「ナイスですね!」一世を風靡したAV業界の異端児・村西とおる
1980年代のアダルト産業に革命を起こし、時代を駆け抜けた伝説のAV監督・村西とおるの波乱万丈の半生を描いたNetflixオリジナルドラマ、その名もズバリ『全裸監督』が配信中。早くも全8話を完走した視聴者から賛否両論の声が上がっており、本作の話題性の高さが伺い知れる。
村西とおる、または黒木香という名前を聞けば、アラフォー後半世代以上の人(特に男性)はバブル景気に浮かれていた80年代の日本を懐かしく思い出すだろう。当時は性的なコンテンツへのハードルは高く、レンタルビデオ店の隅っこでコソコソとアダルトビデオを物色したり、エロ本をマジメな本に挟んでレジに持って行ったり、夜な夜なエロ自販機を目指して自転車を走らせたり……なんて、涙ぐましい努力によって性欲を解消していた時代だ。そんな日本のお茶の間に、奔放な“性”を持ち込んだのが村西や黒木だった。
かつては平凡な営業マンだった!? 村西とおるの栄光と挫折
バブル直前の北海道で、うだつの上がらない英語教材の営業マンとして働いていた村西(山田孝之)は、ふとしたきっかけで才能が開花し、話術巧みなトップセールスマンに成長する。ところが、その絶頂期に会社の金が盗まれる事件が発生し、あえなく倒産。挙句の果てに妻の浮気現場に遭遇し、彼の人生は悪い意味で急転直下の展開を迎える。そんな失意の村西が出会ったのが、場末のスナックでラブホテルの盗聴カセットテープを売りさばく荒井トシ(満島真之介)という怪しい男だった。
トシの「見せてやろうか、裏の世界」という言葉に誘われ、人間が秘めた性欲をむき出しにする異様な世界に一歩足を踏み入れた村西。そこでセールスマンとして培ったノウハウを発揮し、ビニールに包まれた成人向け雑誌、通称“ビニ本”の世界でメキメキと頭角を現すと、半年もかからず40を超える販売チェーン店を展開するまでに急成長させてみせた。
新興勢力である村西を、マフィアさながらにあらゆる手を使って潰そうとしてくるのは、業界最大手の池沢(石橋凌)。さらに村西を目の敵にして執拗に追いかけてくる刑事・武井(リリー・フランキー)、勢力拡大を目論む冷酷なヤクザ・古屋(國村隼)などクセの強い面々を巻き込みつつ、日本のエロ業界はビデオの時代に突入する。
そして物語のもう一つの軸となるのが、当時、国立大学の学生だった黒木香(森田望智)がAVに出演することになった経緯だ。彼女が母親との葛藤の中で、唯一無二のキャラクターを獲得する過程が生々しく描かれている。やがて村西と黒木の出会いが物語を加速させ、否応なしに熱量を引き上げていく。
清濁併せ呑むハードボイルド・エロ伝記
ひと昔前の少女漫画から飛び出してきたような黒木のキャラクターや、白いブリーフ一丁で肩にカメラを担いだ村西と、それを完璧に再現した山田孝之のビジュアルは一見するとコメディドラマのよう。しかし『全裸監督』は、自分の作りたい作品を追求し、AV業界で一旗揚げようと足掻く男たちの熱い青春物語であり、莫大な金と利権をめぐる人間たちの欲望が交差する、エロとグロとバイオレンスが詰め込まれたハードボイルドなドラマだ。
また、さすがNetflixだけあって現在のコンプライアンス的に邦画や地上波ドラマでは完全にNGであろう、過激な性描写も大胆に盛り込まれている。とはいえ村西自身が現役で“悪”としての側面を持つ人物であり、AV業界そのもののダークサイドが問題視されている状況だけに、過剰にカリスマ的イメージで美化しない配慮(=ダサさの醸成)も随所に伺えた。また、明暗を欠いたツルツルとした映像もケレン不足で、シーンによってはセットの安っぽさも気になるところ。そのあたりは日本の映画/ドラマ業界の弱点があぶり出されたとも言えるので、今後のオリジナル作品に大いに期待したいところだ。
『全裸監督』はNetflixで独占配信中。
https://www.youtube.com/watch?v=VpqkS5kXogY