麻薬戦争、それは決して満たされることのない底なし沼
コロンビアの麻薬組織と米DEA(麻薬取締局)との壮絶な戦いを実話をもとに描いた、Netflixのオリジナルドラマ『ナルコス』の新シリーズ『ナルコス: メキシコ編』が配信中だ。
とにかく巨額の金が絡むだけに、政治家や警察、軍隊を巻き込んだ利権や縄張りを巡る抗争が激化し、あらゆる犯罪行為の温床となっている麻薬ビジネス。底辺からの成り上がりを目論む密売人と各国の上層部腐敗が互いの尾を喰らいあう異様な状況は、決して満たされることのない底なし沼のようだ。
まず、2015年にスタートした『ナルコス』シーズン1~2では、1980年代にアメリカ国内で蔓延する麻薬問題に対処するべく、DEAの捜査官スティーブ・マーフィー(ボイド・ホルブルック)とハビエル・ペーニャ(ペドロ・パスカル)がコロンビアに駐在し、当時めきめきと頭角を現していた麻薬王パブロ・エスコバル(ヴァグネル・モウラ)を追う姿が描かれる。
後にメデジン・カルテルを率いて世界の麻薬市場を席巻するエスコバルがコカイン密輸に手を染めたのは、70年代後半のこと。当初はコロンビア国内で売りさばくことを持ちかけられたようだが、アメリカに密輸すれば大儲けできると踏んだエスコバルの予想どおり、コカイン大量消費国アメリカのおかげで彼は世界有数のビリオネアとなっていく。
やがて追い詰められたエスコバルがコロンビアの治安部隊によって射殺されると、当時メデジン・カルテルと市場を二分していた巨大組織、カリ・カルテルが一気に勢力を拡大。シーズン3では、ド派手に立ち回っていたエスコバルの陰で着々と帝国を築いていた“カリの紳士たち”がDEAの次なる標的となり、ペーニャら捜査官たちの執念によって崩壊していく様子を描く。
そして舞台は「メキシコ麻薬戦争」の始まりへ
今回の『ナルコス: メキシコ編』は時代が少し巻き戻ることもあってか、本家のスピンオフ的な新シリーズとしてスタート。シーズン1の主人公は、メキシコ初の大規模麻薬組織グアダラハラ・カルテルを率いたエル・パドリーノ=ゴッド・ファーザー、ミゲル・アンヘル・フェリクス・ガジャルド(ディエゴ・ルナ)と、DEAの熱血捜査官エンリケ“キキ”カマレナ(マイケル・ペーニャ)だ。
ガジャルドは、いわゆる“メキシコ麻薬戦争”と呼ばれる状況を作り出すきっかけとなった人。元警察官の彼はマリファナの栽培・密輸で成功したが、「俺がやらなきゃ他の誰かがやるだけ」と、超危険なコロンビアの重鎮たちと協定を結びコカイン密輸に乗り出すようになっていく。
一方、関与する有力者もろとも麻薬組織を一網打尽にしようと息巻いていた捜査官のキキは、ついにカルテル幹部のラファエル・カロ・キンテロが手塩にかけた巨大マリファナ農場の焼き討ちに成功。しかし、大勝利に浮かれるキキを待ち受けていたのは考えうるかぎり最悪の結末だった。
『ナルコス』シーズン1~3で倫理観ギリギリの活躍を見せたペーニャ捜査官の不在は寂しいが、同じく視聴者に強烈なインパクトを与えたエスコバルやカリの紳士たちの再登場はファンにとっては嬉しいところ。とはいえ、ガジャルドの台頭が後の麻薬戦争に繋がったと考えると暗澹たる気分になってくるのだが……。
ますます荒ぶる『メキシコ編』注目ポイント
『メキシコ編』シーズン1で特に注目したいのは、グアダラハラ・カルテル設立に深く関わってくるメキシコ連邦公安局、通称<DFS>なる組織の存在だろう。政府のために暗躍するメキシコ版のCIAみたいなものらしいが、DFSなしではカルテルも仕事ができない(=彼らの庇護あってのカルテル)のだから、どれだけ国内でやりたい放題していた組織だったかは推して知るべしである。
なお、後にシナロア・カルテルを率いることになる“エル・チャポ”ことホアキン・グスマンは元々ガジャルドの手下であり、当然ながら同シリーズにも主要構成員としてガッツリ登場している。今後の『メキシコ編』でも描かれると思われるが、このグスマンの半生を描くNetflixオリジナルシリーズ『エル・チャポ』は、ぜひ併せて鑑賞しておきたいところだ。
また、随所でガイド的に挿入されるナレーションの、鼻にかかったような独特の声に「これ、あの俳優じゃね?」とピンときた人も少なくないはず。微妙に上から目線なナレーションの正体は最終話(エピソード10)で明かされるが、シーズン2への期待を否が応でも煽る存在なので、そのあたりもお楽しみに。
https://www.youtube.com/watch?v=89JWDFh_bSc
Netflixオリジナルシリーズ 『ナルコス: メキシコ編』シーズン1独占配信中
Netflixオリジナルシリーズ 『ナルコス』シーズン1~3独占配信中
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