イギリスならではの風刺が効いたSFホラー!
『KKKをぶっ飛ばせ!』(2020年)や『ハングリー 湖畔の謝肉祭』(2020年)といった良くも悪くも“突き抜けた”イギリス映画を我々に喰らわせてきた配給会社エクストリームが、またもや不思議なホラー映画を買い付けてきた。その名も『クリーチャーズ/宇宙から来た食人族』!
毎度ハッタリの効いた売り文句で楽しませてくれるエクストリームさん。今回は「『グレムリン』『ミニオンズ』『マーズ・アタック!』『ウォーキング・デッド』、映画史に残る傑作SFホラーのエッセンスを満載したスーパー・エンタテイメント巨編!!」とのことである。筆者調べによると、監督のトニー・ジョピア自身も「これはね、『グレムリン』meets『キル・ビル』meets『ショーン・オブ・ザ・デッド』なんだよ!」と言っているものだから、作る方も売る方もハッタリが過ぎて心配になってくる。――いつものことだけれど。
例によって低予算ホラー映画なのだが、こういった作品の楽しみ方は人それぞれ。作り手の熱量や低予算ならではの器用な撮影方法を楽しむ人もいれば、雑さや稚拙さを笑って楽しむ人もいる。それを知ってかしらぬか、エクストリームさんは双方に楽しんでもらえる作品を毎回厳選してくださっている。
今回の『クリーチャーズ/宇宙から来た食人族』はどうだろうか。イギリスならではの風刺の効いた脚本が楽しく、かつクリーチャーが本当に可愛い。その上、日本人俳優が大活躍とあらば、期待値は爆上がりだ!
ひときわ異彩を放つ日本のツンデレ・ヤクザガール!
舞台はイギリスの田舎町。天文学部の大学生達が流星群の観測のため、貸切バスで田舎道をひた走っている。ところが羊を轢き殺すアクシデントが発生。途方に暮れている彼らの頭上を流星が流れていく。「お、一応見れたじゃん!」と思いきや、この流星群。わる〜いエイリアンの群れだったのだ。しかもこのエイリアン、食った人間をゾンビ化し意のままに操る能力を持っていた。
次々と犠牲者が出る中、学生たちはエイリアン達の弱点を知る可愛いエイリアン“マンピー”と出会う。どうやら悪いエイリアンは、このマンピーを追っている様子。マンピーと共に田舎町の屋敷に逃げ込んだ学生らは、マンピーと力を合わせて悪いエイリアンに対抗するのだが……。
体育会系から生真面目さん、差別主義者におバカな教授、極め付けは刀をブン回すヤクザガールと、学生たちのキャラクターが濃い! さらに日本語だと響きがアレなマンピーが、やたらと可愛い。そこにイギリスらしいブラックジョークが炸裂し、人体破壊やアクションが繰り広げられるのだ! マンピーを含め、エイリアンたちはCGに頼らずしっかりとしたパペットなのも好感が持てる。
ジョピア監督は、これまで『ザ・ランペイジ』(2015年)や『キュート・リトル・バニーズ』(2017年)といった“お察し案件”SFホラーを送り出してきたが、本作はさらにナンセンスだ。そんな本作の推しポイントは、刀をブン回すキレッキレのツンデレ・ヤクザガール、アカネ。演じているのは『冷たい熱帯魚』(2010年)や『クロネズミ』(2010年)に出演していた斎藤莉奈さん。彼女の見事なアクションが大きな見どころとなっている。
今回は特別に斎藤莉奈さんにインタビューする機会をいただいたので、撮影や渡英に関してお話を伺ってきました! 本作の撮影はコロナ禍直前の2020年2月。撮影を終えた途端、ロンドンがロックダウンされて大変な目に遭ったとのことだが、得るものも大きかったとのこと。さてさて……。
「一匹狼で沈着冷静、理性的なヤクザの少女です」
―失礼ながら、初っ端からズバリ聞いてしまいます。なぜ『クリーチャーズ/宇宙から来た食人族』などという映画に出演しようと思ったのですか?
