純中国産アニメ『羅小黒戦記』大規模上映!
2020年11月7日(土)から中国のファンタジーアニメーション『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』が全国135館で公開される。アニメーションとしてはもちろん、中国映画としても最大規模での上映である。過去日本で中国をテーマとして大ヒットした作品は、古くは『燃えよドラゴン』(1973年)や『少林寺』(1982年)、『敦煌』(1988年)、2000年代では『HERO』(2002年)、最近では『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』(2018年)などがあるが、そのほとんどが日中合作や香港作品であった。
その意味で純中国産の『羅小黒戦記』が、これだけの規模で上映されるのは画期的なことである。しかも、去年の夏に中国で公開され、一ヶ国の興行収入としては米ディズニー『インクレディブル・ファミリー』(2018年)の669億円を上回る、空前の800億円という興行収入を上げたメガヒットアニメーション『ナタ~魔童降臨~(哪吒之魔童降世)』(2019年)を差し置いての公開である。
https://www.youtube.com/watch?v=weANxzZDmTQ&feature=emb_title
そこで、なぜ日本ではほとんど無名の『羅小黒戦記』という作品が大規模な公開を果たせたのか、その意味合いについて探っていきたい。
『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』へ至る中国アニメーションの道
筆者が中国に通いはじめたのは、北京オリンピック翌年の2009年からであった。北京大学や精華大学などトップレベルの大学に日本のマンガ、アニメ、ゲームに興味を持つ数百人規模のサークルがあると聞いていたが、その時点で中国のアニメーションで面白いと感じられるものはほとんどなかった。と言うのも、中国には基本キッズ・ファミリー向けしかなく、日本の深夜アニメのような多彩なジャンル、起伏に富んだ展開の作品がなかったからであろう(まあ、中国に限らずほとんどの国がそういった状態ではあったのだが)。青年層向けにはわずかに『秦時明月』(2007年~)という武侠CGアニメーション番組があった程度で(ゲームっぽい動きに馴染めなかったが)、その後も上の年齢層に向けたジャンルの進展が見られなかった。
そんな状況下、2015年になって中国アニメーション史上断トツの興行収入153億円を上げ大ヒットとなったCGアクション作品『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』(ティアン・シャオパン監督)がリリースされ、大人も見られるハイクオリティ作品が誕生した。
その翌年には、ジブリを彷彿させるスケールの2Dファンタジー『紅き大魚の伝説』(リャン・シュエン、チャン・チュン共同監督、日本語監修:宮崎吾郎)が92.6億円という興行収入を上げヒット。この頃から日本のアニメの影響を大いに受けた80后(1980年代生まれという意味)監督が現れはじめ、WEBを中心としてオトナアニメがさかんにつくられるようになった。
そして、WEBで評判となった作品が映画になるというパターンが生まれ、2017年には劇場版『十萬個冷笑話2』が成功したこともあり、同様のパターンで『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』が製作されたのである。
中国若手声優の実力に驚き!? 宮野真守と櫻井孝宏が日本版声優を務めたワケ
実は、この『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』は2019年、在日中国人に向けて自主公開されていたのである。中国人留学生の間ではすでに大きな話題になっており、東京一館での公開ということもあって全回満席の状況であったが、中国のアニメファンの間で話題になっていると聞いていたので、何とかチケットを手に入れて見ることができた。
そして、作品を見てハッとしたのは声優が素晴らしいということであった。中国語がわからないにもかかわらず、なぜかクールでイケてると思えたのである(中国では東北地方の訛りがあるなどと指摘されていたそうだが)。声優方面に特に興味があるわけでもなく、普段からその出来不出来が作品の評価基準にならないのだが、無限(ムゲン)と風息(フーシー)の声に惹かれたのには自分でも驚いた。
それぞれSlayerboomこと郝祥海(1986年生まれ)、劉明月(1990年生まれ)という中国の若手声優が担当しており、日本のトップクラス声優に匹敵する実力があると思っていたら、何と日本版では彼らの役を宮野真守と櫻井孝宏が担当すると聞いて二度ビックリ。
💨好きなシーンは?
— 『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』Blu-ray&DVD 好評発売中 (@heicat_movie_jp) October 29, 2020
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ムゲン役の #宮野真守 さんに
劇中の好きなシーンを聞いてみました🐾#ロシャオヘイセンキ #羅小黒戦記 🐈 pic.twitter.com/zwvcdhRLdK
おそらく、郝祥海と劉明月の声を聴いた音響のプロが、これに見合うのは宮野、櫻井クラスであると判断したからであろう。機会があれば是非、中国語版も見て確かめて欲しい。
#羅小黒戦記豆知識
— 『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』Blu-ray&DVD 好評発売中 (@heicat_movie_jp) October 23, 2019
ついに、无限(ムゲン)様の声優「劉明月」の番になりました。
主な出演作品:
「スピリットパクト」——端木熙(主)
「TO BE HEROINE」——梁超
「仮面ライダージオウ」中国語版——明光院ゲイツ / 仮面ライダーゲイツ
ラジオドラマ「魔道祖师」——金子轩など#羅小黒戦記 pic.twitter.com/cbW0eqgYrM
日本のアニメファンに通じる共通言語と映像~『羅小黒戦記』の持つ意味
『羅小黒戦記』は、植物の精霊である風息(フーシー)が猫の妖精(森の精霊)である小黒(シャオヘイ)を救ったことから、人間でありながら強大な能力を持つ執行人・無限(ムゲン)戦うことになるというファンタジー作品だ。もともとは2011年から木頭ことMTJJというクリエーターがWEBではじめたフラッシュアニメだが、人気の高まりとともに2019年に劇場版が製作され、興行収入3.1億人民元(48億円)というスマッシュヒットとなった。
では、興行収入では羅小黒を上回っていた『ナタ』や『白蛇伝説~ホワイト・スネーク~』(2011年)ではなく、なぜこの作品が日本で選ばれたのか。それは、この作品が「アニメーション」ではなく、日本独自の文法を持つ「アニメ」だったからであろう。日本のアニメファンに通じる共通言語/映像がそこにあることを、『Fate』シリーズ(2011年~)や『鬼滅の刃』(2019年~)をプロデュースしたアニプレックスは見逃さなかったようだ。
おそらく、愛らしい小黒(シャオヘイ)をはじめとした風息、無限といったキャラクターは日本でも支持されるようになるだろう。その意味で『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』は日本における、中国初の「アニメ」なのである。
文:増田弘道
『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』は2020年11月7日(土)より全国公開
『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』
人間たちの自然破壊により、多くの妖精たちが居場所を失っていた。森が開発され、居場所を失った黒ネコの妖精シャオヘイ。そこに手を差し伸べたのは同じ妖精のフーシーだった。フーシーはシャオヘイを仲間に加え、住処である人里から遠く離れた島へと案内する。
その島に、人間でありながら最強の執行人ムゲンが現れる。フーシーたちの不穏な動きを察知し、捕えにきたのだ。戦いの中、シャオヘイはムゲンに捕まってしまう。なんとか逃れたフーシーたちはシャオヘイの奪還を誓い、かねてから計画していた「ある作戦」を始める。一方、ムゲンはシャオヘイとともに、人と共存する妖精たちが暮らす会館を目指す。シャオヘイは、新たな居場所を見つけることができるのか。そして、人と妖精の未来は、果たして――
制作年: | 2019 |
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監督: | |
声の出演: |
2020年11月7日(土)より全国公開