第32回東京国際映画祭の特別招待作品に選ばれた『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』特別先行版のワールドプレミアが2019年11月4日(月)に行われた。上映後には片渕須直監督と、のん、岩井七世、そして音楽・主題歌を手がけたコトリンゴが舞台挨拶に登壇した。
完成版は劇場公開までおあずけ!?「これから帰って作業なんです」
先日のレッドカーペットで「まだ出来上がっていません」と発言し会場を驚かせた片渕監督だったが、本編上映後の舞台挨拶でも「実はまだ途中でして、あと数分長くなります。これから帰ったら作業なんです」と申し訳なさそうに衝撃の事実を告白。どよめく会場に「すずさんの人生を、この映画を通じて感じていただけたら」と、劇場公開時にはさらにシーンが追加されることを予告した。
第二次大戦下の広島を舞台に、軍港の街・呉へ嫁ぐことになった浦野すず(のん)が、徐々に狂っていく世界の中で懸命に普通の生活を続ける等身大の姿を描き、国内外で大きな反響を呼んだ『この世界の片隅に』(2016年)。本作は、こうの史代の原作漫画を映画化するにあたってカットされた、遊郭で出会った白木リン(岩井七世)との交流を描いたエピソードなど、250カットを超える新たなシーンを追加して、より深くキャラクターの陰影を掘り下げている。前作を観ている人であっても、これまで目にしたシーンや人物像に違った印象を抱くことだろう。
「皮膚感が蘇ってきました」のんが緊張しつつ挑んだ、3年ぶりの“すずさん”
3年ぶりにすずを演じたのんは「期間を置いてから同じ役に挑むということがはじめての経験だったので、すごく緊張しました。何度も前作を観なおしたり、原作を読み返して、新しいシーンをどう解釈をしようか構築していくうちに、すずさんの皮膚感が蘇ってきました」と振り返った。
岩井も「呉に行ったり、前作をいろんな映画館に10回ぐらい観に行ったりしました。私自身とてもこの作品のファンで、新しく追加されるシーンをすごく楽しみにしていたので、とても緊張しました」と告白。
本作のために新たに4曲を書き下ろしたコトリンゴは「今回はすずさんの世界にリンさんも大きく関わっていて、夫の周作さんも絡んでくる。なので、前作で作っていたそれぞれの登場人物の音楽を発展させる形で、自然に新しいシーンがつながっていけばいいなと思って作りました」と、音楽に込めた意図を解説。再収録したエンディング曲の「たんぽぽ」については「イメージはそんなに変えたくなかったけど、これで完結ということで、その名残惜しい重厚感を出したくてアレンジを豪華にしています」とコメントした。
すずさんの“さらにいくつもの”人生を描いた片渕監督&のん
前作との違いについて質問を受けた片渕監督は「『この世界の片隅に』はどちらかというと、すずさんと義理の姉の径子さん(尾身美詞)の二人の葛藤、二人の関係がどう変わっていくかで、すずさんという人の進んでいく道を示していたんですが、今回はもっと複雑になっています。人間はそんな簡単なものではなくて、もっとたくさんの物や人に出会って、たくさん苛まれて、でも生きていかなければいけないわけです」と語り、「前作で描かれていたいろんなシーン、いろんな表情、いろんな台詞も、新しい場面を加えたことで、すずさんは本当はこんなことを心の中に抱いていたのかもしれない、あんなふうに思いながらしゃべっていたのかもしれない、と思い描いていただけるのではないかと思います。よりすずさんの人格、存在が多面的になっていると思います」と見どころを紹介した。
本作で、すずは偶然知り合ったリンと心を通わせる中で、夫・周作とリンの過去について触れることになってしまう。より深く感情の機微を演じることとなったのんは「すごく複雑な気持ちだなと思いました。リンさんがすずさんの中でこんなに大きい存在なんだと感じるシーンがたくさんあって。リンさんは、すずさんが呉の知らない家族に嫁入りして、お嫁さんの義務を果たすことで自分の居場所を見つけようと過ごす中で、はじめてすずさんに“絵を描いてほしい”と言ってくれた人なんです。自分の中にあるものを認めてもらえた、それを心の拠り所にしてたんじゃないかなと思うんです。その中で周作さんとの秘密が明らかになって、すずさんがどこに感情を置けばいいのか戸惑っている気がして、いろんな感情が入れ替わり立ち代わり出てくる、その複雑な部分が難しいなと思いました」と当時の心境を明かしながらも、「でも、監督に演出をしていただきながら、“こういうことか”と気付けた部分があって、再び挑めることができてよかったなと思います」と笑顔で振り返った。
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は2019年12月20日(金)よりテアトル新宿・ユーロスペースほか全国公開
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
1944(昭和19)年2月、すずは日本海軍の一大拠点、軍港の街・呉へとお嫁にやって来る。優しい夫の両親、厳しい義姉、かわいらしい姪、個性的なご近所さんに囲まれて見知らぬ土地でのすずの日々が始まった。ある日、迷い込んだ遊郭でリンと出会う。境遇は異なるが呉で初めて出会った同世代の女性と心通わせていくすずだったが、夫とリンとのつながりを感じてしまう。1945(昭和20)年3月。呉は、大規模な空襲にさらされ、すずが大切にしていたものが失われていく。そして、昭和20年の夏がやってくる……。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
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2019年12月20日(金)よりテアトル新宿・ユーロスペースほか全国公開