紀里谷和明も出演! 短編『沙良ちゃんの休日』
俳優の山田孝之・阿部進之介、映画プロデューサーの伊藤主税らが中心となって展開している短編映画製作プロジェクト<MIRRORLIAR FILMS>。総勢36人の監督が手掛けた短編を4シーズン×各9作品に分けて上映する本企画が、Season3に突入した(2022年5月6日[金]より劇場公開中)。
これまで出演者としても安藤政信監督作『さくら、』(Season1)、紀里谷和明監督作『LITTLE STAR』(Season2)に参加してきた山田が、満を持して監督作を発表。プロデューサーとして参加した藤井道人監督作『デイアンドナイト』のスタッフ陣に加え、南沙良と紀里谷和明が出演する『沙良ちゃんの休日』だ。
道を歩いている男女。ふたりはどういう関係なのか? それとも無関係なのか? シンプルな作りながら、15分の中で飛躍していく本作。『ゾッキ』(2020年)に続く監督×出演となった山田と南に、話を聞いた。
「心情をわかりやすく伝える」山田孝之の演出術
―おふたりは『ゾッキ』で監督・出演者として初タッグ。当時の思い出を教えて下さい。
山田:南さんはめっちゃいい表情をするし、いいパンチを持っている人という印象です(※『ゾッキ』の劇中に、南がパンチを繰り出すシーンがある)。空気感が素晴らしいですね。
南さんに演じていただいた役は、藤村(松田龍平)の回想シーン。思春期あるあるかもしれませんが、好きという気持ちが芽生えている人に対して、ちょっといじってしまって傷つけてしまう、その会話シーンでもすごく絶妙な表情をするし、ミステリアスな空気を持った人だなと思って。今回も、「何を考えているんだろう」って探りたくなるけど探れない人がいいなと思い、声をかけさせていただきました。
南:山田さんは「いいパンチを持っている」と言ってくださいましたが、人を殴った経験がないので、どうしたらいいかわからなくて。でも、心情をわかりやすく伝えて下さるので、すごくやりやすかったです。今回もそうでしたね。
―『沙良ちゃんの休日』はセリフがほぼなく、ト書きが中心だったかと思います。より“心情を説明する”が効いてきそうですね。
山田:そうですね。例えば、カレーを食べるシーンは脚本には書いていませんが入れると決めていて、撮影時には「お店に入ったらボックス席が何席かあるけど、一人で来ているからカウンターに座る。でも、さっき道で見かけた人がいるから気まずい。だから端っこに座る。それでカレーが運ばれてきたら、なかなか食べたことのないような特殊な形のもので、どうやって食べたらいいかわからない。となると、横の人がどう食べだすか伺いません?」みたいに、そのとき何を思ってどうするか、といった感じで南さん・紀里谷和明さんにはお話ししました。
南:私は南沙良としてその場にいるので、基本的には何か準備をすることもなく、“無”でしたね。撮られている感覚みたいなものもあまりなく、なんだかとても新鮮な経験でした。
山田:言ってしまえば、お休みの日に歩いているだけですからね。南さんが今度オフの日にどこかへ出かけて、それを見かけた人がいたら「何か事件が起こるかも」と思っちゃうかもしれない。
数年前にメモしていたアイデアが発端
―ある種、ご自身がそのまま出る部分も多かったわけですね。スプーンの握り方などもそうなのでしょうか?
山田:あそこに関しては、脚本に書きました。僕は紀里谷さんと何年も仲良くさせていただいているのですが、以前、2人でピラフか炒飯を食べていた際に、「手の甲を上にして食べる」という特徴的なスプーンの持ち方をされていたんです。それがすごく記憶に残っていました。
もともと、男性側の演じ手を考えていた際に「色気があってミステリアスな人がいい」と思っていたんです。そこで何人か考えたのですが、やっぱり紀里谷さんしかいないと思ってお願いしました。
―紀里谷さんはSeason2の『LITTLE STAR』で監督として参加、山田さんが出演されていました。今回は逆ですね。
山田:『LITTLE STAR』を撮影する前には、もう紀里谷さんで決めていました。ただ脚本は渡しておらず、向こうの撮影と編集が終わった後にお渡ししました。
―南さんは、紀里谷さんと共演してみていかがでしたか?
