映画『タイタニック』とアニメ『銀河鉄道の夜』の共通点とは？ 宮沢賢治の創作心を刺激した巨大客船沈没事故

実話をもとにした悲恋の物語『タイタニック』
【アッチ（実写）もコッチ（アニメ）も】

1912年4月10日、豪華客船タイタニック号がイギリスのサウサンプトン港から出港した。目的地はアメリカ・ニューヨーク。4日後の14日23時40分、タイタニック号は氷山と衝突し、致命的なダメージを受ける。そして衝突から2時間40分後の15日2時20分、沈没。これにより同船に乗っていた2200人余りのうち1513人が亡くなった。これは1912年時点で史上最悪の海難事故であった。

映画『タイタニック』（1997年）はタイトルの通り、この稀にみる悲劇に題をとった映画だ。タイタニック号の出航から沈没までを追いかけつつ、貴族のローズと貧しい青年ジャックの身分違いのラブストーリーを展開していく。巨大なセットを作り、さらに実用段階に到達しつつあった3DCGを組み合わせることで、スケールの大きなビジュアルを作り上げた本作は、直球のロマンスとインパクトのあるスペクタクルが融合した作品として大ヒットを記録した。

『タイタニック』
ブルーレイ＜2枚組＞発売中／デジタル配信中
©2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
発売：ウォルト・ディズニー・ジャパン

いま改めて見ると、本作に描かれている「女性の解放」や「コントロールを逸脱した巨大なメカニズムの恐怖」といった要素は、その後の世界各地で起きる様々な出来事の象徴のようでもある。そう考えると、本作は20世紀の終わりに、20世紀とはどういう時代だったかを圧縮して語ってみせた映画であると解釈することもできる。

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劇中の会話、賛美歌306番……『銀河鉄道の夜』との共通点

このタイタニック号沈没事故を作品に取り込んだのが、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」である。「銀河鉄道の夜」の執筆開始は1924年ごろといわれているから、賢治は報道などでタイタニックのことを知り、それを10年後に作品に組み込んだのだろう。

ケンタウル祭の夜、丘の上にひとりで佇んでいた少年ジョバンニは、突如姿を現した銀河鉄道に乗り、友達のカムパネルラとともに旅に出ることになる。この銀河鉄道に途中から家庭教師の青年と姉弟という3人連れが乗ってくる。

家庭教師はどこからやってきたかをジョバンニたちに語る。その話は「氷山にぶっつかって船が沈みましてね」というところから始まるのである。「氷山にぶつかった」という時点でタイタニック号を踏まえているらしいことがわかるが、作中にはもうひとつ『タイタニック』を思わせる描写がある。

それが「どこからともなく〔約二字分空白〕番の声があがりました。たちまちみんなはいろいろな国語で一ぺんにそれをうたいました。」というくだりだ。最終稿ではここで歌った歌詞はカットされている。しかし推敲の過程をたどると、「主よみもとに近づかん」という言葉が書かれていたバージョンがあることがわかる。これは賛美歌306番（現在は320番）の歌詞だ。そして、この曲は沈みゆくタイタニック号で楽団が最後まで演奏していた曲としても知られている。

この曲が実際に演奏されていたかどうかは疑わしいというのが事実のようだが、映画『タイタニック』にもこの曲を演奏するシーンがあり、その音楽とともに“最後の時間”を過ごす人たちの様子が描き出される。もちろんアニメ映画『銀河鉄道の夜』（1985年）では、家庭教師が沈没する船の様子を語るシーンのバックで、この賛美歌306番が流れている。

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『タイタニック』と『銀河鉄道の夜』は遠い親戚関係にある？

実はアニメ映画『銀河鉄道の夜』では、原作にない部分でも“タイタニック”に軽く触れている場所がある。それは序盤の活版所のシーン。父親が不在のジョバンニは、生活を支えるために活版所で働いている。その活版所で印刷しているものに、大型客船の写真が乗っているのである。煙突が4本立ち並んでいるから、タイタニック号を念頭においているのは間違いないのだろう。

この時、ジョバンニにとって“タイタニック”の存在は遠い場所での出来事だった。それが銀河鉄道に乗ったことで、ジョバンニはこの悲劇とも縁が結ばれることになる。

タイタニックというキーワードだけで『タイタニック』と『銀河鉄道の夜』を繋いでみたが、こうして並べてみるとこの2作品は、そうした表層だけでない共通点があることに気付かされる。ネタバレを避けてポイントだけ記すと、それはどちらも「自己犠牲の精神」と「残されたものの思い」が映画の背骨をなしているのだ。『タイタニック』はそれをタイタニック沈没事故そのものを通じて描き、『銀河鉄道の夜』はそれを伏線として主題をくっきりと浮かび上がらせた。そう考えると『タイタニック』と『銀河鉄道の夜』の2本が、遠い親戚関係にあるように思えてくる。

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文：藤津亮太

『タイタニック』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年1月放送