団地から宇宙へとつながる絆の物語
講談社<月刊アフタヌーン>で連載された今井哲也による傑作SFジュブナイル漫画を劇場アニメ化した『ぼくらのよあけ』が、2022年10月21日より全国公開される。
阿佐ヶ谷団地に住む小学4年生の沢渡悠真(杉咲花)の前に現れたのは、無人探査機の人工知能<二月の黎明号>。「私が宇宙に帰るのを手伝ってもらえないだろうか?」との言葉から始まった、悠真たちのひと夏の極秘ミッションとは―。
今回は、本作で<二月の黎明号>を演じる朴璐美と、主題歌「いつしか」を担当する三浦大知が、作品についてはもちろん、お互いの表現について尋ね合うぶっちゃけ(!?)クロストークをお届けする。
日常から宇宙へと広がっていく流れを1曲に込めて歌う
―映画『ぼくらのよあけ』で三浦さんは主題歌を、朴さんは<二月の黎明号>役を担当されています。脚本を読んだときに、それぞれの表現において大切にしたいと感じたところは?
三浦:『ぼくらのよあけ』には宇宙という壮大なテーマと、リアルな生活感などふとした日常で感じる気持ちといったミニマムな部分が同居しているので、楽曲のなかでもそういった部分を表したいと思いました。地に足がついたところから、宇宙へと向かっていく流れを1曲のなかで表現していく。僕自身もその流れをしっかりと感じながら歌いたいなと思い、レコーディングしました。
―Nao’ymtさんが作詞・作曲を手掛けていますが、最初におふたりで歌い方などを固めてからレコーディングに臨むのでしょうか?
三浦:もう長いことご一緒しているので、お互いにどんなものを作りたいかがよくわかっているんです。なので、まずは僕が歌ってみて「もうちょっと弱い感じとかどうですか?」とか、「それだったら、さっきのほうが世界観に近いかもしれないですね」といったようなやり取りをします。
多分、朴さんも現場で「このセリフってどんなテンションで発したらいいですか?」といった感じですり合わせながら進めていくと思うんですが、それに近いかもしれないです。その場でテンションを固めていって、どんどん作っていくイメージです。
朴:まずは大ちゃん……ごめんね、つい「大ちゃん」って呼んじゃって(笑)。
三浦:全然です! 嬉しいです(笑)。
朴:ありがとう(笑)。まずは大ちゃんが歌ってみるんですね。そこから調整していく?
三浦:そうです。楽曲を聞いて自分なりに感じた世界を歌ってみて、そこからどんどん広げていく感じです。
朴:最初から最後まで一度通して歌ってみて?
三浦:そうですね。僕の場合はそうですが……たしかに、朴さんの場合は頭から最後まで一気にアフレコしたりはしないですし、シーンも飛び飛びで録ったりすることもあるんですよね?
朴:そうそう。飛んだりすることもある!
三浦:僕はさっきも言ったように1曲のなかで流れが決まってるので、それに沿って感情を乗せて歌うことができますが、飛び飛びのシーンを録るときって、どんな感じでいつもアフレコされているんですか?
朴:最初のアフレコで監督や音響監督とキャラを決めて、そこから自分なりに解釈しながら進めていきますが……途中で「わかんなくなっちゃった!」ってなるときもあって(笑)。「もう一度最初からやりたい!」っていうジレンマは結構あるかもしれないです。だから、いまの大ちゃんの話を聞いて「最初から最後までの流れを一度みんなで共有できるのっていいな~」と思いました。
―最初に作った流れからイメージしていたものと、最終的に曲となって仕上がったものが、大きく変わったりすることもあるのでしょうか?
三浦:大きく変わることはないと思います。ただ、本当にちょっとした息の吸い方とか間のとり方で、言葉の届き方や響き方が変わっていくので……。そういった細かいところはNao’ymtさんとアイデアを出し合いながら作っていきます。
朴:そのなかでも、大ちゃんが今回特にこだわったところって?
