アニャ・テイラー=ジョイが破滅的なチェス名人に!
Netflixのトップページに並ぶ各作品のバナーの中に、えらい目を引く女性がいた。内容もわからぬまま、その『クイーンズ・ギャンビット』なる作品のバナーをタッチした。
若き女子チェスプレイヤーの物語らしい。主役の天才チェス少女、ベス・テイラーを演じた、異彩を放つ女優の名はアニャ・テイラー=ジョイ、綴りはAnya Taylor-Joyだ。
とりあえず第1話を見てみる。動き出した彼女はより美しさを増した。さらに冒頭シーンが非常にテンポが良く、ゴージャスで一気に心を奪われる。非常に見ごたえのある4分間で、アニャ・テイラー=ジョイの魅力が凝縮されている。最後は彼女の可愛らしくもユニークな表情のアップで終わる。カメラを見つめる大きな目、そして何より彼女の特徴であるアヒル唇に視線が釘付けになる。
女優の「顔」には“きれい”や“かわいい”だけでなく“新しい”という価値観がある。今まで見たことがない顔は非常に魅力的で、時代を象徴しているように感じる。アン・ハサウェイが出てきたとき、今まで見たことがない顔だと思った。彼女はあっという間にトップ女優になっていった。
アニャ・テイラー=ジョイも、アン・ハサウェイのように一気にスターダムの頂点に駆け上がっていくのではないだろうか。彼女は新鮮な魅力に溢れている。『クイーン・ギャンビット』という大作で、しかも正統的な現代劇の主役に抜擢されたことに、彼女への評価が表れている。
目指すは現在の映画表現を駆使したアメリカン・ニューシネマか
原作は、映画化された『ハスラー』(1961年)や『地球に落ちて来た男』(1976年)で知られる、ウォルター・テヴィスによる同名の小説である。『ハスラー』はポール・ニューマンの出世作であり、アメリカン・ニューシネマの名作だ。同じ原作者が同じく勝負師を描いた『クイーンズ・ギャンビット』は、きっとアニャ・テイラー=ジョイにとっての『ハスラー』になるであろう。
タイトルの“ギャンビット”とは、駒を先に損する代償に、駒の展開や陣形の優位を求めようとするチェスの定跡のことである。物語中のチェスの天才少女ベス・テイラーは、薬物とアルコールの依存症だ。彼女は精神の病と引き換えに、チェスの才能を開花させていく。タイトルは、主人公の生き方の暗喩である。
『クイーンズ・ギャンビット』は冷戦時代の話だ。その時代、アメリカはベトナム戦争を戦っていて、それがアメリカン・ニューシネマのムーブメントが勃興する要因となった。アメリカン・ニューシネマで描かれる多くは、『クイーン・ギャンビット』と同じく破滅的な人生である。
そして本作は、現在の映画表現を駆使したアメリカン・ニューシネマを目指しているのではないだろうか。それはマーベル作品等、ハリウッドが漫画の世界に針を振り切った反動なのかもしれない。アニャ・テイラー=ジョイ自身もマーベル作品に出演してはいるが、その回帰運動の主役に抜擢されたのが新しい“顔”を持つ彼女だったというのがおもしろい。
文:椎名基樹
『クイーンズ・ギャンビット』はNetflixで独占配信中
https://www.youtube.com/watch?v=EC5EqT70Cgg&t=40s
『クイーンズ・ギャンビット』
1950年代の児童養護施設で、人並外れたチェスの才能を開花させた少女は、依存症に苦しみながら、想像もしていなかった華やかなスターへの道を歩いていく。
制作年: | 2020 |
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出演: |