VSネイティブ・アメリカン!『プレデター:ザ・プレイ』
※物語の内容に一部触れています。ご注意ください。
シリーズ最新作『プレデター:ザ・プレイ』では、新種のプレデターが1719年の北アメリカに現れ、コマンチ族の前に立ちはだかる。監督は『10 クローバーフィールド・レーン』(2016年)、『ブラック・ミラー』の第9話「拡張現実ゲーム」(2016年)、『ザ・ボーイズ』(2019年~)では製作総指揮&監督を務めるダン・トラクテンバーグ。
本作の脚本も担当する彼が、物語の着想を得たのは小学3年生の時。『プレデター』1作目が公開された年である。当時、幼いために1作目を観ることができなかった彼は、映画を観た上級生からストーリーを教えてもらう。その時に聞いた、ダッチの部下でネイティブ・アメリカンの戦士ビリー(ソニー・ランダム)が、丸太橋の上でプレデターと1対1の対決をする……という展開に猛烈に感動した彼が、「ネイティブ・アメリカンの戦士がプレデターと戦う映画を作ったら最高かも!」と思いついたことから本作は誕生した。
ちなみに、1作目の公開から本作配信までの間に作られた、プレデターがネイティブ・アメリカンと戦うコミック作品が存在する。この「プレデター:ビッグ・ゲーム」(1991年)では、ネイティブ・アメリカンの陸軍兵士イノック・ナカイと対決。この戦いに勝利したナカイは、その後のコミックに幾度も登場している。
PREDATOR: BIG GAME (1991) Cover Art by Chris Warner pic.twitter.com/laFOjRhbTQ
— ULTRA💀BLAST (@ultrakillblast) February 17, 2018
“リアル”にこだわり抜いた原始的プレデター
ダン監督は、構想に35年かけた本作に登場するプレデターのデザイン&設定にも尋常ではない気合とアイデアを注いでいる。まず今回のプレデターは、海外では「フィアラル・プレデター」、直訳すると“野生のプレデター”と呼ばれていて、「本作のプレデターは、デザインから動きに至るすべてを、これまでのプレデターよりも野性的で獰猛な野獣のようにしたい」というダン監督のアイデアからデザインがスタートした。さらに彼は、コンセプト・アーティストにデザインを発注する際に、以下のような条件を出している。
「ひと目見て、これまでのプレデターよりも古い時代の存在であることがわかるデザインにする」
「これまでのプレデターよりも生物感があり、異質な感じを出す」
そんなフィアラル・プレデターのデザインとスーツ造型は、『AVP』シリーズや『ザ・プレデター』(2018年)でクリチャー・デザインとスーツの造型を手がけた<スタジオADI>が担当。このスタジオを設立したアレック・ギリスとトム・ウッドラフ・Jrは、スタン・ウィンストン・スタジオ出身で『プレデター』に参加した、由緒正しいクリエイターである。アレック・ギリスはフィアラル・プレデターのデザインについて、以下のように語っている。
監督は、プレデターが今まで以上に恐ろしい存在になることを望んでいた。そこで私たちは、プレデターがネイティブ・アメリカンに伝わる精霊ウェンディゴのような、彼らの民間伝承の悪霊のルーツに成り得るか? ということから話をした。この時の話が、今回のプレデターの方向性に影響を与えた。
さらにダン監督は、クリーチャーのデザインが解剖学的に正しいものであり、皮膚の質感、顔の形状等のすべてに、そうなっている理由を求めた。その結果、今回のプレデターは「気温が高く乾燥した地域に棲む種族で、環境に適応するために、従来のプレデターとは違う姿になった」という設定になった。この方向性に基づいて、
・乾燥した気候に適応するために肌はウロコ状になっている。
・あらゆる生物を骨ごと噛み砕いて食べるために、奥歯は大きくなっている。
・せり出した額には熱を感知する器官があり、マスクはその器官に反応する仕組みになっている。
などの細かい設定も決まり、ひと目見て新種とわかる魅力的かつ醜悪な顔のプレデターが誕生しようとしていた。だがダン監督には、まだ懸念していたことがあった。
今までのプレデターは頭が大きすぎて、解剖学的に正しいデザインではない……。
Predator 5 may skip a theatrical run in favor of VOD release on Hulu: https://t.co/1bQp514gGW #Predator #Predator5 #Skulls pic.twitter.com/Bz39Y1u77W
— Badlands (Predator 6) (@predatormovie) June 15, 2021
彼は身体のバランスが正しいだけでなく、可能な限りスリムなボディのプレデターを望んだ。『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』(2007年)のウルフ・プレデター以上にスリムなプレデターを。そのため、一時はスーツアクターを務める2メートル6センチの元バスケ選手デイン・ディリエグロに、プレデターの筋肉がプリントされたレオタードを着せて撮影することも検討された。しかし、試してみたら変だったのでボツにした。
最終的にはスーツを使うことにした。しかし、従来のようにスーツアクターの視界を確保するのぞき穴をマスクに作ることはしなかった。頭部が仮分数チックに大きくならないために、のぞき穴を首の部分に作った。この仕組みによって、フィアラルが基本的に前かがみの姿勢になり、より不気味な存在となった。
#PreyMovie Concert Art: Feral Predator by Michael Vincent Eppinette! https://t.co/mLw53FKSbl pic.twitter.com/l4SlvmcqCW
— Badlands (Predator 6) (@predatormovie) August 19, 2022
フィアラルが装備する原始的ウェポンの秘密
野性的なフィアラルは狩りの際、これまでのプレデター以上に接近戦を好む。劇中、狼や灰色熊と対峙した時、飛び道具を使わずガチンコ勝負を繰り広げていた。そんな彼の戦い方を反映して、武装スタイルは今まで以上にシンプルなものになっている。これも、ダン監督の「これまでのプレデターのようにアーマーをあまり装着させない」という意向に基づいたものだ。
そのためフィアラルは両腕のガントレット、股間を防護する草摺以外のアーマーは装着していない。さらに言うと、年中猛暑のような惑星で暮らすプレデターが、どんな環境にも適応できるように保温機能を搭載した鎖かたびらのようなボディメッシュも装着していない。
フィアラルが使う武器も、「これまでの映画に登場した物よりも古いテクノロジーで作られているのにしたい」というダン監督の意向に基づいてデザインされた。まずは、プレデターの武装の象徴でもあった肩に装着するショルダー・プラズマキャノンを装備しないことに。プラズマキャノンは、バイオバスクに装備された3点の赤い光を放つレーザーサイトと連動しいたが、今回はボルトガンと呼ばれる、3本のニードルを発射する原始的なウェポンと連動する設定にした。
そして本作で初登場する装備品は、伸縮だけでなく分割も可能なスピア(槍)、扇のように展開して武器にもなるシールド、高熱を発する蛇腹剣のようなナイフ、ターゲットのボディを細切れにする手投げ式ネット弾、トロフィーとして持ちかえった骸骨を綺麗に仕上げるガスなど近接格闘に使用する武器が多い。これらの武器を使う時のフィアラルは、いちいちキメをトッピングした戦闘スタイルを披露してくれるところも素晴らしい!
