マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の「もしも……」のストーリーを描くDisney+(ディズニープラス)で配信中のアニメ『ホワット・イフ…?』。全9話中、執筆現在第7話まで配信中という段階なのだが、本当に見事で、豪華なシリーズだ。
「お話がおもしろい」「キャラクターがいい」みたいな感想も、もちろん湧いてくるのだが、何よりもまず、様々な角度からみて見事な企画である。サプライズたっぷりな作品なのでストーリーについては概要を語らず、そんな“企画としての魅力”を中心にこのシリーズを紹介しよう。
シリーズのあらすじは?
MCUで描かれてきた出来事に様々なきっかけで変化が生じ、違った展開が繰り広げられる1話完結のエピソードを集めたシリーズ。ヒーローが悪の道に進んだりすることもあれば、まったくの別人に置き換わっていたり、マーベルの世界にゾンビが大量発生したりもする、幅広い題材で異なる歴史を歩んだ「多元宇宙(マルチバース)」の世界を描く。
おなじみのキャラクターを使う冴えた構成
非常に簡単に説明すると、この『ホワット・イフ…?』は『世にも奇妙な物語』(1990年ほか)や『トワイライトゾーン/超次元の体験』(1983年)、『ブラック・ミラー』(2011年~)のような、ちょっと風変わりな物語を1話完結で展開していくアンソロジーシリーズであり、面白いけど映画丸々一本やるには無理がありそうな突飛なアイデアに満ちた作品。だからこそ、新鮮で興味を惹かれる物語となっている。
アンソロジーとして上手く作られており、各エピソードが似通った飽きの来るものにはなっておらず、全体を仕切るショウランナーとプロデューサー陣のバランス感覚と、やりたいことがはっきりわかる明確なビジョンを感じさせる。
また、ここ10年くらいかけて育ててきたMCUの既存のキャラクターと設定を使うことによって、キャラクターの紹介を極々最小限に抑える事ができ、30分という短めな時間で濃厚な話を見せている。多元宇宙という説明がやや面倒になるコンセプトも先行する映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)やドラマ『ロキ』(2021年~)で説明していることもあって、MCUファンにはすんなり入ってくるようになっており、本当に絶妙なタイミングで作られた作品だ。
そして登場するキャラクターの声も、そのキャラクターを演じてきた俳優が吹き替えていることも、ちゃんとMCUの延長線上にあることを感じさせるし、大きなファンサービスとして機能している。日本語吹き替え版も芸能人吹き替えだったものは別として、大部分で同じ声優が続投していいる。
一部、様々な事情で原語版の俳優が再演していないキャラクターはいるが、声質の似せ方が上手くその妙技に驚かされる。特にアイアンマン/トニー・スタークを演じているミック・ウィンガートは凄まじく、言われなければロバート・ダウニー・Jrにしか聞こえないはず。
また、今作はブラックパンサー/ティ・チャラを演じたチャドウィック・ボーズマンの遺作の一つとなっている。ちなみにブラックパンサーはシリーズを通じて何度も登場するキャラクターで、彼の素晴らしい声の演技を堪能できる。
実は、この『ホワット・イフ…?』は1977年からマーベル・コミックスが断続的に展開してきたコミックのシリーズ。アニメと同じく既存のキャラクター/設定をアレンジして独自の物語を展開している作品であり、このアニメで傍観者として「ウォッチャー」が登場するのもコミックから変わらないスタイルだ。
しかし、アニメはコミックからのストーリーの直接的な引用は、ゾンビのエピソード(こちらは「マーベル・ゾンビーズ」という別のシリーズ)を除いて基本的には行われておらず、映画ファンはもちろんコミックファンにも予測不能なサプライズが用意されているのも楽しいところだ。
ちなみにコミックは日本語版がShoProBooksから2冊展開されている。「ピーター・パーカーがパニッシャーになったら」などエッジの効いたアイデアが盛りだくさんなので、アニメが気に入ったらこちらも是非チェックしてみるといいだろう。
ハイクオリティなCGアニメ
