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映画『きみの色』山田尚子監督&牛尾憲輔がディープな音楽遍歴をぶちまける〈相互リスペクト〉インタビュー

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ライター:#遠藤京子
映画『きみの色』山田尚子監督&牛尾憲輔がディープな音楽遍歴をぶちまける〈相互リスペクト〉インタビュー
©2024「きみの色」製作委員会
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映画『きみの色』 監督・山田尚子×音楽・牛尾憲輔

8月30日(金)より全国公開となる映画『きみの色』は、『けいおん!』や「平家物語」で素晴らしい演奏シーンを描いてきた山田尚子監督の最新作。全寮制の学校に通う高校生のトツ子が、高校を辞めてしまったギター少女のきみと再会し、きみがアルバイトをする古書店で出会ったルイとバンドを結成する物語。音楽をつくる過程で、天真爛漫なトツ子、保護者に屈託があるきみとルイが、それぞれ成長していく姿を描く。

©2024「きみの色」製作委員会

そんな本作の音楽制作には、どんな舞台裏があったのか。山田尚子監督と音楽監督の牛尾憲輔さんに聞いた。山田監督と牛尾さんの呼吸の合ったやり取りに笑わされつつ、お互いへのリスペクトが垣間見えるインタビューとなった。

牛尾「学生のお小遣いで買えるのは、どんな楽器なのか」

―『きみの色』、とてもチャーミングな作品で楽しく拝見しました。やはり演奏の描写が素晴らしいですね。きみちゃんがリッケンバッカーのギター、ルイくんがテルミンを弾いていますが、工場での大量生産品よりも職人さんが1台1台作っているクラフトマンシップのような価値観を重視されて、これらの楽器を選ばれたんでしょうか?

山田尚子監督(以下、山田):そうです……って言えたらかっこいいですよね。そういうことにしておきましょうか(笑)。本当は一目惚れなんです。リッケンバッカーは知り合いの方が使っているギターだったんですが、すごくきみちゃんに合うなって。でもやっぱりギターってそういうところから選ぶのもいいよね、というか「見た目がかっこいい!」から憧れが始まったりしますし、あまり堅苦しく難しく考えずに感覚で選びました。きみのお兄ちゃんが使っていたギターという設定で、彼がすごくこだわって手に入れたギターなんです。

©2024「きみの色」製作委員会

―あるいはモデルとしてイメージしたミュージシャンの方が誰かいるのかなとも思いました。

山田:きみちゃんは“自分”があまりない子という感じなので、お兄ちゃんの影を追っている、みたいな感じにできるといいなと思ったんです。むしろノープランというか、ミュージシャンのモデルとして“誰々を目指そう”みたいなものは設定していないですね。今回は、ただ彼女がどういうふうに演奏して、それをどう見せていくか、ということだけを真剣に考えた感じです。

―キャラクター造形には牛尾さんのご意見も反映されたりしたんでしょうか?

牛尾憲輔(以下、牛尾):どちらかというとルイくんの設定で、どんな楽器を使って、お小遣いがこれくらいだからこういうものを持っているだろう、みたいな考証はやりました。電子音楽とかパソコンで音楽を作るとか、学生のお小遣いで買えるのはどんな楽器なのか、どういう接続で、どういうケーブルを使って、とか。

―ルイくんの衣装はニューロマンティックっぽいですね。

山田:ニューロマンティック的なところ、ありますね。でも、どちらかというとグラムロックとか昔の憧れのスターであるロックミュージシャン、というのがルイくんの中にあったイメージですね。それがワンセット全身揃う分を街のリサイクルショップですごく破格で売っていたから、テンションが上がってブーツまで買っちゃって、という感じなんです。

©2024「きみの色」製作委員会

山田「“〈好き〉を言う勇気”に焦点を当てている」

―トツ子のリアルな体型がとても良いと思っていまして、ほかにもやす子さんが声優で参加されたさくちゃん役や、トツ子よりぽっちゃりしている子も可愛らしく描かれていて、ああいったキャラを描かれるのは女子高生たちに自信を持ってほしいという気持ちがあるからなんでしょうか。ほっそりした女子ばかり見ていると、自己否定的になったり思春期やせ症になってしまったりと長いこと問題になっているのに、アニメの女性っていまだにみんなほっそりしていますよね。『きみの色』は、いい感じに健康的な感じがしまして。

