“聴く”バットマン上陸
映画最新作大ヒットも記憶に新しいDCコミックスの人気ヒーロー、バットマンを主人公にしたオーディオドラマ『BATMAN 葬られた真実』(原題:Batman Unburied)の配信が、音楽ストリーミングサービスSpotifyで始まった。これがまた、非常に“バットマンらしく”て面白い作品だった。
オーディオドラマ(ラジオドラマとも)は海外では根強い人気を持つフォーマットで、「スター・ウォーズ」や「ドクター・フー」などのドラマや映画のIP(知的財産)を使った作品も多数展開されており、「バットマン」も人気の題材となっている。
そして今回配信された『BATMAN 葬られた真実』は、『ダークナイト』などバットマンの映画シリーズの脚本で知られるデヴィッド・S・ゴイヤーが製作総指揮を務めた作品で、米国版を基に日本語を含む9言語で制作されている。バットマンのオーディオドラマ自体の歴史はかなり長く多数作られてきたが、日本語版での展開がされてこなかったので、これはファンとしては嬉しい翻訳展開となった。
映画やゲームシリーズでおなじみのキャラクターも登場
この作品の特筆すべきところは、なんといっても変わり種なストーリーだ。バットマンといえば、若くして両親を失った億万長者のブルース・ウェインがバットマンとなって犯罪と欲望が渦巻く街ゴッサム・シティで悪と戦うという作品だが、この『BATMAN 葬られた真実』では大きく異なる。
この作品ではブルース・ウェインは法医学者として、父であるトーマス・ウェインが院長を務めるゴッサム・シティ病院で働いているのだ。そんな彼が人を喰らう猟奇連続殺人犯、ハーベスターの犠牲者の検死を始めるところから物語が始まる。
また、バットマンはゴッサム・シティから姿を消しており、刑事のバーバラ・ゴードンが第二の主人公として、知能犯であるリドラーの助けを借りてハーベスターを追っていく物語となっている。
Can you solve the Riddler's puzzle? #NationalPuzzleDay pic.twitter.com/1k3fNt7nhC
— DC (@DCOfficial) January 29, 2018
というわけで、バットマンのオーディオドラマなのにしばらくバットマンは登場しない構成であり、設定も変わっているので映画のイメージで聴き始めた人はいきなり混乱してしまうかもしれない。しかし、これがおなじみの設定を上手く使った一つのトリックとして機能しているのだ。
説明だけ読むと奇抜だが、トーンとしては映画最新作の『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022年)にも近いミステリー作品で、コミックやゲーム「バットマン:アーカム」シリーズなどでもおなじみのヴィランも多数登場し、バットマンが登場するとちゃんとカッコよく派手なアクションシーンも展開される、実に“バットマンらしい”作品なのだ。
また、有名ヴィランが登場しても、その姿からはすぐには分からなくなっており、視覚的な情報がないオーディオドラマの利点を活かしているのが面白いところ。脚本には人気のコミック作家であるサラディン・アーメッドも参加しているからか、個人的には映画というよりもコミックのバットマンに近い作品であるように感じられた。
大谷亮平、中島美嘉、岩田剛典、松井玲奈らキャストの本国版に肉薄する好演
キャストは、英語版ではバットマン役を『ブラックパンサー』(2018年)のエムバク役で知られるウィンストン・デュークが演じ、その他にもハリウッド俳優が多数参加している。日本語版ではバットマンは『逃げるは恥だが役に立つ』の大谷亮平が演じ、中島美嘉、岩田剛典、松井玲奈などが出演している。
声優ではない人を起用したオーディオドラマはクオリティが低いことが多く、最近のコミック作品のオーディオドラマ化でもそういうケースがあったので心配していたが、『BATMAN 葬られた真実』では杞憂に終わった。
大谷亮平のバットマンはベテランの雰囲気が出ていて、元のウィンストン・デューク版にも近いイメージとなっていたし、ストーリー上の重要キャラクターとなるリドラー役の岩田剛典は、(映画『ザ・バットマン』とは違う)リドラーの芝居がかった高慢さと軽妙な雰囲気を見事に演じていた。なんなら英語版のハサン・ミンハジを越えている。主役を食うレベルのキャラクターの描かれ方を含め、このリドラーのためだけに一聴の価値ありだ。
ちなみに近年、Spotifyは「反ワクチン」陰謀論を取り扱ったポッドキャスト『ジョー・ローガン・エクスペリエンス』の配信を取りやめないなど批判を浴びているが、それはそれとして今回『BATMAN 葬られた真実』の日本語版配信を行ってくれたところは、オーディオドラマ・ファンとして大きく評価したいところだ。今後もバットマンに限らず、色々なオーディオドラマを日本展開していただきたい。
各話30分前後、全10話ということで6時間くらいのボリュームにはなるものの、聴きながら他の作業をしやすいのもオーディオドラマの魅力。Spotifyで全編無料でも聴くことができるので、気になったらまずは聴いてみて欲しい。
文:傭兵ペンギン
『BATMAN 葬られた真実』はSpotifyで独占配信中
『BATMAN 葬られた真実』
近頃現れた猟奇連続殺人犯“ハーベスター”がゴッサム・シティを恐怖に陥れている。しかし何故かバットマンは現れない。実はブルース・ウェインは自分がマントを羽織った救世主であることを忘れているのだ。ブルースは法医学者の病理学者だ。殺人犯による新たな犠牲者の検死を行っていたが、突如自らもハーベスターに襲われてしまう。ますます犯人に執着するようになるブルースだったが、その息子の様子を見たゴッサム・シティ病院院長のトーマス・ウェイン医師は、息子は療養休暇を取り、奇妙な心理学者ハンター博士のもとで治療を始めることが必要だと判断する。その頃、バットマンに頼ることができないバーバラ・ゴードン刑事は、このゴッサム・シティで2番目に賢い探偵に助けを求めることになる……そう“リドラー”だ。
エグゼクティブ・プロデューサー:デヴィッド・S・ゴイヤー
声の出演:大谷亮平 中島美嘉 岩田剛典 松井玲奈
中島歩 小手伸也 伊原剛志 鈴木杏樹
制作年: | 2022 |
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