三浦:やっぱり、サビに入る「♪忘れないで」のところですね。『ぼくらのよあけ』のなかで生きているキャラクターたちが共有する思い出すべてに「忘れないで」という言葉がリンクしていると思うので、サビの最初の1行はとても重要だと思っていました。それより前の静かな流れを受けながら、自分の気持ちをグッと乗せられるように。しっかり歌わないといけないなと、こだわって歌ったと思います。
朴:そっか~。ひとつの曲としての流れを感じながら聴いてみたい!
三浦:そうなんですよ! 曲の流れのなかにもストーリーが詰まっているので、フルで通して聴いていただきたいです。
朴:ダイナミズムを感じるし、音に説得力があるから“宇宙”のイメージがストレートに入ってきますよね。この楽曲と『ぼくらのよあけ』という作品が本当にリンクしていて……。いまのお話を聞いて「なるほどな!」と思いました。
「この難役に出会ったときに、自分の“血”を感じました」
―朴さんは<二月の黎明号>を演じる際に、どんなところを大切にしたいと思ったのでしょうか?
朴:途方もない孤独のなかにいて、そのなかで「知りたい」という思いだけで生きている……。二月の黎明号にとって「生きている」とは、どういうことなのか? っていうことが私もわからなくて、テーマが深すぎるんですけどね(苦笑)。
三浦:「“生きている”っていう定義自体がわからない」っておっしゃっていましたもんね。
朴:そう! わからないなって思いながらも、何万年も「知りたい」という思いだけで進むことのできる純粋な存在であることはわかっていましたから、その部分は大切にしたいと思いました。でも……本当に難しかったです(笑)。何万年も思い続けている「知りたい」という気持ちを、おもいっきり込めて表現するような役ではなかったので。
三浦:何度も「難しい」っておっしゃっていて(笑)。
朴:台本を読んで「なんだこれ!? 難しいんじゃー!」って思いましたから(笑)。でも、「なんて素敵なテーマなんだろう!」とも思いました。
―その難しさを表現するにあたって、どんなところから紐解いていったのでしょうか?
朴:紐解くカギとなったのは、自分の血だったと思います。「知りたい」という好奇心で外に出て行って、そこで新たに出会ったものと生活を営んで、それからまたさらに外に出て行く。生命ってその繰り返しなんだなというのが、自分の血においても感じるところがあるので、だからこそのキャスティングだったんじゃないかな? とも思うくらい(笑)、<二月の黎明号>という難役に出会ったときに、自分の血を感じました。
三浦:いまのお話を聞いて、腑に落ちる感じはすごくありました。最初は無機質な人工知能として見えるんですが、話がどんどん進んでいくうちに、意志や思いが見えてくる。そうやって血が通っていく感じというのが、いま「そういうことだったんだ!」と腑に落ちましたし、そういったところを朴さんが意識して演じられていたからこそ、<二月の黎明号>そのものになっているんだなあと感じました。
朴:いやー、もう、嬉しいですけど変な汗が出てきちゃう!(笑)。
三浦:あはは! でも本当に僕はそう感じました。
朴:自分ではわかりませんが……とにかく「監督に引きずり出していただくしかない」と思ったので、何パターンかやってみて。どのテイクが完成版に使われるのか、その場ではわからないんです。
三浦:そうなんですね!? そういう作り方って、作品によるんでしょうか? どの作品もそんな感じですか?
朴:作品と、ディレクターによりますね。最初からある程度固めて持って行かないといけない場合もあるし、現場でどんどん作り変える場合もあります。やり方は本当にそれぞれ違いますね。
自分が出演した作品/ステージは恥ずかしくて見られない!?
―三浦さんは声優さんのお仕事に対して、どのようなイメージをこれまで抱いていたのでしょうか?
