大型アニメーション映画『バブル』が、Netflixの先行配信を経て2022年5月13日より劇場公開を迎える。
監督は『進撃の巨人』(2013年)『甲鉄城のカバネリ』(2016年)の荒木哲郎、共同脚本は『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)の虚淵玄、キャラクターデザイン原案は「DEATH NOTE」の小畑健と、そうそうたる著名クリエイターが集結した本作。舞台は謎の泡に包まれ、重力異常が発生した東京。住民が避難し、捨てられたかの地には行き場のない少年少女が集まり、日ごと賭けレースを繰り広げていた。そのうちのひとりであるヒビキ(声:志尊淳)は、ある日ウタ(声:りりあ。)と名乗る謎の少女と出会う。
今回は、ヒビキやウタと共同生活し、“泡沫現象”を引き起こした事象を調査する科学者・マコトを演じた広瀬アリスにインタビュー。『進撃の巨人』の大ファンだった広瀬が、オーディションを突破して憧れのクリエイターたちと共闘した道のり、そして鋭い視点が冴えわたる“アニメ論”まで――愛にあふれる言葉の数々をお届けする。
『進撃の巨人』が好きすぎて……
―『バブル』は、荒木哲郎監督とWIT STUDIOのコラボほか、アニメ『進撃の巨人』の面々が集結。広瀬さんはドラマ『ラジエーションハウス』(2019年ほか)の現場でも「心臓を捧げよ!!」を共演者の皆さんとされていましたね。
そうですね。現場に原作を全巻持って行って、「みんな好きに読んで!」って布教したんです。ちょうど撮影期間中が最終巻が出るタイミングで胸アツ状態だったので、現場でも流行ってくれてすごく嬉しかったです。
最初に『進撃の巨人』を読んだのは18歳くらいのとき。割と序盤にエレンが食べられるのですが、それで私「は!?」って言っちゃうくらい衝撃を受けて(笑)。
4話といえばこの動画。
— 広瀬アリス (@Alice1211_Mg) October 24, 2021
「心臓を捧げよ!!!!!!!!」
って声がかかると
揃っちゃうんだよね。
打ち合わせとかしてないのにさ。
みんなすきぴ。 pic.twitter.com/sEiS063Av9
―あれは衝撃ですよね……。
とにかく設定が圧倒的に面白くて読み続けていたら、アニメ化すると聞いて。自分がずっと読んでいた漫画がアニメ化されて、調査兵団が動いているのを観たときは感動しました。そこからはアニメも並行して観るようになりました。
―『バブル』のパルクールシーンなど、『進撃の巨人』の立体機動装置を想起しますよね。
わかります! パルクール自体もそうなんですが、私がすごく好きだったのが、ヒビキとウタが走っているときのバックショット。二人が走っていくところを背中から追っていく画がそっくりで、自分も一緒に動いているような感覚になれて、“『進撃』感”があって最高でした。しかも今回は電車やタワーでもパルクールをするので、アトラクションに乗っているみたいに楽しめます。
―本作では、梶裕貴さん(カイ役。『進撃の巨人』では主人公のエレンを演じている)との対話シーンもありますね。
いやぁ……アフレコは今回別々だったのですが、本当に別々でよかったです。もし一緒に録ることになっていたら「ちょっとお手洗い行きます」って心を落ち着かせないと、たぶん仕事にならなかったと思います(笑)。完成した作品を観ているときは「話してる……」って、いち視聴者として観入って楽しんでしまいました。
15年間で最も緊張したオーディション
―愛が存分に伝わってきますが、そのぶんオーディションの際は緊張されたのではないでしょうか。
それはもう。そもそも声優さんは専門職ですし、私自身はリスペクトが強いぶん「安易に手を出しちゃいけない」とも思っているんです。今回のオーディションの話をお聞きしたときに「いや、私は無理だ」とも思いました。だって、荒木哲郎さんに虚淵玄さんに小畑健さんですよ?
『バブル』に参加される前から皆さんの作品を観てきましたし、各メンバーのお名前を見るだけで込み上げてくるものがあって。それで最初は委縮してしまったのですが、「いや、でも、こんな機会は滅多にないし、荒木監督にお会いできるだけでもいい」と思い、参加させていただきました。
ただ、いざ目の前に荒木監督と川村元気さん(企画・プロデュース)がいらっしゃる状況になったら足がガクガクしてしまって。オーディションは20分くらいだったかと思いますが、終わった後は500mlのペットボトルを飲み干してしまうくらい喉がカラッカラになっていました(笑)。
―ものすごく消耗されたのですね……。
これまで15年くらい様々なオーディションを受けさせていただいてきましたが、一番緊張したかもしれません。いざオーディションが始まれば、ちゃんと演じきりたいという気持ちも出てきましたし、どんどん力が入っていきましたが、終わった後の脱力感がすごくて。朝ドラの何倍も緊張しました(笑)。
―キャリアを重ねられてオファーを受ける機会が増えたぶん、オーディションを受ける回数は減ったのではないかと推察しますが、久々のオーディションでしたか?
そうですね、1年ぶりくらいのオーディションでした。ただ「荒木監督に会えれば満足できる」が当初の目的だったので(笑)、うまく肩の力が抜けていたと思います。「前のめりになって、つかみとろうとしなくていいんだよ」と、15年前の自分に教えてあげたいです(笑)。
―アフレコ時、荒木監督や音響監督の三間雅文さんとはどのように作っていきましたか?
