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『竜とそばかすの姫』のココがスゴい! 細田守が若き才人たちと作り上げた集大成!! カンヌ映画祭出品

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ライター:#増田弘道
『竜とそばかすの姫』のココがスゴい! 細田守が若き才人たちと作り上げた集大成!! カンヌ映画祭出品
『竜とそばかすの姫』©2021 スタジオ地図

久々にすごい作品を見てしまった。2020-2021年は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を皮切りに、『漁港の肉子ちゃん』『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』『映画大好きポンポさん』といった記憶に残る作品が公開された。そして大本命『竜とそばかすの姫』へと続くのだが、この作品は2021年の劇場アニメの大豊作を決定づけるものとなった。

『竜とそばかすの姫』©2021 スタジオ地図

all about 細田守、all aboutアニメーション

筆者は『時をかける少女』(2006年)以来の細田守作品ウォッチャーである。公開直後に駆けつけた劇場が満席のため(ネット予約が出来なかった時代)、通路に座っての鑑賞となったのだが、熱気と興奮に包まれた雰囲気の中での『時かけ』との出会いは未だに忘れられない。当時の日記を読み返すと「高校生の日常生活が無理なく描かれている。キャラクターも魅力的。特に主人公の女の子が魅力的だった。アニメでこれだけ“人物を描ける”演出はないのでは」と書いてあるが、実はいい歳して初めてアニメのキャラクター(真琴)に萌えてしまったのである。

日記は「細田守の次回作に期待したい」と続くのだが、3年待った『サマーウォーズ』(2009年)は期待通りの快作で、興行収入が16.5億円へと跳ね上がった(『時かけ』2.6億円)。その後、2012年『おおかみこどもの雨と雪』では42.2億円、2015年『バケモノの子』58.5億円となり、このままどこまで行くのかと思われていたところが、2018年の『未来のミライ』では予想外の興収に終わった(28.8億円)。それもあって、細田ウォッチャーとしては次回作が嫌でも気になるところではあったが……。

しかし、その心配は全く杞憂に終わった。『竜とそばかすの姫』は間違いなく細田守のベスト盤であり、持てる全てを注ぎ込んだall about 細田守(細田守の全て)であり、all about アニメーション(アニメーションの全て)であった。最盛期のジブリに負けない興行収入を上げても少しも不思議ではない作品である。予想を(いい方向に)裏切るのは天才の常であるが、やはり「細田守おそるべし」である。

『竜とそばかすの姫』©2021 スタジオ地図

『竜とそばかすの姫』で目指したのは『七人の侍』か?

本作は、ネットという現代人に一番身近なテーマをファンタジー世界に仮託し、人間の生死という本質的な問題を根底に据えながら、音楽や恋愛、アクション、サスペンスの要素をユーモアや時に涙を交えて描いた一大エンタテーインメント作品である。”萌え”など「日本のアニメ」のお得意要素から、ディズニー的な芸術性までを包含したall aboutアニメーションなのだが、特筆すべきはその圧倒的な質量だ。日本映画でほとんど見られなくなった、このボリューム感。思い浮かんだのは『七人の侍』(1954年)である。

『竜とそばかすの姫』©2021 スタジオ地図

黒澤明はかつて『七人の侍』をつくろうとした時に「ステーキの上にうなぎのかば焼きを乗せ、カレーをぶち込んだような、観客がもう勘弁、腹いっぱいという映画を作ろうと思った」と述べているが、内容は全く異なるものの、この作品もまさに同様の意図が伝わってくるのだ。正しい例えではないかも知れないが、今ならばラーメンの「全部のせ」である。それも、最高級のスープ(ストーリー)と麺(映像)に吟味された具が全部のっかっているとでも言えばいいだろうか。お腹いっぱいになるが、決してもたれることはなく、またすぐに欲しくなること請け合いの作品なのである。