山田:この作品の裏テーマというか、いまは何でもカテゴライズされることが多いですよね。ルッキズムもそうですが、SNSなどが出てきて(画像の)加工とかもできて、他人と自分を比較しやすい状況があって、“イメージに当てはまっていない自分”をすごく否定してしまうような流れがある。そういう、なにか息苦しいところから一歩外に出たときの魅力を伝えたり、“型にはまらないこと”への応援をしたかった。自己否定って、いまの時代より強くなっている気がするんですが、「そのまんまでどんなに魅力的でしょう」と言いたいし、「こんなに魅力的なんですよ」ということを描きたかったんです。ちょっとした社会派アニメーションです。

©2024「きみの色」製作委員会

―「“好きなものを好き”といえるつよさを描いていけたら」というステートメントを出されていて、それが本当に素晴らしいと思ったんです。「好き」と言えるっていうことは、嫌いなものにもちゃんと「ノー」と言えるっていうことじゃないですか。そういうことが言えないから、若い人たちが自分の不満をちゃんと口にできなかったり、投票をいいかげんにしてしまったりすることが増えているのかなっていう気がしまして。

山田:そうですね。(好きなものを好き、嫌いなものを嫌いと言うことの)どちらも勇気がいることかなと思うんですが、「嫌い」の方がむしろ言いやすいかもしれなくて。「好き」を言ったときには否定されるのが怖いし、「なんか“嫌い”って言ったほうが楽」みたいなこともありそうな気がしていて。なので、今回は“「好き」を言う勇気”に焦点を当てているんです。ネガティブな言葉の方が広まりやすいし、共感もされやすいかなと常日ごろ思っていて、ポジティブさって伝わりにくいので、そっちを強く出したいなと。

©2024「きみの色」製作委員会

―大事なことですよね。きみちゃんがオブジェをメトロノーム代わりにして、かなりストイックに練習したりしているシーンもよかったです。最近はフェンダー(※Fender/アメリカの楽器メーカー)がメタバースで誰でもギターを楽しめるサービスを展開したりていますが、一方では頑張って練習して弾けるようになる肉体的な喜び、みたいなこともあるかと思います。そういうことも意図されて、あの場面を入れられたんでしょうか?

山田:そう言っていただけて気づくこともたくさんあるんですが、やっぱり肉体的・能動的に動くことって減ってきていて、なんでもアプリでできちゃったりするし、ひさしぶりに縫い物や編み物をしたときに「あ、手の動かし方こうだった!」とか、ふと気づくこと、思い出したりすることがあって。その感覚の立体感にやっぱり感動するというか、「これだった!」みたいな実感として、達成感としてすごく残るものだなと思うので、ギターをぜひ弾いて欲しいなって考えました。……こういうことを電子音楽家の前でね(笑)。すべて“脳にしたい”人の前で。

牛尾:まあ、最終的に脳だけになります(笑)。多分“そっち派”だと思うので。

山田尚子監督

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『きみの色』

高校生のトツ子は、人が「色」で見える。嬉しい色、楽しい色、穏やかな色。そして、自分の好きな色。
そんなトツ子は、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・きみと、街の片隅にある古書店で出会った音楽好きの少年・ルイとバンドを組むことに。

学校に行かなくなってしまったことを、家族に打ち明けられていないきみ。
母親に医者になることを期待され、隠れて音楽活動をしているルイ。
トツ子をはじめ、それぞれが誰にも言えない悩みを抱えていた。

バンドの練習場所は離島の古教会。
音楽で心を通わせていく三人のあいだに、友情とほのかな恋のような感情が生まれ始める。

周りに合わせ過ぎたり、ひとりで傷ついたり、自分を偽ったり――

やがて訪れる学園祭、そして初めてのライブ。
会場に集まった観客の前で見せた三人の「色」とは。

監督:山田尚子「映画 聲の形」「リズと青い鳥」「けいおん!」「平家物語」
声の出演:鈴川紗由 髙石あかり 木戸大聖 / やす子 悠木碧 寿美菜子 / 戸田恵子 / 新垣結衣

脚本:吉田玲子「猫の恩返し」「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」「若おかみは小学生!」
音楽・音楽監督:牛尾憲輔「映画 聲の形」「チェンソーマン」
主題歌:Mr.Children「in the pocket」(TOY'S FACTORY)
キャラクターデザイン・作画監督:小島崇史
キャラクターデザイン原案:ダイスケリチャード

制作年: 2024