風化させるな! 30年前のニューヨークで起こった非道な冤罪事件
1989年に米ニューヨークで起こった、通称「セントラルパーク・ジョガー事件」をご存知だろうか。公園内をジョギングしていた二十代の白人女性がレイプされ、頭部に重傷を負った状態で発見された事件である。なんとも痛ましい事件だが、本件の容疑者として逮捕されたのは性犯罪歴のある凶悪な変態でも異常性欲者でもなく、当時14~16歳の黒人/ヒスパニック系の少年たちだった。
しかし少年たちは、その日たまたま公園内に居合わせただけ。この事件の闇は、政治的な目的から早急に事件を落着させたかった警察による“自白の強要”、そして差別と偏見に満ちた“世間の目”にある。キング牧師の功績を描いた『グローリー/明日への行進』(2014年)で知られるエヴァ・デュヴァネイ監督によるNetflixリミテッドシリーズ『ボクらを見る目』(原題『When They See Us』)は、この事件を知らない若い世代に大きな衝撃を与え、当時を知る人々には事件後の顛末までを突きつける、控えめに言っても超衝撃的な作品だ。
なんでこんなヤツが大統領に……ドナルド・トランプは30年前からクズだった!
レイプ犯として逮捕されたのは、当時たまたま公園内に居合わせたケヴィンとレイモンド(14歳)、アントロンとユセフ(15歳)、そしてコーリー(16歳)の5人(セントラルパーク・ファイブと呼ばれている)。現場に物的証拠はなく、血液や体液などDNA鑑定の結果も一致しない状況だったが、彼らは翌1990年に有罪判決を受けることになる。
1980~90年代のニューヨークといえば、ここ数十年間で最も治安が悪かった時代。夜道は危険だから出歩くなと当たり前のように言われていたし、深夜に公園内でたむろする不良グループも多く、傷害や窃盗事件は日常茶飯事だった。そんな時代背景もあり、過激化する世論や権力側の圧力によって警察が暴走した最悪の結果が、この冤罪事件というわけである。
さらに恐ろしいのは、新聞やテレビなどのメディアが寄ってたかって少年たちを叩きまくったことだ。これは特殊な状況下で発生した“魔女狩り”的な集団心理だと思いたいが、その状況を望み作り出そうとした人物もいた。あのドナルド・トランプである。
当時トランプは、大金を出して「死刑制度を再び!」と訴える新聞広告を掲載。劇中、その鬼畜ぶりに対し「あの悪魔が!」と直接的に批判するシーンもあるが、そんな男を大統領に選んだ現代アメリカの深すぎる闇というか、この事件が教訓にならなかったのかとショックを受ける。
※追記:トランプは2020年現在もこの件について一切謝罪していない……
奪われた人生を取り戻そうとする姿に拍手! 地獄を生き抜いた精神力に号泣!!
いわゆるリードテクニックによって歪んだ正義感を満たそうとするクソ刑事や、捏造された筋書きを法廷でドヤる醜悪な検察官には殺意を抱くレベル。腐敗した駆け引きに巻き込まれた少年たちの出所後も続くサバイバル劇、そして1人だけ16歳だったため少年院ではなく刑務所に送られてしまったコーリー(ジャレル・ジェローム)が体験した地獄などをじっくり描写する。
それにしても、文字通り死ぬほどのツラい目に遭いながら、宗教にすがることもなく決して罪を認めなかったコーリーの精神力たるや! 演じるジャレルは『ムーンライト』(2016年)のケヴィン役が記憶に新しいが、同シリーズでも唯一少年期~青年期を1人で演じ、抜きん出た存在感を放っている。
1時間強のエピソード×4というタイトさなので、某大人気SFドラマを完走して抜け殻になっているネトフリユーザーのみなさんは、ぜひ『ボクらを見る目』をイッキ観して現実に戻ってきてほしい。アメリカという国の一端を知ることができる、間違いなく2019年ベスト候補に推せるNetflixオリジナル作品だ。
なお、米ナンバーワン人気司会者がホストを務め、監督やキャスト陣も出演する『オプラ・ウィンフリーPresents: 今、ボクらを見る目』も配信されているので、ぜひ併せて観賞しておこう(2012年制作のドキュメンタリー作品『THE CENTRAL PARK FIVE』も配信お願いしますNetflixさん!)。もちろん80~00’sヒップホップの名曲が揃ったサントラも要チェック!!
『ボクらを見る目』は2019年5月31日(金)よりNetflixにて独占配信中
『ボクらを見る目』
セントラルパークで起こった暴行事件の容疑者として、ハーレムの少年5人が不当逮捕される。それは、長年にわたる悪夢の始まりだった。実際の事件に基づくシリーズ。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |