2018年の日本公開作品&「インド映画国内興収トップ10」を振り返る
2018年の日本では、『バーフバリ 王の凱旋』(2017)の大ヒットを筆頭に、 『ダンガル きっと、つよくなる』(2016)、『マガディーラ 勇者転生』(2009)、『ガンジスに還る』(2016)、『パッドマン 5億人の女性を救った男』(2018)とインド映画の公開が続いた。『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995)のデジタルリマスター版公開や、仕切り直して2018年1月に正式公開となった『クイーン 旅立つわたしのハネムーン』(2014)、ドキュメンタリー映画『人間機械』(2016)と『あまねき旋律(しらべ)』(2017)、そして『バーフバリ 王の凱旋』完全版上映も入れると、計10本が上映されたことになる。
一方インド本国では、2018年の国内興収トップ10は次のような結果になった。
1.『2.0(ヴァージョン2.0/『ロボット』の続編)』(タミル語)
監督:シャンカル
主演:ラジニカーント、アクシャイ・クマール
2.『SANJU/サンジュ』(ヒンディー語)2019年6月15日(土)日本公開予定
監督:ラージクマール・ヒラニ
主演:ランビール・カプール、ソーナム・カプール
3.『パドマーワト 女神の誕生』(ヒンディー語)2019年6月7日(金)日本公開予定
監督:サンジャイ・リーラ・バンサーリー
主演:ディーピカー・パードゥコーン、ランヴィール・シン
4.『Simba(シンバー)』(ヒンディー語)
監督:ローヒト・シェーッティー
主演:ランヴィール・シン、サーラー・アリー・カーン
5.『K.G.F:Chapter 1(コラール金鉱地域:第1章)』(カンナダ語)
監督:プラシャーント・ニール
主演:ヤシュ、シュリーニディ・シェッティ
6.『Race 3(レース3)』(ヒンディー語)
監督:レモ・デスーザ
主演:サルマーン・カーン、アニル・カプール
7.『タイガー・バレット』(ヒンディー語)~DVD発売済み
監督:アフマド・カーン
主演:タイガー・シュロフ、ディシャー・パターニー
8.『Sarkar(政府)』(タミル語)
監督:A.R.ムルガダース
主演:ヴィジャイ、キールティ・スレーシュ
9.『Rangasthalam(舞台)』(テルグ語)
監督:スクマール
主演:ラーム・チャラン、サマンサ・アッキネーニ(サマンサ・ルス・プラブ)
10.『Badhaai Ho(おめでとう)』(ヒンディー語)
監督:アミト・ラヴィーンドラナート・シャルマー
主演:アーユシュマーン・クラーナー、サニャー・マルホートラー
すでに日本でDVDリリースされていたり、公開予定作品が複数あるのは心強い。
2019年も話題のインド映画の公開が続々決定!
『SANJU/サンジュ』は、大スターの両親に愛されて育ったがゆえに、やんちゃでアブナイ人生を歩むことになってしまった実在のスター、サンジャイ・ダットの伝記映画。彼の人生を見事に普遍化し、親子の情、友愛、人間の弱さなどをユーモアをまじえて描く手腕は、さすが『きっと、うまくいく』(2009)のラージクマール・ヒラニ監督だ。
『パドマーワト 女神の誕生』は、13世紀末西インドの王国を題材にした、美しい王妃パドマーワティの物語。製作費は日本円に換算すると約35億円と言われており、壮麗な歴史絵巻を見ることができる。日本公開作品はこのほか、フランス、ベルギーとの合作映画『クローゼットに閉じ込められた僕の奇想天外な旅』(2018)、そして『Secret Superstar(原題)』(2017)、『Hindi Medium(原題)』(2017)なども予定されており、さらに増えそうな気配である。インド映画ファンには嬉しい限りだ。
インド映画ファンなら、上の「2018年国内興収トップ10」を見て、例年と違うと気づいたことだろう。「3大カーン」と呼ばれるアーミル・カーン、シャー・ルク・カーン、サルマーン・カーンの主演作のうち、トップ10に入ったのはサルマーン・カーンの『Race 3』だけなのだ。トップ20にまで広げると、アーミル・カーンの『Thugs of Hindostan(インドのタグたち)』、シャー・ルク・カーンの『Zero(ゼロ)』も入ってくるのだが、約30年間、ヒンディー語映画界=ボリウッドを基盤にインド映画界に君臨してきた「3大カーン」も、存在感が薄れつつあるようだ。
ボリウッド映画以外の南インド諸言語の映画がトップ10に入るのも、もう常態化したが、2018年は珍しくカンナダ語映画がランクインした。南インド諸言語の映画では、『ムトゥ~』を生んだタミル語映画と、それに続く『バーフバリ』のテルグ語映画が常にリードしてきたのだが、カンナダ語映画も初めて国内興収18億ルピー超え(約30億円)の作品『K.G.F~』を生み出し、注目が集まっている。
あと、ムンバイの映画関係の友人たちが指摘するのは、低予算映画の健闘ぶりだ。トップ10にランクインしている『Badhaai Ho(おめでとう)』のように、製作費が3億ルピー(約5億円)前後の作品がその数倍の興収を挙げる例が相次いでいるという。『Badhaai Ho』は25歳の青年が主人公で、50歳近い両親に子供ができてしまったことから、一家や周囲の人々があわてふためく話である。ドタバタコメディーにはせず、若い世代、中年世代、そして老年世代も含めた庶民の人情の機微を丁寧に描いて、観客の大きな共感を呼んだ。
また、映画研究者の友人が勧めてくれたのは、『Andhadhun(盲目のメロディー)』で、2013年に撮られたフランスの短編映画を基にした緊迫のサスペンス作品だ。ほかにもホラー風味の『Stree(女性)』等、興行的にも成功し、賞獲りレースでも実力を発揮している作品が次々と現れている。
文:松岡環