三浦:本当にすごいお仕事だなと思っていました。歌とはまた違う、声だけの表現ですよね……。僕も以前、少しだけナレーションをさせていただいたことがありますが、喋るスピードや強弱で言葉に乗る感情の色がどんどん変わっていくんです。アニメでは、それをさらに絵に合わせて表現していって、キャラクターに命を吹き込んでいくわけですから。
そばで見ていても本当に大変なお仕事だなと思いますし、相当な努力や技術はもちろんのこと、強い思いや魂がないとできない表現なんだろうなと感じていて。とてもプロフェッショナルなお仕事であることを、改めて実感しました。キャラクターの口にセリフを合わせるとか……あ、でも<二月の黎明号>は口がないですね(笑)。
朴:そう!(笑)。口がないので合わせる必要はないんですが、セリフを発する尺は決まっているので、難しさはありました。「もうちょっと文字数減らして~!」とかね(笑)。
三浦:<二月の黎明号>は説明することが多いキャラクターですもんね。AIだから抑揚をつけづらいと思うんですよ。でも、どんどん“人感”が出てくるんです。それがすごくて。
朴:(恥ずかしそうに小さな声で)ありがとうございます……。
三浦:その変化というか、<二月の黎明号>が伝えてくれるメッセージのなかに、この作品の重要なキーワードが眠ってる感じがすごくあるので、それに引き込まれて最後までグッと見入ってしまうんじゃないかなと僕は思いました。
朴:いやもう本当に、それ以上は!(笑)。
三浦:あはは!(照れる朴さんに向かって)黙っておきます。でも僕は感動しました。
―今作についての取材で初めてこうしてご一緒されて、朴さんは三浦さんについて、どのように思いましたか?
朴:いまこうやって聞いていても、大切にされているものが根っこにしっかりあるんだろうなとビシバシ感じて……なんて言うんだろう? DNAを感じます(笑)。
三浦:DNA(笑)。嬉しいです。
朴:すいません、なんかちょっと本当に恥ずかしくて(笑)。
三浦:ははは! 恥ずかしいといえば……朴さんは、ご自身が演じたキャラクターの声をもう一度聴くことに、恥ずかしさや抵抗みたいなものはありますか?
朴:ダメですね、私。基本的には10年寝かせるタイプです。
三浦:あ、でもそれちょっとわかります! 直近の自分ってちょっと恥ずかしいですよね。見たくないっていうのはわかります。10年経てば、別の人っぽい感じで見られるかも。
朴:「あ、もういいや!」って見ることができる(笑)。
三浦:「こういうときもあったね」ぐらいで見れますもんね。
朴:そうそう。でも直近だけは本当に無理ですね。大ちゃんは?
三浦:あんまり見たくはないですけど(笑)、ライブとかだと一応演出家としての側面もあるので、見ざるを得ないというか……。でも、自分の歌やパフォーマンスを中心に見るのは、やっぱりちょっと恥ずかしいです。粗が目立ってしまうというか、「ここでこんなことしてるんだ」とかって思っちゃいます(笑)。
朴:わかります(笑)。私も演出プロデュースするときはしっかり見ることができるけど、演者側になると自己否定がハンパない(笑)。
三浦:視点が変わると見られるっていうのはありますよね。でも<二月の黎明号>もすごく素敵なキャラクターでしたし……ぜひご自身を認めてください!(笑)。
取材・文:とみたまい
撮影:川野結李歌
『ぼくらのよあけ』は2022年10月21日(金)より全国公開
『ぼくらのよあけ』
西暦2049年、夏。
阿佐ヶ谷団地に住んでいる小学4年生の沢渡悠真は、間もなく地球に大接近するという“SHⅢ・アールヴィル彗星”に夢中になっていた。
そんな時、沢渡家の人工知能搭載型家庭用オートボット・ナナコが未知の存在にハッキングされた。
「二月の黎明号」と名乗る宇宙から来たその存在は、2022年に地球に降下した際、大気圏突入時のトラブルで故障、悠真たちが住む団地の1棟に擬態して休眠していたという。
その夏、子どもたちの極秘ミッションが始まった―
監督:黒川智之
アニメーション制作:ゼロジー
原作:今井哲也(講談社「月刊アフタヌーン」刊)
声の出演:杉咲花 悠木碧 藤原夏海 岡本信彦
水瀬いのり 戸松遥 花澤香菜 細谷佳正
津田健次郎 横澤夏子 朴璐美
主題歌:三浦大知「いつしか」
制作年: | 2022 |
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2022年10月21日(金)より全国公開