水瀬いのり 壮大な『SAO』サーガ参戦
川原礫によって2009年に生み出され、2012年にはTVアニメ化された『ソードアート・オンライン』(SAO)シリーズ。体感型ゲームの中に閉じ込められた人々の脱出劇を描き、世界各地で人気に火が付いた。
そんなSAOシリーズの新作が、ついに劇場公開を迎える。2017年の映画『劇場版 ソードアート・オンライン オーディナル・スケール』に続く第2弾、『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』(2021年10月30日公開)。こちらでは、メインキャラクターのアスナの過去が明かされると共に、様々な仕掛けが施された物語が展開する。
その中で新キャラクターのミトを任されたのが、デビュー10周年を越え、ますます勢いを増す水瀬いのり。伝統あるシリーズに初参加し、しかもアスナの過去に関わる重要キャラクターという重圧のなか、どうやって最高のパフォーマンスを発揮したのか。彼女の演技論と併せて、単独インタビューで紐解いていく。
ゲームの中で現実世界の生死が左右される衝撃
―2012年にスタートしたアニメ『ソードアート・オンライン』シリーズは、来年10周年を迎える人気シリーズです。参加する前は、どんなイメージを抱いていましたか?
10年前だと、私自身もまだ15歳で声優デビューしたての頃でした。最初は声優というよりも、いちアニメ好きの視点でシリーズに触れていました。学校でも流行っていましたし、アニメ好きなら『SAO』は知っているよね、という王道作品でした。作品としてはもちろん、LiSAさんが歌う楽曲、ひいてはアニソンという分野においても、日本のアニメ文化を海外に広げた話題作というイメージもありました。
―おっしゃる通り『SAO』シリーズは海外人気も高く、原作小説はシリーズ累計2600万部を突破しています。このシリーズが世界中を魅了する理由は、どこにあると思いますか?
楽しい娯楽であったり、癒しを求めるゲーム世界という場所に、自分の命がかかっているという設定を入れたことだと思います。当時の自分にとって、「ゲームの中での死が、自分の死に直結する」という緊迫感は強烈でした。ただ楽しいだけの、どんどん強くなってボスを倒そう! というものではなく、いつかやられるかもしれないという恐怖感、そのメッセージ性を植え付けられた思いがあります。
ワクワクして、どんなキャラメイクをしようという楽しいRPGの世界から一転して、生きること/死ぬことという命のかかったゲームになった瞬間の緊迫感は、山寺宏一さん演じるSAOの開発者・茅場晶彦が登場したシーンと共に、すごく頭の中に残っています。
―ということは、デジタルの中でリアルを経験するという感覚は本作が初めてだったのでしょうか。
そうですね。いわゆる現実世界での殺伐とした危機的状況を描いた物語は他の作品で体験していたのですが、ゲームの中でリアルな姿のまま、というものは『SAO』が初めてだった気がします。
おそらくこの衝撃は、全世界の文化や環境を問わず多くの人が感じたと思いますし、それもあって海外での人気も高いんだと思います。海外の皆さんにも馴染み深いゲームを題材にしながら、緊迫した命のやり取りを描く――。そんな部分が、『SAO』の唯一無二の魅力だと感じています。
顔合わせなし!? 緊張の中で迎えたアフレコ当日
―水瀬さんは過去にも『SAO』のオーディションを受けられたと伺いましたが、ご自身のデビュー時から続いているシリーズに参加が決まった際のお気持ちは、いかがでしたか?
ミト役に決まるまでに挑戦してきたキャラクターたちは、自分の実力不足であったり、ご縁がなくて演じる機会がなかったのですが、そもそもオーディションに参加できるチケットだけでも嬉しいというくらい、『SAO』は雲の上の存在でした。自分がミトというキャラクターに挑戦させていただける意義や価値を感じながらオーディションに臨んでいたので、その時点ですごく光栄で、まさか合格の知らせが来るなんて想像もしていませんでした。これは毎回そうなのですが、「この役は絶対に自分が獲る!」という意気込みはあまり強くなかったんです。
なので声をかけていただいたことが第一に嬉しかったのですが、いざ一報を受けると「本当に自分でいいのかな……」と悩んでしまったくらいです(笑)。今回はテープオーディションだったので、シリーズを引っ張ってきたスタッフの皆さんとの顔合わせは本番のアフレコ前までなくて、それが一番プレッシャーでした。
―それは緊張しますね……。
そうなんです。今回は事務所のマイクで、自分なりのミトを演じたものを提出して、それで合格したあとは「どういうキャラクターにしていこう」というディスカッションがないまま本番に突入したんです。テープオーディション用に演じたときから時間も経過していましたし、「どうしよう。でも、自分が演じたミトを良いと思ってくれたから合格できたんだ。それを信じるしかない!」と思いながら、本番の日を迎えました。
―となると、アフレコの中で色々と試していく形だったのでしょうか。
そうですね。すごく作り込むようなキャラクターではなかったので、いまの自分にできるミトへの向き合い方を選択した結果、OKをいただけました。ミトは一見ミステリアスに見えるけれど、内心はすごく分かりやすい子なので、その部分に助けられました。私が思ったミトを正解にしてくださったのは、すごくありがたかったです。
自分にとっては憧れの場所、でも役にとっては日常
―冒頭の「リアル」というお話に通じるかもしれませんが、ミトというキャラクターには、特に内面の葛藤といいますか、すごく生々しい部分がありますよね。本作を拝見した際に、水瀬さんの演技にも生っぽさを感じたのですが、意識されたことなのでしょうか。
そうですね、特別に意識していたというわけではないのですが、アスナを演じている戸松遥さんの声を聞いたときに、アスナとミトの距離感がわかったことが大きいと思います。まるで隣にいるように話しかけてくれるアスナ=戸松さんの声があったからこそ、ミトも弱い部分や脆い部分をさらけ出せて、おっしゃっていただいた“生っぽい演技”になったように感じています。先輩方に引っ張っていただいて、完成したキャラクターですね。
―戸松さんや松岡禎丞さん(キリト役)といったシリーズを引っ張ってきた先輩方とのセッションもまた、緊張しますよね。
本当にそうですね……。もう、まさにテレビで聴いていた声、観ていたキャラクターたちが自分の演じるキャラクターに触れあってくれて、私にとっては奇跡のような掛け合いでした。でもミトにとってはそれが当たり前なので、「これが普通なんだ。特別にしちゃいけない」と言い聞かせていました。“いつも通り”を意識すればするほど、後半の物語が動く瞬間にコントラストが生まれ、輝くと思って組み立てていきました。
【インタビュー後編は2021年10月30日公開】
取材・文:SYO
撮影:町田千秋
『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』は2021年10月30日(土)より全国公開
『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』
あの日、《ナーヴギア》を偶然被ってしまった《結城明日奈》は、本来ネットゲームとは無縁に生きる中学三年生の少女だった。
ゲームマスターは告げた。
《これはゲームであっても遊びではない。》
ゲームの中での死は、そのまま現実の死につながっている。
それを聞いた全プレイヤーが混乱し、ゲーム内は阿鼻叫喚が渦巻いた。
そのうちの一人であったアスナだが、彼女は世界のルールも分からないまま頂の見えない鋼鉄の浮遊城《アインクラッド》の攻略へと踏み出す。
死と隣り合わせの世界を生き抜く中で、アスナに訪れる運命的な《出会い》。そして、《別れ》――。
《目の前の現実》に翻弄されるが、懸命に戦う彼女の前に現れたのは、孤高の剣士・キリトだった――。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
声の出演: |
2021年10月30日(土)より全国公開