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『風の谷のナウシカ』と『DUNE/デューン 砂の惑星』に相互影響あり?「理想の世界」への希望と儚さ描く

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ライター:#藤津亮太
『風の谷のナウシカ』と『DUNE/デューン 砂の惑星』に相互影響あり?「理想の世界」への希望と儚さ描く
『風の谷のナウシカ』© 1984 Studio Ghibli・H / 『DUNE/デューン 砂の惑星』©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

名匠たちを魅了する「砂の惑星」

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『DUNE/デューン 砂の惑星』が2021年10月15日(金)より公開中だ。言うまでもなく本作の原作はフランク・ハーバートが1965年に発表したSF小説。そのユニークな物語と世界観は、さまざまな人を魅了した。しかし、なかなかうまくはいかなかった。

『DUNE/デューン 砂の惑星』©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

1970年代にはアレハンドロ・ホドロフスキー監督が映画化に挑戦。しかし企画は頓挫し、その顛末はドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』(2013年)にまとめられることになった。続いて1980年代にはデヴィッド・リンチ監督が映画化に挑み、完成はしたものの物語は原作のダイジェストに留まり、リンチ監督も「自分に最終決定権がなかった」と不満足な作品であったことを認めている。このほかに2000年と2003年にはジョン・ハリソン監督によってTV映画シリーズとしても制作されている。

どうして、これほどまでに「砂の惑星」はクリエイターを魅了するのか。

※編集部私物

複雑かつユニークな世界観を持つ宇宙規模の貴種流離譚

作品の舞台は西暦1万190年。人類は皇帝を中心とする宇宙帝国を建設し、各大領家はひとつの惑星を自らの領地として与えられ、領地経営を行っていた。アトレイデ家が新たな領土として皇帝から与えられたのは砂の惑星アラキス、別名デューン。

『DUNE/デューン 砂の惑星』©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

デューンは、宇宙航行などのために必要な“香料(スパイス)”を産出する重要な拠点だった。しかし、直前までそこを治めていたのは宿敵ハルコンネン家。アトレイデ家を待ち受ける、ハルコンネン家と皇帝の陰謀。父を殺され、砂漠を放浪することになったアトレイデ家の長男ポールは、その中で自らの運命を知っていく。

『DUNE/デューン 砂の惑星』©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

宇宙を舞台にした壮大な貴種流離譚。さらに本作は、思考機械との戦いを鎮圧した歴史を持つという設定があり、そのためにコンピューターの代わりを果たす人間メンタートがいたり、超感覚を持つ人間を養成するベネ・ゲセリット(女子修道会)が大きな勢力を持っており、そうした世界観もユニークだ。さらに、デューンには独自の文化を持つフレーメンと呼ばれる砂漠の民も存在し、彼らの文化だけでなく、またデューンの生態系そのものも物語の中で大きな意味を持つ。

『DUNE/デューン 砂の惑星』©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

単にストーリーが壮大なだけでなく、誰も見たことのない世界を映像として構築する、その部分がクリエイターを魅了するのだろう。『スター・ウォーズ』旧三部作(1977~1983年)などを筆頭に、本作に影響を受けたといわれる作品は様々にある。

『DUNE/デューン 砂の惑星』©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

デューンと腐海、リエト・カインズ博士とナウシカの「秘密の小部屋」

「風の谷のナウシカ」も、「砂の惑星」の影響があるのではないか、としばしば指摘される作品だ。確かに「砂の惑星」で重要な役割を果たすサンドワーム(砂虫)の存在と、「ナウシカ」の王蟲には一脈通じるところがある。また、1984年の映画版『風の谷のナウシカ』が予告された救世主の降臨で終わるのも、「砂の惑星」と近い。ただし原作「ナウシカ」は、映画で描いた「救世主の降臨」を否定して、さならる深みへと物語を進めているところに凄みがあるのだが。

『風の谷のナウシカ』© 1984 Studio Ghibli・H

と、そんなことを思いながら『DUNE/デューン 砂の惑星』を見ていたら、アレ、と思うシーンが登場した。帝国の監察官で生態学者のリエト・カインズ博士が、自らの拠点に追われるポールたちをかくまうくだり。横穴を通り、隔壁を越えて奥へと進んでいくと、そこに現れたのは小さな部屋。そこには貴重な水が流れ、緑の植物が植えられている。不毛な世界の中に突然現れた、「こういう世界であればいいのに」という人々の願いを反映した空間だ。

『ナウシカ』では、ナウシカが清浄な水と清浄な土で腐海の植物を育てた小部屋が出てくる。普通の世界では有害な瘴気をばらまく腐海の植物だが、清浄な世界では瘴気も発さない。腐海の植物は、瘴気という形で汚れた土を浄化していたのだ。腐海の毒に苦しむ人々が望む理想の空間が、そこにはあった。

『風の谷のナウシカ』© 1984 Studio Ghibli・H

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督やスタッフが、どこまで『風の谷のナウシカ』を意識したかはわからない。意識していない可能性が高いとも思う。

でも、サンドワーム→王蟲→ナウシカの部屋→リエト・カインズ博士の部屋と、文化のリレーがつながっている――んじゃないかと考えると、ちょっと楽しくなる。そんなふうに、妄想まじりで映画と映画の間に線を引くのも、ファンの楽しみの一つではある。

『風の谷のナウシカ』© 1984 Studio Ghibli・H

文:藤津亮太

『DUNE/デューン 砂の惑星』は2021年10月15日(金)より全国公開中

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『DUNE/デューン 砂の惑星』

アトレイデス家の後継者、ポール。彼には“未来が視える”能力があった。宇宙帝国の皇帝からの命令で、その惑星を制する者が全宇宙を制すると言われる、過酷な《砂の惑星デューン》へと移住するが、それは罠だった……。

そこで宇宙支配を狙う宿敵、ハルコンネン家との壮絶な戦いが勃発。父を殺され、巨大なサンドワームが襲い来るその惑星で、ポールは全宇宙のために立ち上がる――。

制作年: 2020
監督:
出演: