想像でしか見ることができなかった光景が、質量を持って、慣性を伴って、目の前に広がる――。2020年、僕たちは想像力が現実に追い抜かれる瞬間を見せつけられた。映画やアニメの中でしか想像できなかったような非日常が、我が物顔で日常に居座った。
そんな2020年の最後に、横浜の一角でまた新しい現実が、想像を追い抜く。でも、こんな追い抜かれ方なら、大歓迎じゃないか。
「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」のために建造されたガンダム
駅からの道中、港の景色の中に「それ」が見えてくる。想像を絶する巨大さで、まるで突然に召喚されて地上世界に迷い込んでしまったような違和感を持って、それはポツンと立っている。設定の全高18.0メートルそのままに建造された“ガンダム”だ。
2014年の計画発表から6年、ついにお披露目されたガンダムは「RX78 F00」の型式番号を与えられ、従来のガンダムよりもさらに情報密度の濃いスタイルへと進化。あくまで「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」のために建造された、パラレルなガンダムという設定だ。
こちらは、ガンダムの肘や膝の関節部分に使われているメンテナンスハッチの実物大。ガンダムの大きさが想像できるだろう。GUNDAM-DOCK TOWERからは、ガンダムを至近距離から見ることができる。この大きさでも、イメージからまったく破綻することない建造技術に驚愕させられる。バックパックなど、ここからしか見られない箇所も多い。
「ガンダムが動くと、人類ってこんなに感動するんだ……」
さてこのガンダム、起動実験という設定のもと、一定時間ごとに音と光の演出が始まり、動き出す。その一部の映像がこちら
ガンダム、大地に立つ#ガンダムファクトリー横浜 pic.twitter.com/kUnaCGmdFr
— タカハシヒョウリ/髙橋表裏 (@TakahashiHyouri) November 30, 2020
動くガンダム、体験としてのインパクトは壮絶なものだった。この映像だけでは伝わらない、質量の暴力。こんなデカイものが飛び回ったら、足元の僕たちも、乗っているパイロットも、速攻死ぬ……という実感。
ビグロに捕まらなくても、カタパルトから射出されただけで一発気絶、着地の瞬間に即死であろう。演出も素晴らしく、BGM「ガンダム大地に立つ」が鳴り響く中、ガンダムがその一歩を踏み出した瞬間、「ガンダムが動くと、人類ってこんなに感動するんだ……」というくらいの感動が走った。
夜間出撃#ガンダムファクトリー横浜 pic.twitter.com/gWE8oNlafb
— タカハシヒョウリ/髙橋表裏 (@TakahashiHyouri) December 1, 2020
このガンダム、オープンな空間で現実の風景の中に溶け込んでいるのがポイントで、昼、夕景、夜と違った顔を見せてくれる。ロボットというのは、キャラクターであると同時に、風景の一部「建造物」なんだと再認識させられる。
施設内には、開発の過程を追体験したり、コクピットからの眺めをVR体験できる「GUNDAM-LAB」内のACADEMYや、「GUNDAM Café」、グッズストアの「GUNDAM BASE」も完備。
「戦争は数だよ、兄貴」 RX78-F00商品の圧倒的物量に酔いしれろ!
富野監督からのメッセージ「来てくれてありがとう。ごめんなさいと言わせてください。」
そして出口の一角。ここに掲げられている富野由悠季監督からのメッセージは、「来てくれてありがとう。ごめんなさいと言わせてください。」という一文から始まる。
何故、このガンダムは片足で自立できなかったのか、なぜアニメのように素早く動けないのか。そんな、大人なら「そりゃ仕方ないよね」で飲み込む暗黙の了解に、富野監督は真摯に答える。今の技術では「こんなもの」が限界なんだと謝罪する。そして、そこから“先”を見る者に託してくる。つまり、私たちだ。
その瞬間、ただの傍観者、観客として客席の片隅に座っていた僕たちは、あっという間に引きずり出されてしまう。その時、はじめて動くガンダムは、僕たちの”現実”という大地に立つ。
個人的に、動くガンダムを見て、この富野監督からのメッセージを読むところまでが「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」の楽しみ方なんだと感じたので、ぜひ全文を読んでほしい。
演出の最後、ガンダムが出撃する瞬間に流れる音楽は「ビギニング」。ここは、まだ“ビギニング”の地点なのだ。
取材・文:タカハシヒョウリ
「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」は2020年12月19日(土)より横浜・山下ふ頭にて開催