ソ連軍、100万名の女性将兵たち
『タンク・ソルジャーズ ~史上最大の戦車戦に挑んだ兵士たち~』第4話では、もう一人のヒロイン(?)、ナタリア・ボンダル軍曹が登場します。
なんと彼女は戦車兵、T-34-76の操縦手です。なんだか日本のエンタメ作品のような設定ですが、ソ連軍では本当に女性の戦車兵が独ソ戦を戦っていたのです。アメリカやイギリス、ドイツでも衛生兵あるいは航空管制要員として従軍する女性は多くいましたし、アメリカ軍では航空機を生産工場から戦域まで空輸する「WASP」という女性パイロット部隊が活躍していました。
ところがソ連では、歩兵・砲兵・狙撃兵・工兵そして戦車兵や戦闘機パイロットとして、100万人(!)を越える10~40歳代の女性が戦場に身を投じていたのです。彼女たちの動機は、ドイツ軍に郷里を占領され家族を殺された復讐心から、あるいは単純な愛国心からなんですが、国の成り立ちや文化の違いがあるとはいえ、凄まじいかぎりです。
でも“世間の無知と偏見”というのは万国共通のようで、女性将兵は「大勢の男たち相手に何をしてたのやら」と白眼視され、復員後の婚活では苦労したりしたそうです。
第6話では、他部隊の戦車兵がナタリアを「ラーマ(売春婦)」呼ばわりしたことで殴り合いの大乱闘となる場面がありますが、これは事実にもとづく“ソ連軍女性兵士あるある”なのです。
Ⅵ号戦車ティーガー登場!
そして第6話では、もはや伝説的存在となっている(一部の人たちにとっては、ですが)ドイツ軍の重戦車ティーガー(虎)が登場します。
当時の各国の中戦車は重量30トン級、前面装甲厚は60~80㎜程度、主砲は口径75㎜級で、その装甲貫通力は射距離100mで70㎜程度でした。
それと比べると、ティーガーの重量は57トンで、装甲は車体と砲塔の前面で100㎜、側面でも80㎜という重装甲。そして搭載する88㎜砲は射距離100mで120㎜厚装甲を貫通、1000mでも100㎜を貫通するというのだから、まさに規格外の強さ。ティーガーに出くわした連合軍/ソ連軍戦車兵にとっては文字通り「虎=猛獣」だったのです。
ここで“出演”しているティーガーは、戦後ソ連軍主力戦車となったT-55を改造したものですが、車体と砲塔のバランスや平面で構成された構造など、なかなか良くできていると思います。
ちなみに劇中、ソ連軍司令部で示されるティーガーの写真が、ちょっと面白いんです。最初の1枚は1944年初夏にフランスで撮影されたSS第101重戦車大隊所属車両、次の1枚は1943年春にソ連戦区で撮影されたグロスドイッチュラント戦車連隊所属車両ですが、両方とも裏焼き(左右反転)になってるんですね。フィクションのドラマの中に史実資料を入れ込むための、スタッフの工夫なのでしょう。
史上最大の戦車戦、クルスク
『タンク・ソルジャーズ ~史上最大の戦車戦に挑んだ兵士たち~』のクライマックス、第8話のバトルは1943年7月の「クルスクの戦い」におけるプロホロフカ攻防戦(7月12日)です。
このプロホロフカ攻防戦にはドイツ軍の戦車・突撃砲約300両と、ソ連軍の戦車・突撃砲約600両が投入されましたが、ドイツ軍戦車がほぼ一方的にソ連軍戦車を撃破したというのが実態です。
なにしろドイツ軍戦車の損害が片手で数えるほどなのに対し、ソ連軍戦車の損害は300両以上。あまりの損失にスターリンも愕然となった、と伝えられています。第8話では、そんな戦車対戦車の激突が描かれますが、ここでもスタッフの一工夫が。
砲塔内の描写で、「撃て!」の号令と共に、装填手が手で閉鎖機を後座させているのに注目してください。もちろん、実弾発砲の際に閉鎖機に手をかけていたら、強烈な後座に巻き込まれて関節を挫くか骨折します(笑)。これは、砲塔内部の“絵”で発砲の瞬間を伝えるためのスタッフの苦肉の策なのではないか、と。
さてさて。戦闘ではソ連軍を圧倒したドイツ軍(クルスク戦での兵員の損害はドイツ軍5万数千名に対し、ソ連軍は32万名以上)ですが、結局はソ連軍の物量に圧倒されて敗退します。
そしてこの戦い以後、戦争の主導権は完全にソ連に移ります。クルスクの戦いが「ドイツ第三帝国の終わりの始まり」と評される所以ですね。
それでもなお、1945年5月の勝利の日までソ連軍は夥しい犠牲を払い続けるわけで、ワシリーやマリアの前には苦難の道が続いているのです。
文:大久保義信
『タンク・ソルジャーズ ~史上最大の戦車戦に挑んだ兵士たち~』
第二次大戦下のロシアを舞台に、史上最大の戦車戦“クルスクの戦い”に翻弄される若者たちを描く、全8話の戦争ドラマ。
制作年: | 2016 |
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出演: |