ゆりやん「“撮影”と言わず“試合”って呼んでました(笑)」
取材していて感じたのは、ダンプ、長与、飛鳥と同じように、ゆりやん、唐田、剛力も撮影の中で“プロレス的感性”、“プロレス的関係”を築いていったということだ。
唐田:撮影にあたって、まずプロレスを好きにならなきゃと。長与さんに教えてもらったのは「プロレスは芸術だ」ということです。何度も立ち上がって闘う姿に、お客さんは自分を投影する。悔しさや生きづらさも体現できるのがプロレスだ、と。
試合の場面では、エキストラさんの声でパワーが出るという経験もしました。“ダンプ覚醒”の後の場面では、自分がやられて見下ろされる。その時に「この時を待ってたよ」「こうなって嬉しい」という気持ちになりました。不思議な感覚でしたね。
ゆりやん:私たちは試合の場面を「撮影」と言わず「試合」って呼んでました(笑)。それくらいハードで。ダンプさんと千種さんはずっと仲が良かったのに、すれ違い、いがみ合ってしまう。その感じを出せるように、自分たちもしゃべらないようにしようって、えりかちゃんと話したんです。現場で挨拶もしないようにしてるうちに、本当に気まずくなりました。
でも(クライマックスとなる)“敗者髪切りデスマッチ”の撮影の時にいろいろうまくいかなくて。その日の夜に2人でご飯に行きました。もともと私たちは仲がよかったんだよね、コミュニケーションを取っていろいろ決めていこうよ、って。そこからは本当の意味で息が合うようになりました。
髪切りマッチの撮影は、本当に髪の毛を切るから間違いが許されなくて。終わったあとは「やってやった」という気持ちになると思ってたんですけど、実際には震えが止まらなかったです。涙も止まらなくて。その試合を実際にやったダンプさんも相当な覚悟だったんだろうなと思いました。
剛力:試合でいうと、(長与千種を演じる)唐田さんが(ジャガー横田を演じる)水野さんと闘う場面が印象に残っています。先輩レスラーに「立ってこい!」と言う唐田さんの目が忘れられなくて。「この人は本当のスターだ。唐田えりかが輝いている」と。その時に「私はライオネス飛鳥として、この人を輝かせるためにどう生きよう」という気持ちになりました。
正直に言うと、私は試合のシーンが2人(ゆりやん、唐田)より少なくて、試合のエネルギーの中に入れないのが悔しくもありました。でもその分、2人の情熱を一番近くで見ることができましたね。
唐田「撮影の半年前から週3回のトレーニングを」
剛力「食べるのは本当に大変でした。とにかくカロリーを摂らなきゃいけない」
唐田によると、ゆりやんの“ダンプ松本っぷり”、新人時代からの変化は凄まじいものだったという。
唐田:何度も撮影に参加されたエキストラさんが「お前、強くなったな」って(笑)。フィクションじゃなくてドキュメンタリーみたいですよね。
ゆりやんはプライベートでダイエットしており、約3年かけて40kg程度落としていた。しかしダンプ松本を演じるにあたっては、同程度の増量が求められる。当然、体に負担もかかるから一度は「できないかもしれない」と辞退も考えたそうだ。
ゆりやん:でもダンプさんを演じるために体重を増やすのは、単なるリバウンドじゃないんですよ。プロレスラーの役なので筋肉を増やさなきゃいけない。筋トレだったりサポートしていただけて、そこで覚悟が決まりました。
ただ体重を増やすのではなく、あくまで役作り。だからダンプ松本の肉体に近づくためのトレーニングが必須だった。もちろん食事も限界まで。
ゆりやん:太るのって、なんでこんなに大変なんだろうって。涙流しながら食べてましたね。焼肉屋さんと仲良くなりました(笑)。でも毎月、血液検査と健康診断をやりながらの増量なので安心でした。トレーニングや食事の面でもサポートしてもらえました。
一方で、唐田と剛力は10kg増量したという。
唐田:撮影の半年前から週3回のトレーニングを始めました。栄養士さん、トレーナーさん、整体師さんがついてくれて。食事も、食べるのが「めんどくさい」って思うことがあるんだ……と思うくらい食べました。「血液検査で悪いものが出ない限りは好きなものを食べてください」ということだったので。
剛力:食べるのは本当に大変でしたね。もともと私は野菜とかお粥が好きですし(笑)。とにかくカロリーを摂らなきゃいけない。しかもトレーニングでカロリーを消費するので、さらに食べる必要があって。
トレーニングや食事の面でもサポートがあり、専門のトレーナーがついて健康を害さないよう血液検査も。このあたりはNetflix作品ならではと言えるかもしれない。撮影が始まると現場近くにトレーニング機材を持ち込んで、専用ジムまで用意されたそうだ。そうした万全の体制が『極悪女王』の迫力と濃厚なドラマを支えている。
ゆりやん:撮影の前に、まずリスペクト・トレーニングがありました。「こういう環境にしていきましょう」ということを撮影に関わる全ての人たちで確認しあうセッションですね。「こういうことがあったらどう思いますか? セクハラであると思いますか? パワハラだと思いますか?」という感じで。そうしたことを見たり聞いたりしたらすぐに共有してくださいという説明と一緒に、それを伝えるためのホットラインも共有されました。
そして本作には、最近話題になることが多いインティマシー・コーディネーターも参加している。
ゆりやん:水着(試合コスチューム)の場面も多いので。「この水着は着れますか?」「こんな角度で撮られるのは嫌だというのはありますか?」といった聞き取りを、1対1のところでしてくれました。
プロレスの“裏側”を独自の形で描くところなど、同じNetflixの『サンクチュアリ-聖域-』との共通点も感じさせる『極悪女王』。大胆さも細部のリアリティも、それを生み出す土壌が整えられた上でのことなのだ。
取材・文:橋本宗洋
撮影:落合由夏
Netflixシリーズ『極悪女王』は9月19日(木)より世界独占配信
Netflixシリーズ『極悪女王』
バブル真っただ中の80年代を舞台に、心優しき一人の少女がルール無用の極悪プロレスラーになっていく姿を描く。全国民の敵と呼ばれた最恐ヒールの知られざる物語。
制作年: | 2024 |
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9月19日(木)より世界独占配信