一言だけのシーンでも「ここだけ直していただいていいですか」とか、「ここはもうちょっと陰のある、壁を作る感じで」など、本当に繊細に一言一言教えて下さったり、実際にお芝居して下さって、すごくわかりやすかったです。贅沢な時間だなと感じながら収録していきました。
あと、印象的だったのは「とにかく距離感を大事にしてほしい」と言われたことです。普段の私の芝居の感覚でいくと、目の前の人に向かって話してしまう癖があって。マイクが物理的に目の前にあると、マイクに対してそのまま喋ってしまうんです。そのため「もうちょっと遠くに放る感じ」など、細かく指示していただきました。
広瀬アリスが考える、日本アニメの“強み”
―広瀬さんが『バブル』をご覧になった際のコメントで「熱量」と語っていらっしゃったのが印象的でした。特にアニメーションや漫画という表現において、近年よりいっそう欠かせなくなってきたキーワードだと思うんです。
日本が世界に本当に自慢できるものはたくさんあると思いますが、その中にアニメや漫画は絶対に入ると感じています。世界観も画力もストーリーも、本当に強度が高い。
私が本格的に漫画を好きになったのは「GANTZ」からですが、原作者の奥浩哉先生は「ドローンなどを使ってロケハンする」とおっしゃっていて。ロケハンしたうえで、その中にいびつなものを入れるのがお好きなそうなんです。大阪のシーンでも、道頓堀の居酒屋の看板の上にぬらりひょんが立っていたりするんです。海外のアニメも好きでちょくちょく観たり、解説動画もチェックするのですが、日本の漫画・アニメ作品のアイデアは圧倒的に強いなと感じます。
ストーリー面だったら、たとえば正義と悪の二つじゃなく、悪の中にも実は正義があるなどの繊細な部分をちゃんと描いている点が日本の特長。たとえば最近だったら『鬼滅の刃』(2019年)もそうです。鬼たちは基本的に悪者だけど、それぞれにそうなった過去がある。「悪いやつだから感情移入できない」と排除するのではなく、観ている人が敵側にも感情移入できる漫画・アニメ作品が日本にはたくさんあると感じます。
―『鬼滅の刃』は結局、人間と元・人間の戦いですもんね。『進撃の巨人』も人と人の争いにシフトしていく。
そうなんです、だからどこか悲しいし切ないし、きっとそれが日本人ならではの情緒だと思うんです。『バブル』のヒビキとウタの距離感も、「近づきたいんだけど近づけない」切なさが観る人を惹きつけると感じますし、日本的な感覚が流れているように思います。
そのうえで本作は、すごくピュアな作品だと感じました。各クリエイターの皆さんのこれまでの作品を観ていると、もうちょっとダークな作品になるかな? というイメージが強かったんです。
―『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS』『甲鉄城のカバネリ』など……。
はい。でも今回は純粋さやかわいらしさ、綺麗さが際立っていて、そのギャップが新鮮でした。ストーリーも「こんなにまっすぐな人たちがいるんだ」と感じましたし、少年少女がもがきながらまっすぐ突き進んでいく青春物語ですし、大人になったらできないような姿をたくさん見せてくれるこの子たちに、すごく愛情が持てました。
―プラス、先ほどお話しいただいた画力、映像表現の部分ですね。
情緒と画力のミックスが熱いです。色使いひとつとっても、単調じゃない。そして、日本のクリエイターの方はちゃんと「壊せる」んです。崩壊する様子や荒廃した状態の描写もそうですし、世界観を構築したうえで、ボロボロにできるからこそ面白い世界が立ち上がるというか。
もっともっと海外に通用する日本の作品はあると思いますし、『バブル』もNetflixで世界配信されるので、海外の方にも観ていただきたいです。「どうだ、こんなにもこのメンバーはすごいんだぞ!」って自慢したいです(笑)。そんな作品に参加させていただき、とても光栄です。
取材・文:SYO
撮影:落合由夏
『バブル』劇場版は2022年5月13日(金)より全国公開、Netflix版は4月28日(木)より全世界配信中
『バブル』
世界に降り注いだ泡〈バブル〉で、重力が壊れた東京。ライフラインが断たれた東京は家族を失った一部の若者たちの住処となり、ビルからビルに駆け回るパルクールのチームバトルの戦場となっていた。ある日、危険なプレイスタイルで注目を集めていたエースのヒビキは無軌道なプレイで重力が歪む海へ落下してしまった。そこに突如現れた、不思議な力を持つ少女ウタがヒビキの命を救う。
驚異的な身体能力を持つウタは、ヒビキと彼のチームメンバーたちと共に暮らすことになる。そこには、メンバーたちの面倒を見ながら降泡現象を観測し続ける科学者マコトの姿もあった。賑やかな仲間たちと、たわいのない会話で笑い合う日常生活に溶け込んでいくウタ。なぜか二人だけに聴こえるハミングをきっかけに、ヒビキとウタは心を通わせていく。しかし、ヒビキがウタに触れようとするとウタは悲しげな表情を浮かべて離れてしまうのだった…。
ある日、東京で再び降泡現象がはじまった。降り注ぐ未知の泡、ふたたび沈没の危機に陥る東京。泡が奏でるハミングを聴きとったウタは、突然ヒビキの前から姿を消してしまう……! なぜ、ウタはヒビキの前に現れたのか、二人は世界を崩壊から救うことができるのか。二人の運命は、世界を変える驚愕の真実へとつながる――。
監督:荒木哲郎
制作:WIT STUDIO
脚本:虚淵玄(ニトロプラス)
キャラクターデザイン原案:小畑健
声の出演:志尊淳 りりあ。
宮野真守 梶裕貴
畠中祐 千本木彩花 逢坂良太
井上麻里奈 三木眞一郎
広瀬アリス
制作年: | 2022 |
---|
劇場版は2022年5月13日(金)より全国公開、Netflix版は4月28日(木)より全世界配信中