耳掃除や膿の除去動画を好んで観る人々は多い。「まさか!?」と思うなら、YouTubeで“Ear Wax Removal”や“Drainage of an Abscess”で検索してみるといい。軽く200万を越える再生数を誇る各種動画が見つかるだろう。体内に蓄積された“不要物”が摘出される様は気持ち悪い一方、なぜだかスッキリするのだ。
『ザ・シスト 凶悪性新怪物』は、そんな“キモスッキリ”感に目を付けた、変態化物映画だ。
人体から生まれた凶悪性新怪物“膿クン”
時は1960年、とある田舎町の小さな皮膚科医院。医院長のガイはオデキ治療のレーザー医療器具“ゲット・ゴーン”(「あっちいけ」とか「消失」の意味)の開発に熱中していた。しかしこのゲット・ゴーン、放射性物質を用いた強力かつ非常にアブナイもの。看護師パトリシアの制止も聞かず、ガイは来訪した特許庁役人にアピールするため人体実験を行う。すると被験者の体は崩壊、凶悪性新怪物が爆誕! 院内の人間を次々と襲うのであった。
巨大な嚢胞から膿がビュビューっと飛び出す描写が連発。そして、常にいがみ合い殴り合いをしているガイとパトリシア。馬鹿馬鹿しさと気持ち悪さの両立に、こみ上げる笑いと吐き気。極めつけにキモカワ着ぐるみの凶悪性新怪物こと“膿クン”である。
グロ/ゴア描写も満載。鳥肌ものの膿メイクはもちろん、ゲット・ゴーンに体の中身を吸い取られ、内側に体がめり込んでしまったり、勢いよく飛ぶ膿汁によって首を飛ばされたりと期待を裏切らない。
プロットだけを聞けば変態の好事家向け映画に思えるが、旧ホラー映画へのオマージュに溢れた愛のある映画だ。意地でもCGを使わず、着ぐるみと“変な粘液”、血糊という徹底したアナログ主義を突き通す。監督のテイラー・ラッセルはフェイバリットに『遊星からの物体X』(1982年)、『ZOMBIO/死霊のしたたり』(1985年)、『ブロブ/宇宙からの不明物体』(1988年)を挙げており、この『ザ・シスト』も同一路線の映画である。
カルト俳優集結! 古き良きホラー映画好きは必見
“膿クン”の着ぐるみを担当したのは、着ぐるみを作り続けて20年以上の老舗<Tolin FX>。着ぐるみと馬鹿にすることなかれ、彼らは『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』(2019年)や『キャンディマン』(2021年)にもクレジットされている、確かな特殊効果技術班である。
加えて役者陣を、カルト映画俳優で固めているのもなかなか憎い。主演のガイ先生を演じるのは、怪作『トロル2/悪魔の森』(1990年)に出演しているジョージ・ハーディ。パトリシア役には最強のナチサメ映画『スカイ・シャーク』(2019年)のエヴァ・ハーバーマンだ。さらに、首に嚢胞を抱えてた老人役に『サクラメント 死の楽園』(2015年)で教祖を怪演したジーン・ジョーンズ。全員、膿汁のようなネットリとした芝居で楽しませてくれる。
特に「『トロル2』なんてバカな映画のおかげで人生を台無しにされた」と日頃から言っているジョージ・ハーディの、堂々たるマッド・サイエンティストぶりには感心させられる。逆に『トロル2』に出て良かったじゃないかと思うこと然りだ。
気持ち悪さが全面に押し出された作品だが、古き良きホラー映画好きは観て損はない一本。是非“膿クン”(キュー! キュー!と鳴くのだ)を愛でに劇場に足を運んで欲しい。
余談になるが、本作を配給しているエクストリームさんの宣伝担当さんが「どう宣伝していいのかわからない」と悩んでいるところに「フードコラボとかどうですか?」と筆者は声を掛けた。しかし「そんなことできるわけないじゃないですか! 売れませんし、みんな吐きますよ!」と返答されてしまった。ところが、先日○ター○ック○から“膿クン”にそっくりな季節限定スイーツが発売。担当さんが大喜びしてス○ーバッ○スに走ったのは言うまでもない。
文:氏家譲寿(ナマニク)
『ザ・シスト/凶悪性新怪物』は2022年9月16日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマロサ、新宿シネマカリテほか全国公開
『ザ・シスト/凶悪性新怪物』
この怪物は、ズバリ、“おでき”から生まれたモンスター。膿汁を噴出し、人間を喰い殺すこの醜悪な怪物は、マッド・サイエンティストが開発した腫瘍治療器の暴走で誕生し、診療所を惨劇の地獄へと叩きこむ。
監督:タイラー・ラッセル
脚本:タイラー・ラッセル アンディ・シルヴァーマン
出演:エヴァ・ハーバーマン ジョージ・ハーディ
グレッグ・セステロ ジェイソン・ダグラス
制作年: | 2020 |
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2022年9月16日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマロサ、新宿シネマカリテほか全国公開