MCUファンにサービスしながらも、わかりやすいけれど尖ったアイデアを見せて飽きさせないという構造的な魅力もさることながら、このシリーズで注目して欲しいもう一つのポイントはビジュアル面である。
トゥーンレンダリング(セルシェーディング:手書き風に見えるCG作画の手法)のスタイルで作られた3Dアニメで、映画そのままのシーンの再現などもたくさんあるので実写の雰囲気はしっかり維持しつつ、実写では成立しないであろうコミックらしい表現とディズニーのクラシックなアニメへのオマージュを両立させている。
おそらく、このあたりは監督として入っているブライアン・アンドリュースによる部分が大きいのだろう。彼は『パワーパフガールズ』(1998年ほか)や『サムライ ジャック』(2001年)などを手掛けたゲンディ・タルタコフスキーの元でストーリーボード(絵コンテ)・アーティストとして活躍した後、MCUでも『アベンジャーズ』(2012年)を始め様々な作品のストーリーボードを担当してきた人物。アニメも映画も知り尽くしていた人物だからこその今作なのだろう。
ライティングや色使いに加えて、MCUでの俳優の顔の特徴を見事にデフォルメさせているキャラクターデザインの塩梅が絶妙なのも見どころ。残念ながら、おそらく肖像権の契約的な都合で似せていないキャラクターも登場しており大人の事情を感じさせるが、それはともかく、グッとおもちゃが欲しくなる素敵なデザインだ(もちろんたくさん発売される予定)。
また、3Dキャラクターのモデルを1体作るにはかなりの予算がかかるはずだが、1つのエピソードしか登場しないようなキャラクターもしっかり作り込まれていて、それを9話もやっているあたり、なかなかに驚くレベルの予算がかかっているはず。
ストーリー/設定の素晴らしさもあるが、映像エンタメの頂点に君臨するディズニー/マーベルが本気で製作したリッチなアニメシリーズでの映像表現が観られるというところが、今作の大きな注目のポイントとなる。
2021年10月27日にはこのシリーズのメイキングも配信予定だが、個人的にはそこもかなり楽しみなところである。一体どうやって、この全方面で豪華な作品が生み出されたのか、気になってしょうがない!
今後の幅広い展開にも期待
本当に魅力的なアイデアの宝庫であり、「いますぐ続きを見せてよ!」なんてエピソードも多いのだが、どうやらシーズン2はすでに決定済みで、そもそもコロナ禍で制作が遅れた都合で本来シーズン1に入れる予定だったエピソードがシーズン2になっていたりする模様。
また、プロデューサーのうちの一人はメディアの取材の中で『ホワット・イフ…?』のキャラクターが実写シリーズに登場する可能性もゼロではないとしており、今後はMCUのメイン世界にも影響を与えていくものになるのかもしれない。まったく商売がうまいな!
『ホワット・イフ…?』の続きも楽しみだが、個人的には多元宇宙が広がるように、この作品を皮切りにマーベルの版権を使ったアニメがもっともっと展開されていくことに期待している(ちなみにすでにHuluでは制作発表済みの作品がいくつかあるが、こちらはMCUとのつながりはない様子)。
今作のように「もしも」の展開ではなく映画では描ききれなかった隙間のエピソードをアニメにするなんていうのも、ぜひやってほしいところだ。『Marvel デアデビル』(2015~2018年)から始まったNetflixのMCUドラマシリーズの続きも、いろいろな事情で実写が無理ならせめてアニメでやったりするのもいいのではないだろうか……。
と、話題が少しそれてしまったが、『ホワット・イフ…?』はディズニープラスで絶賛配信中。一体どんな最終回が用意されているのかも、本当に楽しみである。とにかくMCUファンなら見逃せない作品なのだが、各方面で凄まじく豪華な最新アニメシリーズでもあるので、その面でもぜひチェックして欲しい!
文:傭兵ペンギン
『ホワット・イフ…?』はディズニープラスで独占配信中
『ホワット・イフ…?』
もしもアベンジャーズたちに別の運命が待っていたとしたら……? 想像を超えた驚くべき”もうひとつ”の物語
制作年: | 2021 |
---|---|
監督: | |
声の出演: | |
吹替: |