お茶の間向きじゃない!? 本気の“ホラー”アンソロジー
ホラー・アンソロジーTVシリーズ『CREEPSHOW/クリープショー』は、家族団欒向けのTVシリーズではない。なぜなら、全6話12エピソードすべてが、ガチのブラックホラーだからだ。恐ろしい怪物や禍々しい幽霊、ドス黒い人間模様。そして残酷な殺人シーンで埋め尽くされ、最後は誰一人幸せにならない話ばかり。こんなものを家族で観た日には、その後の家族の会話が気まずくなるに決まってる。
だから(あなたが一人暮らしでなければ)家族が寝静まった深夜にリビングのTV、なんならベッドにタブレットを持ち込んでもいい。一人でこっそりと観て、黒い恐怖にほくそ笑んでほしい。ホラー・アンソロジーといえば『世にも奇妙な物語』(1990年ほか)や『ほんとにあった怖い話』(1991年ほか)が頭に浮かぶ層にも、“本気”のホラーオムニバスの入り口として是非ご賞味いただきたい。そんなTVシリーズだ。
受け継がれるECコミック魂
『クリープショー』は、1982年に『ゾンビ』(1978年)のジョージ・A・ロメロが監督を手がけた、同名ホラー・アンソロジー映画がオリジナル。そのオリジナルが目指したのは、1950年代にアメリカでECコミック社から発売されていた「Tales from the Crypt」や「The Vault of Horror」をはじめとするホラー漫画の映像化である。
https://www.instagram.com/p/B8W_w2ulInK/
これらは人気のある漫画雑誌だったが、不謹慎な内容から自称“良識派”の大人たちから批判・排斥の的となり、多くが焚書の刑に処された。少年時代ECコミックに熱中していたロメロは、燃やされてしまった漫画たちを映画によって復活させようと企んだ。それがオリジナル『クリープショー』だったのだ。
漫画のようなホラー映画
オリジナルの『クリープショー』は、漫画、アニメ、実写がシームレスに描かれ、ショックシーンには実写に集中線や漫画タッチの背景が“直接”描き込まれる。それは観る者を「ホラー漫画の世界に入った気分」にさせてくれた。『マーティン/呪われた吸血少年』(1977年)からロメロの盟友であったトム・サヴィーニの特殊効果、スティーヴン・キングの気合いの入った脚本と相まって、最強のホラー・アンソロジーとなった。
https://www.instagram.com/p/BpNJa30Axz_/
中でも強烈だったのは最終話「奴らは群がり寄ってくる」だ。20,000匹のゴキブリが男の体から這い出しスクリーンを埋め尽くすラストシーンは筆者を含め、今でもホラーファンにはトラウマである。
https://www.instagram.com/p/Bo7QrtTAvER/
見事な復活を遂げたクリープショー
好評だったオリジナル『クリープショー』は、3作目まで制作された。しかし、1作目の5エピソード/2時間超の弩級ぷりにはかなわず、作られる毎にパワーダウン。『クリープショー2』(1987年)収録「殺人いかだ」は傑作であったが、約20年ぶりに作られた『クリープショー3』(2006年)は、アメリカ本国でも劇場公開されないほどの駄作だった。
だから筆者は、最初「『クリープショー』がTVシリーズで復活する!」と聞いても、まったく食指が動かなかった。ところが詳細を聞くと、今回はいつになく気合が入っているなと感じた。スタッフがとんでもなかったのだ。
https://www.instagram.com/p/BoMdHkbFKPL/
ジョージ・A・ロメロの関係者がずらりと並ぶ。監督にはトム・サヴィーニをはじめ、オリジナル『クリープショー』や『死霊のえじき』(1985年)の音楽を担当したジョン・ハリソン、『死霊のえじき』で特殊効果を担当したグレゴリー・ニコテロらが名を連ねる。元ネタ原作にはキングが再登板、さらに息子のジョー・ヒルも参加。こんなもの面白いに決まっているじゃないか!
本当の80sリファレンス作品
第一話目からやたらと気合いが入っている。オリジナル映画にも登場した“木箱”をオープニングアニメに入れ込み、往年のファンに目配せ。キングの短編集「深夜勤務」収録の『灰色のかたまり』を大胆にアレンジ。ただ腐った古ビールで粘液怪物と化す男の小話を、世界滅亡の危機までもっていくダイナミックな展開にした。
CGは最小限に、ラバースーツを効果的に利用した往年の特殊効果は、25分間の“ご馳走”といったところだ。他、脂肪を吸い取るヒル、『猿の手』を大胆にアレンジした怪奇譚、ゾンビを使った処刑ゲーム等々、悪趣味なエピソードが満載だ。
最近、懐かしいシンセサイザーのチープな音楽、郷愁を誘う子供たちの友情物語等々、80年代テイストを押し出した映画やTVシリーズが多くみられる。しかし、こういった作品は“80年代の雰囲気”だけの作品が多い。なぜならCG等の技術でゴリ推ししすぎ、かつ多様性を意識しすぎているためだ。
その点『クリープショー』TVシリーズは技術のゴリ押しもなく、多様性にも配慮していない。CGを控えめにし、あえてチープなラバースーツやアニマトロニクスを活用。そして、あえてレイシズムにも直接対峙するようなストーリーテリングは真の80年代映画の感性だ。本当の意味での80年代ホラー映画テイストがここにある。
文:氏家譲寿(ナマニク)
Huluプレミア『CREEPSHOW/クリープショー』シーズン1 Huluにて独占配信中
『CREEPSHOW/クリープショー』
スティーヴン・キングとジョージ・A・ロメロ監督がタッグを組み、80年代に放った傑作オムニバス・ホラー映画『クリープショー』が、『ウォーキング・デッド』のグレッグ・ニコテロ製作総指揮によってドラマシリーズとして復活。原作にスティーヴン・キングとその息子・ジョー・ヒル、監督にトム・サヴィーニらホラー作品の大御所が集結。さらに、オリジナル版映画に出演した女優エイドリアン・バーボーをはじめ、『ウォーキング・デッド』のケイリー・フレミング、『ソウ』シリーズのトビン・ベルなど、ホラーファン必見のキャストも多数出演。
制作年: | 2019 |
---|---|
出演: |