『竜とそばかすの姫』©2021 スタジオ地図

最高峰のスタッフを集め、進化する細田守

『未来のミライ』の興行成績は伸びなかったものの、それが即ち作品の評価ではない。その証拠にこの作品は第91回アカデミー賞にノミネートされている。実は日本からアカデミー賞にノミネートされた7作の内、6作はジブリ作品で、残る1作が『未来のミライ』なのである。これは細田作品が日本の「アニメ」を超えて、映画として認められたということなのだ。『未来のミライ』を貫く「家族」という極めて普遍的なテーマを選択したのは、細田守の挑戦であり、進化を目指す作家の証であった。

『竜とそばかすの姫』©2021 スタジオ地図

そんな細田の今回の試みには驚いた。青山浩行 (作画監督)、山下高明 (CG作画監督)、堀部亮(CGディレクター)といった常連の重鎮を核に据えながら、他ジャンルの新しい才能に対する見識と大胆な起用。常田大希(millennium parade)が作詞・作曲した主題歌を唄う中村佳穂を、全くの素人ながら主人公すずとBelleの声に起用。

仮想世界“U”のキーとなるデザインにはロンドン在住の建築家エリック・ウォン、Belleのキャラクターデザインにはディズニー・アニメーション・スタジオで『塔の上のラプンツェル』(2010年)『アナと雪の女王』(2013年)を手がけたジン・キムが、竜は新進気鋭の秋屋蜻一(あきやかげいち)、クジラはあのスクエアエニックスの「ファイナルファンタジー」シリーズのアートディレクターである上国料勇(かみこくりょう いさむ)が担当するという贅沢。

『竜とそばかすの姫』©2021 スタジオ地図

また、アニメーションでは異例の衣装担当に伊賀大介、森永邦彦、篠崎恵美(フラワークリエイター)といったファッション界のトップがクレジットに名前を連ねている。さらには、音楽面でも常田大希はもちろんのこと、小島秀夫のゲーム楽曲を担当していたルートヴィヒ・フォルセル、米津玄師のアレンジで知られる坂東祐大などを抜擢。細田守ほどのキャリアがあればメンバーも固定されがちなところを、敢えて現時点で最高の才能たちと取り組もうとするその姿勢に驚かされる。トップクリエーターとのコラボは一歩間違えば大きなリスクが伴うものだが、それを乗り越えての起用は、最高の作品を目指す細田守にとっては当然のこと。やはり彼は進化し続けているのだ。

『竜とそばかすの姫』©2021 スタジオ地図

作家としての細田守、職人としての細田守

毎回新しいテーマに挑戦し 実現させていく才能と力量を持っている監督は、世界的に見てもジェームズ・キャメロン、クリストファー・ノーランなどがいるが、細田守もそのレベルにあると言っても差し支えないだろう。しかしながら細田守がすごいのは、作家性と同時に日本のアニメ人が持つ律儀な職人性も持ち合わせていることだ。

『竜とそばかすの姫』©2021 スタジオ地図

彼の制作年譜を見ると気がつくが、2006年の『時かけ』から3年に1作というローテーションを完璧に守り通している。オリジナル作品を3年に1作というペースを持続させていること自体が驚異的なことだが、世界中を見てもこんな監督はほとんどいない。その意味でも、ディズニーやピクサーが配信メインとなった現在、『竜とそばかすの姫』はアカデミー賞に一番近い存在である。

『竜とそばかすの姫』©2021 スタジオ地図

第74回カンヌ映画祭「カンヌ・プルミエール」部門に選出された本作は、現地にて2021年7月15日(木)にワールドプレミア上映。いまや日本を代表する映画監督となった細田守が、今後もこのペースで実績を積めば、間違いなく歴史に名前を刻む存在になるはずだ。

文:増田弘道

『竜とそばかすの姫』は2021年7月16日(金)より全国公開

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『竜とそばかすの姫』

自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・内藤鈴(すず)は、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。

曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。<U>では、「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。

数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。

<U>の秩序を乱すものとして、正義を名乗るAsたちは竜を執拗に追いかけ始める。<U>と現実世界の双方で誹謗中傷があふれ、竜を二つの世界から排除しようという動きが加速する中、ベルは竜を探し出しその心を救いたいと願うが――。

制作年: 2021
監督:
脚本:
音楽:
声の出演: