欧米では定番の時事コメディ番組、Netflix経由で日本でも定着するか?
アメリカでは深夜、コメディアンの方が、その日にあったニュースをおもしろおかしく茶化した番組を観て寝る、というのが定番なんだそうです。日本もストリーミング時代になって、アメリカと同じような楽しみ方ができるようになりました。そんな作品のひとつが、毎週日曜日に配信されるNetflixオリジナル番組『ハサン・ミンハジ:愛国者として物申す』です。
ハサン・ミンハジはアジズ・アンサリと並んで、アメリカで活躍するインド系移民二世のコメディアンです。アジズが女性問題で活動しにくくなっている時に出てきたのがハサン・ミンハジ……というのはアジズ自身のネタで、どうもライバルというよりは同じ人種同志がんばろうという関係みたいです。
『ハサン・ミンハジ:愛国者として物申す』シリーズ4のエピソード「劣悪な公共交通事情」でも、公共交通機関が遅れて現場になかなか着かずにイライラしていると、自分の番組のポスターの顔の部分だけアジズ・アンサリに変わっている、というネタで笑わせていました。
ハサンは現代アメリカの若者といったイケメンのインド系コメディアン
アジズはどちらかというとオッチャン系インド人の風貌ですが、かたやハサン・ミンハジは今風のアメリカ人の若者といった雰囲気で、ヒップホップとゲームが好きな、スラッとしたイケメンです。コメディアンというより、新手のラッパーとしても成功しそうな顔。
もしイケメンのハサンなら、アジズみたいな強引なデート(※)をしたとしても、女性から告発されなかったかもしれません。なんて、こんな発言は絶対NGですね。完全にレッド・カードです。でも、ときに過激なネタも飛び出すアメリカのコメディ番組の紹介なので、どこまで許してもらえるかの挑戦です。
(※)米芸人がセクハラ騒動を自らイジり倒して謝罪! スパイク・ジョーンズ監督Netflixスタンダップ・コメディ『アジズ・アンサリの“今”をブッタ斬り!』
ハサン・ミンハジとアジズ・アンサリの一番の違いは、ハサンはインドでは少数派のムスリム系の家族の出身ということにあると思います。番組タイトルに“愛国者”とあるのは、そんな彼の出生とも関係しているのでしょう。アジズがステレオタイプなインド系のネタで笑いをとるのとは違って、ハサンが時事ネタを得意としているのは、そんな彼の生い立ちと関係しているような気がします。多くの白人にとっては、インドの人も中近東の人も顔の違いは全く分からないんでしょうけど。またいけないことを言ってしまった。
日本のお笑い芸人だって、こんな面白い番組を作れるんじゃないか?
そんなハサン・ミンハジの番組ですが、お笑いにするにはちょっと重いネタもあるんです。普通に彼のスタンダップコメディが見たい人は、同じくNetflixの『ハサン・ミンハジのホームカミング・キング』をどうぞ。
ハサン自身も「軽いネタと重いネタを交互にやってるから、今週は重いネタね。我慢してね」と、アメリカで大問題になっているオピオイド(麻薬性鎮痛薬)中毒の問題を取り上げていました。有名人だと、プリンス、トム・ペティらの体からも合成オピオイドの一種フェンタニルが検出されたそうです。ハサンの知り合い、そして多分お客さんの中でも、知人や友人が中毒で亡くなっている人もいるような状況で、笑いを作りながらも、オピオイド(フェンタニル)中毒の問題点もちゃんと告発しているところは凄いなと思いました。
日本でも、こうした時事ネタを取り上げるコメディアンが生まれるのか、想像しながら彼らのネタを見ているんですけど、やればできるような気がするんですよね。せっかく日本制作のNetflix番組が作られるようになっているんだから、誰かプレゼンしたらいいのに。ハサン・ミンハジ、アジズ・アンサリも、自分でプレゼンしに行っているんですよね。
日本のお笑いの人でこういう時事ネタを扱う面白い番組ができるまで、僕は毎週ハサン・ミンハジの番組を見て、笑いながら世の中のことを勉強します。
文:久保憲司
『ハサン・ミンハジ:愛国者として物申す』はNetflixで独占配信中