「幕の内弁当」のような劇場版。毎回切り口が変わるが今回の主菜は…
劇場版『名探偵コナン』シリーズの第23作『紺青の拳(フィスト)』が2019年4月12日から公開され、初日含む3日間で興行収入約18億8600万円をあげた。これは過去最高のヒットを記録した前作『ゼロの執行人(しっこうにん)』(国内興行収入約91.8億円)を越える好発進だ。
今回は劇場版では初めて海外(シンガポール)が舞台という話題性に加え、怪盗キッド、京極真と人気のキャラクターがゲスト出演する点が見どころだ。
劇場版『コナン』はミステリー、アクション(建築物の大破壊含む)、ロマンスなどが全部盛り込まれた「幕の内弁当」のようなシリーズだ。だからこそ幅広い観客に訴求している。例えば筆者は、2019年4月13日(土)の日中に川崎で『紺青の拳』を見たが、子供はもちろん、20代以上の男女二人組も多く、『コナン』がデートムービーとしてちゃんと定着していることがよく伝わってくる客層だった。
「幕の内弁当」のような劇場版『コナン』だが、当然ながらその年ごとに“主菜”は変わってくる。たとえば最近の作品だと、『純黒の悪夢(ナイトメア)』は謎解きというより『ミッション:インポッシブル』シリーズのようなスパイアクションに主軸があり、逆に『から紅の恋歌(ラブレター)』は殺人事件の謎を解くミステリー度が高く、『ゼロの執行人』は公安が絡んでもスパイアクションというより謀略ものの色合いが濃い。こうして毎年、題材や切り口を変えていくのが(その回ごとに出来不出来はあっても)劇場版『コナン』が長期シリーズでも飽きにくいポイントになっている。
今回の『紺青の拳』は脚本が『から紅の恋歌』と同じ大倉崇裕ということもあるのか、同作に近い方向性の作品だ。ただし盛り込まれたネタは今回のほうがはるかに多く、より“お祭り度”の高い1作になっている。ビジュアル面では、怪盗キッド、京極のアクションの作画に力が入っているほか、逆光を強調して園子の不安を盛り上げるカットなど、各ポイントでこれまでの劇場版『コナン』とはまた異なる雰囲気のビジュアルが入るのも新鮮だった(監督は本作が劇場版初監督になる永岡智佳)。
前作より恋愛要素が2倍!新一&蘭、京極&園子の恋の行方は?
物語りが始まるとまずシンガポールのマリーナベイ・サンズ近郊で殺害事件が起きる。映画はその謎解きを縦軸にしつつ、そこに宝石「紺青の拳」を狙う怪盗キッドの物語と空手大会に出場する京極の物語を絡ませていく。キャラクター同士の思惑が交錯し、ちょっと盛りだくさんすぎて、ミステリーの種明かしをするシーンが山場というより、その前後にある派手なアクション(過去のコナン映画の中でも大仕掛けな部類)の間の小休止に見えてしまうほどだ。
そして事件の進展と並行して、キャラクターの恋愛模様も描かれるあたりが、『から紅の恋歌』と共通する本作のポイント。
『から紅の恋歌』の時は服部平次と遠山和葉という準レギュラーの2人に焦点をあてたが、今回はそれが倍になって、2組のカップルの心の揺れ動きが描かれる。
まず最初の一組は、ヒロインである毛利蘭と恋人の工藤新一。もう一組は、蘭の幼馴染みの鈴木園子と400戦無敗の高校生空手家、京極真の恋模様。こちらは恋愛がらみだと途端にシャイになる京極が、園子の気持ちにどう応えるのかという部分でドラマを引っ張る。
『コナン』と同じように、TVシリーズに軸足を起きながら年1回の映画を公開する作品はほかにもあるが、ロマンスの要素でここまで盛り上げられるのは実質的に劇場版『コナン』だけ。そしてこのロマンスを巡る騒動は、観客をヤキモキさせながらも、“各キャラクターのあるべき場所”へとちゃんと収束していく(日本に帰国した際の蘭の行動の頼もしさ!)。このラブコメ的な要素は、殺人によって乱された秩序が、探偵の活躍によって回復し、日常へと回帰する展開とパラレルな関係にある。
どれほど“お祭り感”を華々しく盛り上げようと、必ずいつもの日常へと帰ってくる。この安心感もまた劇場版『コナン』シリーズが安心して愛されている理由のひとつだろう。
文:藤津亮太
劇場版『名探偵コナン 紺青の拳(こんじょうのフィスト)』は2019年4月12日(金)より全国公開