南:「休日はどう過ごしてるの?」など、すごくたくさん話しかけていただいた記憶があります。
山田:南さんにすごく興味があったんでしょうね。かつ、ご自身が出演される“照れ”もあったんじゃないかと思います。
―今回の脚本は小寺和久さん(『デイアンドナイト』[2018年]『全裸監督』[シーズン2:2021年]ほか)と共作かと思いますが、どのように作っていったのでしょう?
山田:元々、女性と男性が前後の構図で歩いていて、片方が立ち止まって交錯するような、正面の画と横位置の画を作りたいなと思ってメモしていたんです。そこから、「男性が歩いているとバス停があって立ち止まる。それを追い抜いた女性が今度は道端に花を見つけてしゃがみ込み、また男性が追い抜く」という風に広げていきました。
次に、この二人の関係性をどうするか。やっぱり関係性が気になるじゃないですか。どういう関係なのか、それとも面識がないのか? 二人がどこに向かっているのか? 行動を起こすからには動機がある。それは何だろう? といったことを、ホワイトボードを前にして話しながら作っていきました。
―『ゾッキ』同様に「自然の中の人間を引きで撮る」カットが印象的でした。本作の撮影監督は今村圭佑さん(『デイアンドナイト』『余命10年』[2021年]『アバランチ』ほか)ですが、こちらは山田さんのカラーでもあるのでしょうか?
山田:単純にゆったり撮るのが好きですね。ひたすら人が喋ったり行動しているとそれを理解しようとするけど、ああいった間ができたときって、ふっと自分に戻る瞬間がある。人が歩いている姿をゆったり横位置で撮ったものを観ていると「自分だったらどう思うかな」と考える余白が生まれると思うんです。
ただ情報を与えるだけではなく、観たことによって自分のことを見つめ直し、人と「あれってどういうことだった?」と話すようなコミュニケーションのきっかけになる映画もあった方がいい、という想いで作りました。
山田孝之の新たなる挑戦:ヒット作は狙って作れるのか?
―南さんは映画誌でミニシアター探訪の連載をされています。今現在の映画館への想いを教えて下さい。
南:私は小さい頃から映画館が好きでよく通っていました。個人的な感覚ですが、やっぱり映画館で観ると情報がより入ってくるように思います。そして、映画館を出た後の帰り道は色々なものに敏感になっている気がして、すごく好きです。
中でも2本立てがすごく好きで、先日も早稲田松竹に行きました。すごく居心地が良い空間でした。
―山田さんは『デイアンドナイト』でプロデューサーを務め、『ゾッキ』や<MIRRORLIAR FILMS>シリーズと継続して活動を行われてきました。今現在の目標は?
山田:「ヒット作を作る」、これは伊藤主税プロデューサーと最近よく話していることです。過去の作品も様々な方が出資して下さってきましたが、大儲けする気はなくても、最低限みなさんに出資していただいたぶんは戻ってこないと赤字になってしまう。みなさん「それでもいい」という気持ちで参加してくださっていますが、同時に僕らは労働基準のことや分配についても常に話しています。リクープ(資金回収)できないと分配ができないので、ヒット作を作ることも考えていきたい。
ただ、そこに変な使命感があったりプレッシャーを感じているわけではなく、「ヒット作ってめっちゃ考えてやろうとしたら、できるのか?」を試したいという好奇心からの発想でもあるので、根本的にはこれまでと変わりません。<MIRRORLIAR FILMS>に関しては「発掘と育成」。これはクリエイターや俳優さん、ひいてはお客さんもそうです。クリエイターがどんな表現をしても、それを観てくれたりフォローしてくれる人がいないことには育たない。
<MIRRORLIAR FILMS>は1本につき9作品あるため、たとえば出演者のファンの方が観に来てくれて、「こんなクリエイターや俳優さんがいるんだ」と気づける場でもありますし。このプロジェクト全体に興味を持ってくれている方は、Season1、2と観てくださってきただろうし、そこで色々な発見や出会いがあったはず。だから僕たちはこれからも続けていきますが、それとは別で新しい挑戦もしていきたいと思っています。
取材・文:SYO
撮影:落合由夏
<MIRRORLIAR FILMS>Season3は2022年5月6日(金)より順次公開
『MIRRORLIAR FILMS』Season3
監督:井樫彩 Ken Shinozaki 野崎浩貴 林隆行 松居大悟
村岡哲至 山田孝之 李闘士男 渡辺大知
出演:善雄善雄 奈緒 夏子 二宮芽生 平野虎冴 藤原季節
南沙良 村岡魯檀 吉村界人 レイン・フラー
制作年: | 2021 |
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2022年5月6日(金)より順次公開