これまでと同じ装備品は、右腕に装備した2連の刃が飛び出すリストブレイド、医療キット、そして両腕に装着したリストガントレット。左腕のガントレットには、爆弾を搭載しており、1作目の時に原爆に匹敵する破壊力を備えている設定だった。本作のバージョンは、3基のドローン機雷チックな爆弾を搭載しており、威力もそれほどではない。
そして狩りの時に全身を隠す光学迷彩も従来のものほど精度は高くない。ちなみに光学迷彩といえば1作目の撮影の時スタッフは、木から木へと軽やかに飛び移るプレデターを撮影するにはどうすれば良いのか? と悩んだ末、猿に合成用の赤いスーツを着せて撮影すれば良いんだ! という斬新すぎるアイデアを思いつく。早速、彼らはトライした。が、猿を木に放つと、あっという間にジャングルの遥か彼方に逃亡して大失敗……。最終的にはロスのスタジオで、赤いスーツを着た体操選手を撮影してジャングルの映像に合成した、という素敵な逸話を残している。
意外な小道具秘話&モヤっとポイント、そして次回作への期待
『プレデター:ザ・プレイ』でファンがグッと来たシーンのひとつといえば、プレデターに勝利した主人公ナル(アンバー・ミッドサンダー)が持ち帰ってくるフリントロック・ピストルだろう。ピストルには「ラファエル・アドリーニ 1715年」という刻印があることから、『プレデター2』(1990年)のラストで、エルダー・プレデターに戦士として認められたマイク・ハリガン警部補(ダニー・グローヴァー)がもらった粗品と同一の物であることがわかる。
このピストルにまつわる逸話は、1996年に発表された短編コミック「プレデター:1718」でも描かれている。そこでは1718年にアフリカ・ギニア沖の孤島に降り立ったエルダー・プレデターが、勇敢な海賊ラファエル・アドリーニから譲り受けた銃として描かれており、ファンも長い間、それが公式の設定だと思っていた。
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— 豆魚雷 (@mamegyorai_jp) March 25, 2019
しかし、本作に登場するラファエル・アドリーニ(ベネット・テイラー)は、海賊ではなくヘタレのフランス人通訳……。『プレデター2』のピストルを登場させるアイデアは、ダン監督が本作の舞台を1719年にした時に思いついたそうだが、彼は「プレデター:1718」の存在を知らなかった。そのため、本作によってピストルの設定は更新され、上記の設定はなかったことに……。
そんな本作は当初、『プレデター2』に使用された小道具のピストルを使おうとした。しかし、スタジオの倉庫を探した結果、ピストルが保管されていないことが判明……。登場させるには小道具係が新たに作るしかない。が、同じものを作るのは、どう考えても難しすぎる……。そんな時、スタッフのひとりが『プレデター2』のピストルの精巧なレプリカを制作したYouTuberを発見! 早速その人物にピストルを借りて撮影したという。
ピストルといえば、ものすごくモヤモヤするのは、映画のラストでプレデターではなく、ナルの手に渡ったこと。しかも、本作のエンドクレジットのアニメでは、プレデターの宇宙船が再び地球にやって来るところで終わっている……。いったい、この後どうやってエルダー・プレデターがピストルを入手するんですか!? という最大の疑問を残す本作だが、ダン監督の頭なの中には、すでにその答えがあるという! それなら一刻も早く続きを作ってください!
ついでにもうひとつだけお願いさせてもらうと、『ザ・プレデター』(2018年)のラストに登場した、めちゃくちゃカッコいい対プレデター用アーマーのプレデター・キラースーツが大活躍する作品も作ってください!
【前編:『プレデター』濃厚解説! ディズニープラス『プレデター:ザ・プレイ』鑑賞前に知っておきたいシリーズAtoZ】
文:ギンティ小林
『プレデター:ザ・プレイ』はディズニープラス「スター」にて2022年8月5日(金)より独占配信中
『プレデター:ザ・プレイ』
300年前のコマンチ族の世界が舞台。大平原をさすらう伝説のハンターの元で育った、勇猛で高い技術を有する若き女性戦士ナルの物語。
監督:ダン・トラクテンバーグ
脚本:パトリック・アイソン
出演:アンバー・ミッドサンダー
ダコタ・ビーヴァーズ デイン・ディリーグロ
ミシェル・スラッシュ
制作年: | 2022 |
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