(笑)。イギリスには俳優が自由に登録できるプラットフォームがあるんです。私もそこに登録しておりまして、そこで『クリーチャーズ』のキャスティングの方から声をかけられてオーディションを受けたのが始まりです。日本人限定で募集をしていたんです。
―日本人なのは当初から決まっていたんですね。刀やアクションが似合うヤクザガールを探していたということですか?
そうです。私自身、アクションに興味がありましたし、プロットを伺ってみたら「はちゃめちゃ感」がとても楽しいと思いまして。とにかく日本人であれば……ということで、世界中に声をかけていたみたいです。
―世界中となると、結構な応募があったのでは?
誰でも応募が可能でしたから、1000人規模と伺っています。
―1000人! 狭き門だったのですね……。そんな中、手にしたヤクザガールのアカネ役ですが、海外の低予算ホラー映画で日本人がフィーチャーされるのは、かなりレアケースだと思います。その辺はいかがですか?
日本の文化が間違って伝わらないよう、かつ魅力的に伝える責任感、みたいなものはありました。とはいえ「日本人は誰でも車を直せる」などと台詞で言ってしまっていますが(笑)。
―斎藤さんだけアジア人というキャスティングで、かつツンデレで浮いた存在として描かれています。特別な演技指導などはあったのでしょうか?
ツンデレ設定は元からでして……。まず日本から、監督と電話で2時間ほど脚本の読み合わせとキャラの認識合わせをしました。それから渡英して、撮影に挑んだ形です。演じ方は基本的に任せていただきましたね。一匹狼なんですけど、沈着冷静で理性的。ヤクザだけに命の重みを知っていて、いざという時に優しさを見せる素敵な役柄と解釈して演じています。殺陣は専門の方にご指導いただいて、楽しかったです! アカネのキャラを生かしたアドリブもやっていますよ! どこかは観てのお楽しみです(笑)。
―おバカな学生の中では、一番優しくて強いヒーローみたいな役ですよね。でも、衣装がとても印象的で……。どうして白のスキーウェアなんでしょうか? 衣装合わせの様子は?
衣装は、あれ一択です。
―え、一択だったんですか!?
はい、用意されていたのはあれだけでした。刀を振り回しますし、監督はキル・ビルを意識されていて、あちらが黄色ならこちらは白だと(笑)。
これは私の考えなのですが、アカネって最初はとっつきにくい冷たい子じゃないですか。“アイスクリン”とか呼ばれていますし……。そのわりに純粋な部分もあったりとか。そんなイメージに、白い衣装は効果的だったのでは? と思っています。
―血も映えますしね!
そうですね(笑)。
「ゾッとしながらも、しっかりと笑って観ていただけたら!」
―話は変わりますが、作中、イギリスらしい皮肉の効いた差別的な台詞が多数登場します。そんな中、現場の雰囲気はどんな感じだったのでしょうか?
かなり仲が良かったですよ! 他愛のない話もするのですが、一番日本と違うなと思ったのはディベートですね。
―ディベート、ですか!?
キャストが車座になって、社会問題について話し合うんです。例えばアメリカの死刑問題について、お互いの考えを述べるとか。色々な問題を自分のことのように捉えて、真摯に話し合うんです。そうやって個々の理解を深めていく感じでしたね。その上でお互いを尊重しあって映画作りをしていく……これはとても印象的でした。
―完成した映画とは違った固い雰囲気が……。
いえいえ、もちろん雰囲気はウェルカムですよ! 常にピースフルにいこう! という意識を持っているんですよね。誰かがミスをした時も「ナイス!」なんて言ってみたり。あ、ときどき皮肉混じりの時もありますけど(笑)。
―イギリスっぽい!(笑)。ストレートにものを言わないですよね。
イギリスは笑いにシビアな文化なんですよね。『クリーチャーズ』で頻繁に登場する差別的な台詞も「これは笑ってはいけないことだ」と思いながらも面白がっている。互いに気を遣う文化があるからこそ、センシティブな話を笑いに昇華しているんだと思います。
―イギリスも移民問題、貧困問題を抱えながら、さまざまな出来事を踏まえて今があるのですね。だからお互いを思いやるため、理解するために休憩時間にディベートを行ったりすると。なるほど納得です。では、斎藤さん自身のキャリアについて伺います。プロフィールを拝見すると芸歴が15年! とても長いですね。
13歳の時に「セブンティーン」の専属モデルのファイナリストになったんです。それがきっかけで事務所に入りました。そこで「君は声が低いから女優がいいんじゃない?」と言われて、そこから始まりました。
―最初からグローバルな活動を視野に入れていたのですか?
