水瀬いのりの「平常心」
実写ドラマ化も決定した大人気ゲームシリーズのアニメ化作品『ソードアート・オンライン』(SAO)の映画2作品目となる『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』が、2021年10月30日(土)に公開を迎える。
本作ではメインキャラクター・アスナの過去が明かされると共に、様々な仕掛けが施された物語が展開。その中で、新キャラクターのミトに息を吹き込んだのが、2020年にデビュー10周年の節目を迎えた水瀬いのりだ。伝統あるシリーズ初参加、しかも重要キャラクターという重圧に挑んだ水瀬への単独インタビュー後編をお送りする。
「ダメな日もあっていい」声優活動10年の到達点
そうですね。落ち着くのは一番難しい感情だと思っていて、どうしても緊張してしまったり欲が出たりするものだと思うのですが、だからこそ、いかに平常心の領域に持っていけるのかが、その日のコンディションに繋がっていくように思います。常に平常心を保てることがプロだと感じますが、まだどうしても助走が長くなってしまう日もあります。
そんな中で今回は、『SAO』シリーズの原点を知っている皆さんの「大船に乗った気持ちでのびのびやって」という意志を感じられたからこそできたお芝居でした。
―デビュー10周年を迎えられた際のコメントで「肩の力を抜けるようになってきた」と発言されていましたが、「平常心」とつながるお話ですね。
最初はやっぱり自分で自分に期待をかけてしまったり、なんとなく周りの目を気にしたり、誰も責任を課していないのに課された気分になって、「ここを越えなきゃ」という及第点や、「絶対にここに到達する」という印を作って仕事をしてしまっていたのですが、いつからかそれが自分を窮屈にしていると気づきました。究極論なのですが「ダメな日もあっていいじゃないか、人間だもの」と思えるようになったんです。
「ダメな日はダメだし、だからこそ人間としての人生がある」ということを色々なお仕事をさせていただく中で学んできて、「ダメならどうするか、ダメなりにできることを考える」という方向にシフトしていきました。長く続けさせていただいているからこそ到達できた考えだと思います。これは特定の作品というよりも、一つひとつの時間の流れの中で自分で見つけたもので、そこに作品がくれた気づきが加わっていったような感覚があります。
―そのタイミングで、ある種同い年に近い『SAO』と道がつながったのは感慨深いですね。
本当ですね。学生時代の自分にいま声をかけられるとしたら、「10年後に出るよ」って教えてあげたいです。でも、そうしたら人格がいまとは違ってしまい、未来が変わってしまうかも(笑)。
―先ほどミトの内面のお話がありましたが、『SAO』のキャラクターは、ナイーブな部分を持ちつつも戦闘シーンなどのカッコいい部分も魅力ですよね。ひょっとして、水瀬さんが幼少期にお好きだったという「美少女戦士セーラームーン」のセーラーヴィーナスや「名探偵コナン」の毛利蘭とも、ちょっと重なる部分もあるのかな、と思いました。
昔から、私がアニメーションを観る中で好きになるキャラクターは「カッコいい女性」なんです。女の子は可愛さに加えて、カッコいいのが最強だ、という思想が子どもながらにあって、守られるのではなくて、自分が守る側になれる女性に常に憧れを抱いていました。その流れで、初めて『SAO』に触れたときにアスナに対して憧れの女性像に近いイメージを抱いていました。
『SAO』好きに刺さりそうな実写映画は?
―これまでの声優活動と照らし合わせて、ミトというキャラクターは、ご自身が演じてこられた中でも珍しいタイプという感覚でしょうか。
そう思います。原作者の川原礫先生も、オーディションのテープを聞いてくださって、「自分が知っている水瀬さんの演じてきたキャラクターとは違っていて、どんなふうになるのかワクワクしている」というお話を<AnimeJapan>でしてくださっていましたし、自分自身もここまでナチュラルで人間味があるリアルな女の子は、実はそこまで演じてきていなかったんです。20歳くらいのときに、きっかけとなるキャラクターを演じたことはありましたが、いまこのキャリアでもう一度“素”の感じを出す、というのは久しぶりでした。
だからこそ、自分が大人になっていく過程の中でミトというキャラクターに挑戦できたのは、役者人生の中でも大きな財産になりました。改めて、等身大のキャラクターへのアプローチに自信が持てましたね。
―20歳頃だと、ちょうど初主演映画『心が叫びたがってるんだ。』(2016年)の時期ですね。この作品では、声が出せなくなったキャラクターという難役を演じられました。
そうですね。今回ミトというキャラクターは自分にとって新しかったのですが、新しく感じない部分もあり、それはなぜだろう? と思ったときに『ここさけ』の成瀬順もそうですが、私が演じてきたキャラクターって苦悩や葛藤がつきものなんです。今回、ミトへのシンパシーといいますか、「あなたを見ていると色々な感情が動くよ」と思えたのは、そういった経験を培ってきたからなんだと思います。
―最後の質問になりますが、<BANGER!!!>は国内外の実写映画を多く扱っているメディアです。『SAO』シリーズと併せて観ると面白そうな実写映画があれば、ぜひ教えてください。
同じような危機的状況という部分でいうと、私は『あなたの番です 劇場版』(2021年12月10日公開)をめちゃくちゃ楽しみにしているんです。テレビシリーズを追いかけていたので、今度はどうなるんだろう? と思って。サスペンス要素のある物語が好きなんですよね。
あとは、『マスカレード・ホテル』シリーズ(2019年/2021年)も小説から読んでいたので、良いかもしれません。こちらはホテルですし、『あなたの番です 劇場版』は豪華客船。一定の場所に閉じ込められた人たちの困惑といいますか、『SAO』にも通じる「その時、あなたはどんな選択をする?」みたいな投げかけに弱いので、わたしはその辺りのサスペンスと一緒にオススメしたいと思います。
取材・文:SYO
撮影:町田千秋
『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』は2021年10月30日(土)より全国公開
『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』
あの日、《ナーヴギア》を偶然被ってしまった《結城明日奈》は、本来ネットゲームとは無縁に生きる中学三年生の少女だった。
ゲームマスターは告げた。
《これはゲームであっても遊びではない。》
ゲームの中での死は、そのまま現実の死につながっている。
それを聞いた全プレイヤーが混乱し、ゲーム内は阿鼻叫喚が渦巻いた。
そのうちの一人であったアスナだが、彼女は世界のルールも分からないまま頂の見えない鋼鉄の浮遊城《アインクラッド》の攻略へと踏み出す。
死と隣り合わせの世界を生き抜く中で、アスナに訪れる運命的な《出会い》。そして、《別れ》――。
《目の前の現実》に翻弄されるが、懸命に戦う彼女の前に現れたのは、孤高の剣士・キリトだった――。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
声の出演: |
2021年10月30日(土)より全国公開