原作者は人気バンド、マイ・ケミカル・ロマンスの元ボーカリスト!
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アメコミ映画/ドラマといえばマーベルとDCの独擅場になっている感があるが、Netflixで配信中の『アンブレラ・アカデミー』の原作コミックは、その2大巨頭に次ぐ出版社<ダークホースコミックス>から刊行されている。しかも作者は2013年に解散した超人気バンド、マイ・ケミカル・ロマンスでボーカルを務めていたジェラルド・ウェイ! ということで、アメコミファン以外からも注目を集めているスーパヒーロー作品なのだ。
ちなみに原作コミックの日本語訳版「アンブレラ・アカデミー ~組曲「黙示録」~」は<小学館集英社プロダクション>から2010年に刊行されているが現在は絶版、以後コミックの日本語版は未刊行という状態。今回のドラマ化もあってか初巻の在庫もドバっと捌けてしまったようで、現在ネットオークション等で高値取引されている。この機会に日本語訳版の復刊が進んでくれればいいのだが……。
※ダークホースの他映像化作品は『シン・シティ』や『ヘルボーイ』シリーズなど。
現在Netflixでは、マーベルの『ザ・ディフェンダーズ』関連ソロ作~シーズン2も最高だった『パニッシャー』などを配信中だが、どうやら今後マーベル作品は制作されない模様(ディズニーの動画配信サービスへ移行?)。一方、DCコミック発の『Titans/タイタンズ』はシーズン1が配信されるや視聴者の評価もすこぶる高く、そこに映画『アクアマン』の大成功も相まって、マーベルの後塵を拝してきた感のあるDCが巻き返しの様相を見せている。
そんなタイミングで配信されたダークホース発ドラマ『アンブレラ・アカデミー』への期待が集まるのは当然かもしれないが、実際めちゃくちゃ面白いので安心して沼にハマってほしい。
個性豊か(すぎる)なヒーロー兄妹の足並みは見事にバラバラ!
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『アンブレラ・アカデミー』は前情報ナシで観ても全く問題ないように作られているので、ここではざっくりと基本ストーリーとキャラ構成だけ説明しておこう。物語は1989年の10月1日午後12時、世界中で43人の女性が何の前触れもなくいきなり妊娠・出産するという怪事件から始まる。
超リッチな冒険家レジナルド・ハーグリーブズ卿は、そのとき生まれた子どもたちの内7人を養子として迎えて第1期“アンブレラ・アカデミー”を設立。それぞれ異なる特殊能力を持って成長した子どもたちは公にスーパーヒーロー活動を行っていたが、多感な年頃にありがちな価値観の相違によってあえなく離散。それから17年後、父ハーグリーブズの謎の死をきっかけに再び集結することになるが……。
メインキャストはもちろんアカデミーの生徒=かつての子どもたちである。ナンバー1、コードネーム“スペースボーイ”ことルーサー(演:トム・ホッパー/『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズほか)は巨体のわりにメソメソしている怪力男(ファザコン)。ナンバー2“クラーケン”ことディエゴ(演:デヴィッド・カスタニーダ/『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』[2018年]ほか)は百発百中のナイフ術でビジランテ活動中(マザコン)。ナンバー3“ルーマー”ことアリソン(演:エミー・レイヴァー=ランプマン)は発した言葉で人を意のままに操れるバツイチ子持ち(親権調停中)だ。
ナンバー4“セオンス”ことクラウス(演:ロバート・シーアン/『移動都市/モータル・エンジン』[2018年]ほか)は死者とコンタクトできるほか、まだ秘めた能力を持っていそうな伸びしろのあるジャンキー。なぜかコードネームを持たないナンバー5(演:エイダン・ギャラガー/ニコロデオンの子ども向けTVドラマなどに出演)は空間移動能力を持ち、しかも体は13歳だが頭脳は58歳のおっさんという某名探偵みたいなキャラ。ナンバー6“ホラー”ことベン(演:ジャスティン・H・ミン)はすでに亡くなっていて、クラウスだけが彼と意思疎通できる。
Super. Messed up. Family. The #UmbrellaAcademy is coming 2019. pic.twitter.com/MninQscK3l
— Umbrella Academy (@UmbrellaAcad) July 19, 2018
