財布と相談しながら献立を考えたら、料理に経済的な概念が入ってきた
大学1年の終わりごろ、実家を出て川崎の高津という町で当時の彼女と同棲を始めた。彼女は大学の二つ上の先輩で、ショートカットがトレードマークの映像作家だった。仮に名前をカワウチとしておこう。
カワウチと住み始めた高津の家の最初の晩餐が「熱い熱い」と言いながら食べた湯豆腐だったこと、別れる直前に二人の間で流行っていたのがナスが多めのガパオライスだったことをよく憶えている。
カワウチは料理上手だった。僕はたまに見よう見まねで作ったりするだけだったが、次の彼女のマリちゃん(仮名)と付き合ってからは、本格的に料理に取り組むようになった。
マリちゃんはフリーランスの編集者で、在宅で仕事をしていた。当時の僕はアルバイトに週に3日くらいしか行かないで、マリちゃんの三宿のマンションに居候をしていたのだけれど、マリちゃんはずっと仕事をしているので、僕が主に料理を担当していた。ヒモなんて器用なもんでもなくって、中途半端にカッコつけてワリカンとかしていたから(当たり前か)、スーパーではお財布と相談しながら献立を考えたりして。それで僕の料理に「経済」的な概念が入ってきたのであった。
ま、いまよく考えれば湯豆腐のときから「経済」はキッチンに常にあったのだが。ガパオのナスが挽肉より多かったのだってそう。
NY「モモフク」の有名シェフ、デイビッド・チャンのディベート力を見習いたい!
当時の彼女たちの話を書いてたらついセンチメンタルになってしまって、前置きが長くなった。つまり、料理のお皿に載っているのは食材や調味料だけではなくて、経済みたいな外的要素も一緒に添えられているって話がしたかったのだ。他には、例えば伝統とか気候というものもある。味の外側にあるもの。その透明な存在が料理を文化にしているのだ。
Netflixオリジナルシリーズ『アグリー・デリシャス:極上の“食”物語』(2018年~)は、クッキング番組ではないと思う。シェフのデイビッド・チャンが世界をぐるぐる周りながら、一つの料理を深掘りしていく文化人類学の番組だ。
例えばピザの在り方、中国料理への誤解、エビとザリガニの覇権争い……。デイビッド・チャンがもりもり食べながら、何人ものシェフと討論する。場所はキッチンだったり、レストランだったり、道端を歩いてるときだったり。
シーズン1を通しての大きなテーマは保守と革新だったりもする。毎回起こる討論では、料理を通してみんなの人生観を聞いているような気になってくる。見所は、デイビッド・チャンのディベート力で、はっきり物を言いつつも喧嘩ごしには絶対ならない振る舞い方は本当にクールだ。見習いたい。
文:松㟢翔平
『アグリー・デリシャス:極上の“食”物語』はNetflixで独占配信中
『アグリー・デリシャス:極上の“食”物語』
妥協を許さないスターシェフ、デイビッド・チャンが友人たちとともに、世界中で愛されている定番メニューの数々に舌鼓を打ちながら、食と文化を掘り下げていく。
制作年: | 2018 |
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出演: |