とんでもないです! まさか海外の作品に出演するとは考えてもみませんでした。絶対に無理だと思っていたので……。でも、ある人に「有名になりたいならハリウッド映画一本でいけばいいんだよ!」と言われてから意識し始めました。通っていた学校もグローバル教育に力を入れていて、中学高校と英語を使うブロードウェイ・ミュージカルを演じる部活に入っていたんです。オーストラリア公演もやらせていただいて。その経験もあってか、じゃあいっそ海外に行っちゃおうかと。
―なんという思い切りの良さ! でも、なぜハリウッドではなくイギリスを選んだのでしょうか?
理由は2つあります。1つ目は、イギリスだとイギリス映画だけでなくハリウッド映画のオーディションも受けられるんですよ。
―でも、ハリウッド映画だとSAG(アメリカの映画俳優組合)に籍がないとダメなのでは?
それが、実はイギリスで募集しているキャストだと大丈夫なんです。しかもフリーでも受けられてしまうのです。
―それは存じませんでした!
俳優志望のアジア人は、イギリスの方が少ないのでチャンスも多い。さらに受けられるオーディションは多く、自由度も高い。これはもうイギリスしかないなと。2つ目の理由は、私、動物が大好きなんです。イギリスは動物愛護の認識が強いので、そういった運動にも関われるかもしれないという思いがありました。
―某石鹸企業も動物実験に激しく反対していますし、なるほどです。イギリス、いいですね! 実は私、IMDBに名前が載っている隠れ役者なのですが、イギリスに行けば何かできるかな……。
それは行ったほうがいいですよ! 1週間も滞在していれば、何らかの役は掴めてしまうと思います。なんならオーディションもオンラインで日本にいながらできますし。
―いやいやいや、そんな簡単には!
それだけアジア……というか日本人の需要がイギリスにはあるんです。日本の文化への注目度が高くて、今とにかく募集が多いですね。
―行きたい人はどんどん行っちゃえばいい、という感じですか?
そうですね。基礎的な英語力は必要ですが、言葉は話せば伸びますから。多民族国家化も進んでいて、英語ができないことは珍しくない。だから多少、文法を間違えようが発音がおかしかろうが、寛容に話を聞いてもらえますよ。とにかくハードルは高くないので、チャレンジする気がある方はぜひ、なんらかのオーディションを受けて欲しいと思います。
―この記事を読んで、海外を視野に入れる役者さんが増えると嬉しいですね! では最後に『クリーチャーズ』の見所をお願いします。
えーっと……(笑)。とにかく色々な要素が散りばめられている作品になっているところかな。コメディ要素もありながら、グロテスクな描写もあって……手作り感も優しい感じで、マンピーも可愛いですし。ゾッとしながらも、しっかりと笑って観ていただけたら嬉しいです!
取材・文:氏家譲寿(ナマニク)
『クリーチャーズ/宇宙から来た食人族』は2022年6月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほか全国公開
『クリーチャーズ/宇宙から来た食人族』
小型宇宙船に乗ってやって来た宇宙を救うパワーを秘めた小動物型エイリアン“マンピー”と、それを追って巨大円盤型UFOでやってきた地球侵略を狙う邪悪な肉食エイリアン軍団。イギリスの片田舎を舞台に、たまたま天文台に研究旅行に訪れた大学生たちが、エイリアンとその手先となったゾンビたちから地球を救うために決死の戦いを繰り広げる!
監督・脚本:トニー・ジョピア
出演:ロマン・バルベ
斎藤莉奈
クリス・キリヤク
制作年: | 2021 |
---|
2022年6月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほか全国公開