人生を奪われた老兵が身を賭して再びヒーローとなる『インデペンデンス・デイ』
【アッチ(実写)もコッチ(アニメ)も】
『インデペンデンス・デイ』(1996年)という映画は、ほらふき男爵のほら話みたいにおもしろいので、「またまたぁ!」とか「おいおい!」とか「よっ、大統領!」などと合いの手を入れながら見ると大変楽しい。ただ、その中でつい真顔になってしまったのは、主要人物のひとりであるラッセル・ケイス(演:ランディ・クエイド)の顛末を見た時だった。
ラッセルは、ベトナム戦争に参加した元パイロット。初老になった現在は小型飛行機で農薬散布を行う仕事についているが、昼間から酒浸りになるような冴えない人生を過ごしている。彼の人生の歯車が狂った一因は、10年前に“アブダクション”に遭ったことだ。
アブダクションとは“宇宙人による誘拐”で、『インデペンデンス・デイ』は、そういう宇宙人にまつわる都市伝説(例えばエリア51に墜落したUFOが運び込まれている、とか)を全部、あえて“事実”として表現しているところがおもしろ味なのだが、ラッセル自身の人生そのものは“おもしろ味”とは言っていられない。
ひとことで言うと、彼は本来あるべき人生を宇宙人に奪われた人間として登場する。だから、クライマックスの宇宙人との大戦闘に老兵として(呼ばれもしないのに)参加するのは、自分の手で「国のために戦った英雄」としての人生を取り戻すという意味合いを帯びている。ルーザー(負け犬)が自分の力でヒーローになる。そんな、いかにもハリウッド的なストーリーを生きているのがラッセルという人物なのだ。
ヒャッハーなエンタメ大作の中に組み込まれた“愁嘆場”に思わず真顔
では、彼はどういう手段でヒーローになったのか。それは“特攻”である。友軍機がミサイルを撃ち尽くす中、発射装置の故障でミサイルを抱えたラッセル機。彼は、そのままエイリアンの宇宙船の主砲へと突っ込んでいくのだ。自分の人生を取り戻すために命をなげうつことになるという、通俗的だからこそ劇的な構図が映画を大いに盛り上げる。
ここでつい真顔になってしまったのは、いかにもなハリウッド流の作劇の中に、ひと昔前の邦画のような愁嘆場が組み込まれてしまっていたからだ。「こういうの、またアリになったの?」と。
一定の世代にとって、いろんな意味で圧倒的な存在感を放っているアニメ映画に『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978年)がある。1977年に公開されて大ヒットした映画『宇宙戦艦ヤマト <劇場版>』の続編だが、前作が戦争ものと冒険ものの間ぐらいの立ち位置だったとすると、本作は完全に戦争もの。それも、決死の戦いと愁嘆場だけでできていて、そういう意味で大変盛り上がる映画であるということは断言できる。実際、再見すると2時間を超える上映時間の大半が戦闘シーンであることに驚かされる。
大ヒットを記録した劇場版アニメの続編『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』
新たに現れた侵略者・白色彗星帝国に対し単身戦いを挑むヤマト。彗星に偽装したガスを消し去り、その中から出てきた小惑星を改造した要塞都市(都市帝国)をなんとか破壊し、ヤマトは満身創痍になりながらも勝ちを収めたかに見えた。ところが今度は、都市帝国の中から超巨大戦艦が現れる。もはや戦う手段の残っていないヤマトになすすべはない。
その時、苦悩する主人公・古代進に、前作のラストで死去したヤマト艦長・沖田十三がイメージの中で語りかける。そこで沖田が説くのは、命は武器であり、命を賭した時、不可能が可能になる、という哲学だ。この啓示を受けた古代は、生存者に「生きて明日の地球を作ってくれ」と未来を託しつつ、こう語る。
「命というのは、たかが何十年の寿命で終わってしまうような、ちっぽけなものじゃないはずだ。この宇宙いっぱいに広がって、永遠に続くものじゃないのか? 俺はこれからそういう命に、自分の命を換えに行くんだ。これは死ではない!」
古代はこの決意のもと、既に死んでしまった婚約者・森雪を抱きかかえ、宇宙の平和を願う女神・テレサとともに超巨大戦艦へ向かってヤマトで突っ込んでいく。
名誉や未来のために「命を捧げる」行為に宿る抗いがたい魔力
このあたりは「特攻隊映画の系譜学」(2017年:岩波書店/中村秀之 著)で指摘された“特攻隊映画”の典型的ラストシーンと見事に重なっていて、これが強靭な大衆性の源にもなっていることがよくわかる。実際『さらば~』は、1989年に『魔女の宅急便』が追い抜くまで、もっともヒットしたアニメ映画だった。
その後、フマジメなことがカッコいい80年代を経過して、こういう愁嘆場が持つ大衆性はダサいというのが当たり前……という時期がそこそこ続いたようにも見えていたが、20世紀も末になって『インデペンデンス・デイ』がやってきたのである。何か大きな価値(名誉とか未来)に対して「命を捧げる」という展開は、それほどまでに魔力があるのか。
そういう意味で『インデペンデンス・デイ』は、洋の東西を超えて、UFOネタとともに「忘れ物を届けにきた」ような映画でもあったのだ。
文:藤津亮太
『インデペンデンス・デイ』
7月2日。世界各地の上空に巨大宇宙船が出現。混乱の中、ホイットモア大統領率いる米国政府は宇宙人との交信を試みる。コンピュータ技師デイビッドは、宇宙船が発する信号が攻撃へのカウントダウンだと気付くが、時すでに遅く、宇宙船からの怪光線で世界中の大都市が壊滅してしまう。
制作年: | 1996 |
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監督: | |
出演: |
Huluで配信中(2020年3月23日時点)