そして、間違いなく最重要キャラであろうナンバー7“ホワイトバイオリン”ことヴァーニャを演じるのは、ご存知エレン・ペイジ。すでに『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(2006年)『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年)のキティ・プライド役でアメコミ映画に出演済みではあるが、『アンブレラ・アカデミー』を“X-メン meets ウォッチメン”なんて例えるファンもいるくらいなので違和感なし。注目すべきは、ヴァーニャには表向き何の特殊能力もないというところで、これがシーズン1の最重要ポイントになってくる。
他にも、猿っぽいルックスだけで選ばれた気がするアダム・ゴドリー(『チャーリーとチョコレート工場』[2005年]ほか)がポゴ(喋るチンパンジー執事)の声を当てていたり、『キャロル』や『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年)によって今後ブレイク必至との呼び声も高いジョン・マガロを某重要キャラに配していたり、さらにはR&Bの女王メアリー・J・ブライジとキャメロン・ブリットン(『蜘蛛の巣を払う女』のハッカー仲間プラグや、Netflix『マインドハンター』で実在の連続殺人鬼エド・ケンパーを演じていたあの人!)が兄妹たちを狙うトボケた悪役コンビ役で登場したりと、多彩すぎるキャラクターを眺めているだけで楽しい。
ちなみにメインストーリーの舞台は現代(少なくとも2000年代以降?)だが、シーズン1時点ではスマホなどの分かりやすいガジェットは一切出てこない。この辺の演出が時代設定を曖昧にさせ、寓話っぽい雰囲気や各々の特殊能力を際立たせる効果を生んでいる。
スーパーヒーローものであり、崩壊した家族の物語でもある
ムチャな時空スキップから帰還したナンバー5の「この世界は8日後に滅亡する!」という警告を合図に、現在・過去・未来を交互に描きながら不本意なヒーロー活動を見せていくのだが、アメコミ作品が軒並みシリアスになっていく中で、この絶妙に緊張感のないユルさは心地いい。スーパーヒーローものであると同時に、クセの強すぎる親とブッ飛んだ生い立ちのせいで機能不全に陥った“家族”の物語でもあり、その対立の深さゆえにバッチリ噛み合ったときのカタルシスもひとしおだ。
それにしても、いまだかつてチンパンジーに諫められるスーパーヒーローがいただろうか? 自業自得の積み重ねで成長していくのはヒーローもののセオリーだが、特殊能力以外は欠点だらけの兄妹たちは、ブラック企業のサラリーマンみたいなヴィランにも翻弄されてばかり。とはいえ歪んだ愛情表現はコミック以上にエモいし能力の発動描写などもすこぶる良くて、原作ファンも改変を好意的に受け入れられるはず。
ほのかにアラン・ムーアの影響を感じさせるオカルト的な雰囲気は、さすが00年代以降に隆盛した新定義エモ(=ゴスい)の旗手マイケミのフロントマンといったところか。なんかDCの「ドゥーム・パトロール」に近い雰囲気だな? と思ったら、現行のコミックシリーズはジェラルドがライターとのことで色々と納得。ちなみにドゥーム・パトロールの面々は『タイタンズ』第4話に登場し、単独ドラマも近々Netflixで配信される予定だ。
シーズン1のラストはかなりの衝撃だっただけに、とにかく続きが楽しみな『アンブレラ・アカデミー』。思わずイッキ観してしまったファンは「HUNTER×HUNTER」の読者みたいな心境でシーズン2の配信を待つしかない。なお、シーズン通して劇中挿入曲のチョイスがかなり良かったので、特に聴くべき曲(独断です)を以下にピックアップしておいた。これはサントラ買って良いレベル!
THE KINKS「Picture Book」
THEY MIGHT BE GIANTS「Istanbul」(※カバー)
THE YARDBIRDS「Lost Woman」
NINA SIMONE「Sinnerman」
BIG THIEF「Mary」
FICTION FACTORY「(Feels Like) Heaven」
TOPLOADER「Dancing In the Moonlight」
THE DOORS「Soul Kitchen」
KAREN DALTON「Something On Your Mind」
DAMON「They Call Me a Fool」
LESLEY GORE「Sunshine, Lollipops and Rainbows」
HEART「Barracuda」
『アンブレラ・アカデミー』
義父の死をきっかけに明らかになる家族の秘密と、人類を襲う大きな危機。かつてスーパーヒーローとして名を馳せた兄弟姉妹が、再び正義のために立ち上がる!
制作年: | 2018 |
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出演: |