲気も漂わせた。
このように吉野は、強固なビジュアル・イメージを形づくることで、どんな役でもそつなくこなし、それぞれの役どころを通じて自分が持つ特性を可能な限り発見して演技に活かしていく。髪型の変化を追ってみるだけでも、吉野が演じるキャラのバリエーションの豊富さと表現力には驚く。
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『トーキョー製麺所』で新境地を開く“型破りなダサキャラ”
そんな吉野が、現在MBSで毎週火曜深夜に放送中のドラマ『トーキョー製麺所』では、新境地を切り開いている。連ドラ初主演ということもあり、気合いもかなり入っているのだろう。チェーン店のうどん屋にある日、店長としてやって来る元ホテルマン・赤松役の熱血キャラからそれが十分伝わってくる。
この店長、非常に厄介なキャラだ。店内が一番混雑する昼時には、どれだけ迅速にうどんを提供するかが勝負なのに、列に並ぶお客さんの注文はバイトスタッフに任せ、自分はセルフサービスであるはずの水を店内全員の席まで運ぼうとする懇切丁寧な接客をする。合理的なマニュアル業務重視のスタッフにとっては邪魔どころか、店に損害すら与えかねない。
しかし、赤松には“日常の特別感”を提供したいというポリシーがある。「ホテルじゃないんだから……」とボヤくお客さんやスタッフのことなど構わずに、めげずに信念を貫こうとする赤松のキャラは、やはり九州男子の一本気な性質だ。
ポマードに蝶ネクタイで清潔感ばっちりの身だしなみ&超ベビーフェイスという反則級のビジュアルにも関わらず、その内では燃えるような魂が誠実さを追求して、最高のサービス精神に溢れている。見た目がキマっているだけに、そんな時代遅れな精神がよりダサくも感じるが、この“ダサさ”こそ、吉野にとってまたとない“はまり役”となったのだ。
第4話では、病気の父親ともう一度つるつるの釜揚げうどんを食べたいというお客さんの願いを叶えるため、一肌脱いでホテルからキッチンカーを借り、病院へデリバリーするという心意気。スタッフを連れて出てしまったので、店を空けた分のヘルプ代で店は赤字。閉店後、赤松はバイトリーダーに言う。「今日1日、何気ない日常が笑顔にありふれていました」と。すべてはその笑顔のため。
2021年10月12日(火)放送の第6話(最終話)を前にした第5話、1ヶ月後に店の閉店が決まり、意気消沈するスタッフたちを鼓舞するために訪れたカラオケで赤松が歌う、松任谷由実の「春よ、来い」。赤松は“何気ない日常”の“笑顔”を願って、この曲を歌っているのだろうか。決して上手いとは言えない低音ボイスが、まさかシルキーヴォイスの吉野から発せられているとは気がつかないくらい気持ちが籠っている。THE RAMPAGEが歌うエンディングテーマ「OFF THE WALL」が意味するように、それは文字どおり“型破り”だ。
文:加賀谷健
『貴族降臨 –PRINCE OF LEGEND-』はBlu-ray&DVD発売中、Huluほか配信中
『トーキョー製麺所』はMBSで2021年10月12日(火)より最終話放送